その五
その五
「タタタタタタタタ!」
静かな森の中に乾いた銃声が響き渡る。標的にされていたのは弓を構えていた馬人間だ。
不意をつかれた馬人間は、何が起こったのか理解できずに困惑している様子だった。
(機関銃?マジかよ。こいつら何で電車の中にこんな物持ち込んでるんだ。…でもこれで助かる!)
こちらの混乱に乗じていつの間にか電車の外に出ていた、迷彩服の男が三人。彼等は一様に機関銃を構えていた。
電車の中では歓喜の声が上がる。
…しかし
「ブバァー!!」
馬人間の雄叫びにその声はかき消される。
(ダメだ。全然効いていない。足止め程度にしかならないじゃないか。)
「馬鹿者!下半身を狙え!上半身は肉の鎧で効かん!それと一匹ずつ集中して蜂の巣にするんだ!」
低く太い声が後ろの車両から聞こえた。この者達の上官だろうか。
「了解しました!お前達、真ん中の奴を狙うぞ。…てぇ!!」
三人の機関銃が一斉に火を吹いた。真ん中の馬人間がくずれ落ちる。こちらからでは良く見えないが、足が滅茶苦茶に破壊されたのだろう。
「やった!」
僕の口から自然と声がもれた。
「危ない!」
上條が叫ぶと、迷彩服の男達がいた場所が轟音とともに爆発した。辺りには黒煙が舞い上がっている。
二匹の馬人間が、冷静に二発目の矢を背中に背負った筒から取り出している。
(嘘だろ!矢が爆発した!)
黒煙の中を注視すると、一人はバラバラになって身体の内容物を撒き散らし、一人は身体の右半身を失っている。先程、銃撃の号令を出した男はギリギリで横に飛んだのか、うつ伏せに倒れてはいるが無事の様だ。確認は出来ないが、恐らく後ろの車両の開いているドアからも爆風が入ったはずだ。中にも負傷者がいるに違いない。しかし、電車は何故か無傷だ。また優しい白い光を放っている。
「銃は無事だ!誰か手伝ってくれ!」
「ギャー!」
車両の中は阿鼻叫喚だ。隣にいた上條は気を失っている。神崎はというと吐瀉物を床に撒き散らしていた。普通の人間ならば当然の反応だろう。
(なんで僕は平気なんだ。)
混乱の中、冷静に動いた男がいた。先程、車両の中から指示を出していた男だ。
その男は、左半身のみで銃を握っている男からそれを取り上げると、迅速に一匹の馬人間の膝を集中して打ち抜く。そして、支えを失った馬人間は誤って矢を自分の真下に打ち放ってしまう。
轟音。馬人間の足元に放たれた矢が爆発したのだ。いくら馬人間といえどもあの爆発では助からないであろう。
戦いは終わったのだ。
車両の中には安堵の声や歓喜の声、まだ状況を理解していない者の叫び声が飛び交っていた。
(まだだ!)
僕の眼には黒煙の中で下半身だけが吹き飛び、上半身だけで弓矢を構えている馬人間が見えた。黒煙に埋もれる中、何故見えたのかは解らないがそれは確実に見えていた。
「まだです!まだ一匹生きています!まだだってば!」
僕の叫びは迷彩服の男に届かない。それと同時にまた、激しい頭痛に襲われ声が出せなくなった。
その時、突如上空が強く青白く光る。僕は強い光から瞳を守る様に目蓋を閉じた。
光が落ち着いてからようやく上空が見上げられる様になると、六畳程の大きさの絨毯が宙に浮いている姿が目に入った。