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その四十五(真実の恐怖)〜その四十七(仲間達)

その四十五(真実の恐怖)


(三匹…か。)


一見して何も無い通路。しかし、そんな場所にも恐怖は存在した。自分達以外の気配がある事に、いち早く気が付いたのは、先頭を歩いていたカゲローであった。既に、声を発すると、自分達の存在が化け物達に気付かれてしまう範囲にいたので、カゲローは、右腕と指先のみで、三体の化け物の存在を、仲間達に知らせた。最初の分かれ道から、更に2つの分かれ道を過ぎた先で、後藤達一行は、天井に張り付いた、奇妙な生き物と遭遇する事になった。丸い紫色の胴体。その胴体は、人の頭程の大きさしかないのだが、そこから伸びた、大量の足が、その生き物の存在を、ずっと大きく見せていた。その足は、節足動物である、蜘蛛の持つそれと似ていたが、驚くのはその本数である。その足は、一目見ただけでも、優に百本は超えている事が分かる。更に奇妙な事に、その生き物は、胴体と同じ大きさの頭部を持っていたのだが、その頭部は、後藤達、人間の女性に似た顔を持っていた。その人間に似た顔で、ナーガ達に殺されたのであろう、生き物達の肉片を貪っている。


「キャっ!」


山口は、その存在に気付くや否や、小さな悲鳴をあげ、直ぐにそれが危険な行為であった事に気付き、両手で自分の口を覆った。しかし、その行動は既に手遅れであった。


「グギ!ギッギッギ!」


声に気付いた化け物達が、ほぼ同時に天井を蹴り、地上に降りて来ようとしたのだが、その行動の目的は果たせなかった。


「バババン!」


カゲローが、ホルスターから銃を引き抜き、瞬時に化け物達の眉間を打ち抜いた。今度は麻酔銃では無い。空中で眉間を打ち抜かれた化け物達は、力無く地面に落下した。


「わぁ!」


既に絶命した化け物の一体が、後藤の頭上に落ちて来た。後藤は慌てて、その胴体を脇に突き放し、身をすくめる。突き飛ばされた化け物の足は、未だにシャカシャカと動いていたが、直ぐにその活動を終えた。


「ごめん。私、ああいう足の沢山ある生き物は苦手で…。」


山口の謝罪の言葉を、最後まで聞く事は出来なかった。


「ゴォォォォォン!」


「な、何だ、何だ?」


後藤達一行の、背後から聞こえたきた轟音に、竜二が驚きの声をあげた。


「入り口にいた、奴の仕業かもな…。厄介だ。」


西丸が珍しく口を開いた。


「厄介?何が?」


ミツオが尖った耳を、掌で抑えながら尋ねる。


「あれ程の音なら、先を歩いているナーガ達にも聞こえた筈だ。自分達以外の人間を、ナーガが放っておくと思うか?」


応えたのはカゲローだ。


「え?ナーガさんって敵何ですか?この前、僕達を助けに来てくれたじゃないですか。」


後藤は、洞窟の入り口で、自分が侍達を助けた事を思い出していた。


「お前の仲間達が、助かった何て保証は何も無い。」


「え?」


(何言ってんだ?)


「私達って、この世界の人達から見たら、相当珍しい外見みたいよ。一目で歓迎のクラクションを鳴らされるぐらいにね。そんな人達を、侍の偉い人が保護して、何にもニュースになっていないんだもん。こんなに統率のとれた国なら、その変の情報網はしっかり機能している筈なのにね。うすうすは感じてたけど、あの人は、仲間とは程遠い存在だったのかもしれないわ。」


山口が残念そうに応えた。それに後藤が反論する。


「ニュース何て見てないじゃないですか。そんなの分かりませんよ。」


(僕は、敵を助けたのか?)


「ニュースぐらいならサポーターで見れる。それに、一般社会にいたヘムも、お前達の事を珍しそうに見ていた。根っからの商売人で、新聞を毎日欠かさず、舐める様に見るあいつも。お前達は初めて見る種族だったんだろうな。」


「ちょ、ちょっと待てよ。て事は、森で助けについて行った奴らは?」


竜二の声は大きくなっていた。


「落ち着け。あくまで可能性の話だ。ナーガの行動を警戒しておいて損は無い。」


応えたのは西丸。それに対して、カゲローが話を続ける。


「問題は、奴が何をしにこの洞窟に来たのか。国民に、鉱石調査だと嘘をついた事。自分の隊を連れて来ずに、戦闘に不慣れな奴らを連れて来た事。そいつらにいたっては、入り口で待機。何か、人に知られたく無い目的がある筈だ。現在はナーガが、その目的を邪魔しに来た奴らがいる事に、気付いたといったところだな。」


「話せば分かるかもしれないですよ?」


ニコがカゲローに問い掛ける。それに応えたのは後藤だ。


「いや、無理だと思う…。」


後藤は、黒いローブを着た者達の、ハーピーの虐殺風景を思い出していた。


「神崎さん?大丈夫ですか?」


先程から、言葉を発していない彼に、ニコが心配そうに声を掛けた。


「大丈夫…じゃないっすね。これ、やばくないっすか?」


神崎は、地面に仰向けに倒れている、化け物を指差して言った。化け物の足は、僅かに動き初めている。その動きは、徐々に活発になっている様にも見えた。


「やはり生き返るか…。山口、先を急ぐぞ。」


「え、あ、うん。次は十字路を左よ。」


山口は化け物を見て、自分で自分の身体を抱き締めていた。


(あー!気持ち悪い!)





