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その六

その六


「本当に暗い。まるで夜中だな。」


「見えた!あそこだよ!」


私の言葉はミリヤの発見によって遮られた。指先の方向を見ると、なにやら黒い煙が立ち登っているのが分かる。


(なんだあの機械は?それにこの大きさだと…)


「ああ、どうやら転送されてきた者は一人ではないらしい。」


私の表情から考えを察したナーガ様は、驚いた様に言った。


「ミリヤ、照明丸を頼む。」


「はいはい。隊長様。」


嫌みったらしく応えると、ミリヤは絨毯の上に置いてある大きな袋から林檎程の大きさの青い玉を取り出し、大きく振りかぶって上空に投げ飛ばした。

そして、頂点の高さに達した玉はその場で静止し、宙に浮いた。

「はい。てんと〜。」


ミリヤは袋から小さな箱を取り出し、蓋を乱雑に投げ捨てると、中にある小さなスイッチを押した。


次の瞬間、目が眩み、その場に尻餅をつきそうになる程の強烈な光が辺りを覆った。


「な…何だこれは!」


「あ〜。私が改造した照明丸。通常の三倍は明るいかな。効果時間は半分だけどね。」


私の怒りに気づいていないのだろう、ミリヤは得意気に話す。

その顔にはいつの間にかサングラスが装着されていた。

私は憤りを胸の中に押し込める。今はこいつの相手をしている暇はない。


「ノブリ、あれは!」


森の中心部からこちらに向かって明かりが向かって来ている。

馬人の群れだ。


(急いだ方が良いな。)


「降下します。」


私は言い終えるよりも先に行動に移した。


「ちょ、落ちる落ちるって!」


予想していた以上のスピードだったのだろう。童顔娘が慌てている。


「乱暴な運転ね。こりゃモテないわ。」


地面に着陸するとミリヤが文句を言ってきた。それを私は相手にせず、すぐに周りの状況を確認し、後方で弓を構えていた上半身だけの馬人にナイフを飛ばす。無論サイコキネシスでだ。それは音も立てずに馬人の眉間に刺さった。


私の瞬時な判断で、一つの命が絶たれた事に気づいたのはナーガ様だけであろう。


「遊びじゃないんですよ。真剣にやりましょう。」


オウガがニヤニヤしているミリヤに注意していた。しかし急降下の恐怖からか、オウガの膝は笑っている。


こちらを驚いた様に見つめる視線を受けながら、私はもう一度、辺りを見回す。

迷彩服を着た何やら武器らしき物(後ろに馬人の死骸があるのでアレは武器なのだろう)を持った男に声をかける。


「あなたが神ですか?ここは危険です。我々と共に来て下さい。」


しかし、男は警戒をとかずに武器を構えている。おかしな行動をとればいつでも殺すといった目をこちらに向けて…。

訓練されているのだろう構えに無駄が全くない。


「馬鹿ね〜。私たちの言葉が通じる訳ないじゃない。はいこれ、会話助長機。片方は耳に入れて片方は喉に貼ってね。喉のがそのまんまスピーカーになるから。」


周りをみると、ナーガ様やオウガはすでにそれを装着していた。


(私とした事が。)


私はミリヤからそれを受け取ると、すぐに装着しようとした。


その時。


乾いた音と共に男の持っている筒から複数の玉が飛び出してきた。


「っクソ!」


私は自分の能力を使用し、玉が肌に触れた瞬間、宙に固定した。お陰で着ている服は穴だらけだ。


「止めないか!」


玉を放った男はナーガ様の喉から発せられた言葉に目を丸くする。


「日本語…喋れるのか?」


男は困惑している。


「説明は後だ!早くここから逃げるんだ!馬人の群れがこちらに向かって着ている。」


「馬人?あの化け物共の事か。一匹逃げたと思ったらあいつ!仲間を呼びやがったのか!」


話している脇で、オウガが別の倒れている迷彩男に手を貸し、立ち上がらせている。


「け、怪我人がいるんです。助けて下さい!」


眼鏡を掛けたスタイルの良い女性が、機械の箱から出てきて私に言った。


「その様ですね。しかし、回復薬にも数に限りがあり、全員を助けるのは不可能です。それに逃げる途中で何があるか分かりません。薬は温存します。健全な方の命を最重要とし、すぐにこの場を立ちます。」


私は機械の中の人間を見て言う。人数が集まった所に馬人の爆矢を打たれたのだろう。重傷の者が数十人いる。


「…そんな。」


眼鏡の女性が絶望に顔を歪める。


(気持ちは分かるが、全滅は絶対に避けなければならない。)


私の決断にナーガ様も口を開かない。納得してくれたのだろう。


「聞いただろう!歩ける者は早く出発するぞ!」


ナーガ様と話していた男が声をあげる。

その声に続き、機械の箱から沢山の人が溢れ出てくる。

車両に残された負傷者を覗いてざっと150人程はいるだろうか。


(多いな。この中に何人、能力者がいるのかはしらないが、先行きは不安だ。)


眼鏡の女は難しい顔をして何やら考えて込んでいる。


「私、ここに残ります!この人達を放っては行けません!」


「お、俺も残る!…人として!後藤も残るだろ?」


優しそうな顔をした、体格の良い男が続いた。

後藤と呼ばれた男は急に自分が呼ばれた事に驚いていた。しかし、露骨に嫌そうな顔をしている。その男はどこか攻撃されたのか、見れば目から血を流していた。


「この人達にも家族がいるんだぞ!見殺しにするのかよ!」


家族…その単語に一瞬私の身体が反応する。しかし、それ以上に後藤と呼ばれた男は反応していた。


「…僕も残るよ。」


聞こえるか聞こえないかの声で呟く。


「他に自殺志願者はいないか!?いないなら出発するぞ!」


粉々になっている死体の、内蔵の中から筒型の武器を拾った迷彩服の男は叫んだ。


「良し。早く安全な場所へ連れて行ってくれ。」


(安全…。果たして私達に安全な場所など有るのだろうか。)


黙ったまま頷くと、ナーガ様は歩き始めた。

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