「ゴミムシが紛れ込んだ様だな。全死兵、三人で手分けして殺してこい。」


その四十六(意思のある化け物と無い化け物)


奥に進むに連れて、洞窟の道幅は細くなっていった。現在、ナーガ達が歩いている場所は、道幅が三メートル程になっている。その前方には、人間であった者が複数人。道が細い為、ナーガの位置からは、ゾンビ達が重なって見え、正確な人数は分からない。


「ギャグギー!!」


先頭のゾンビが、ナーガ達の存在に気付き、意味不明な叫び声をあげながら突進して来る。首の骨が折れているのか、西洋風の甲冑を来たそのゾンビは、走りながらも、首から上は振り子の様に振れていた。


(退屈だ。)


「全死兵。やれ。」


ナーガは、後方を歩いている全死兵に道を譲り、面倒くさそうに呟いた。ナーガの指示を受け、四人の全死兵が、我先にと、仲間達を押しのけ、狭い洞窟を進む。彼等の行進によって、生じた振動で、天井から細かい砂や小石が落ちて来た。


「先頭の者一人で十分だろ。他は自分の身を守れ、単細胞が。」


全死兵の知能はとても低い。事ある事に指示を出さなくては、街で簡単な使いもこなせないだろう。しかし、それを補って余りある、戦闘力が彼等にはあった。


一人の全死兵が、甲冑のゾンビの間合いに入った。ゾンビは両腕で、先が鋭い三角錐に、柄がついた、一メートル程の槍を持っており、巨体を誇る全死兵よりも、僅かに間合いが広い。その槍は、一般のギルド員の間で、昔から良く使われている、ヘヴィランスと呼ばれる物だった。ゾンビは、走るスピードを落とさずに、そのままの勢いで槍を突き出す。


「ドガァ!」


しかし、その槍は、全死兵の拳により、見事に打ち落とされ、地面に突き刺さった。その槍に追従して、ゾンビも大勢を低くする。しかし、その行為は、全死兵の怪力によって、身体のバランスを崩し、地面に引き寄せられたわけではなかった。


「矢だ!…っち!」


甲冑のゾンビが、体勢を低くしたが為に出来た、上部の空間を、一本の矢が線を引く。その矢は、そのまま全死兵の腹部に突き刺さった。


「アあ゛あ。ガァ!」


全死兵は、腹部に刺さった矢には全く怯まずに、巨大な拳を、ゾンビの頭目掛けて振り落とす。しかし、その拳は宙を切った。最小限に身体を左に動かし、半身にして拳をかわしたゾンビは、全死兵の腹部に刺さった矢を握り、力を込めて、更に捻り込んだ。その上部に、更にもう一本の矢が突き刺さる。それと同時に、この洞窟には有るはずの無い、大量の氷塊が、全死兵目掛けて飛んで来た。


「…生前は統率のとれた、良いパーティーだったのだな。」


「ギャア!」


その悲鳴は全死兵のものではない。全死兵の両腕が、ゾンビの被っている兜ごと、頭を握り潰したのだ。ゾンビが捻り込もうとしていた矢は、全死兵の強靭な肉体によって、ピクリとも動かなかった。更に、胸に刺さった矢、飛んで来た氷塊も、全死兵に有効なダメージは与えられていない。


「奥の二人も殺して来い。…キン!」


ナーガは、自分に向かって飛んで来た矢を、刀で払い落とした。


「グガォォォ!」


全死兵は、主から新たな指示を受けると、地面に転がった、ゾンビの甲冑を踏み潰しながら、怒濤の勢いで走って行く。再度、洞窟の奥から、矢と氷塊が飛んで来たのだが、全死兵の勢いは全く衰えない。弓を持ったゾンビは、瞬く間に距離を詰められ、自分の腰に提げられた鞘から、素早い動きで短刀を引き抜く。だが、遅い。全死兵の前蹴りにより、布の衣服しか纏っていなかった腹部が、貫かれる。文字通り、全死兵の足は、ゾンビの腹部を貫通していた。


「ギミハムイ…。ビギャアー!」


その後ろで、シークレットワードを唱えていた、紫色のローブを来た女性も、横殴りの拳で、ただの肉塊に変貌した。


「イッヒィー。」


全死兵が、歓喜の声を上げながら、何度もゾンビ達を踏み潰す。その右足には、腹部を貫かれたゾンビが、未だに纏わりついていた。


「止めろ!」


(やはり、それなりの強者もいたか。それでこそ、私の目的を裏付ける事になる。)


「先を急ぐぞ。…そんな物早く引き抜け。大した傷では無いだろ。」


「グフゥ。」


ナーガの指示で、虐殺を終えた全死兵は、三本の矢を引き抜き、地面に落とした。不思議な事に、傷口からは血が流れていない。


「ゴォォォォォン!」


何の前触れも無く、突如聞こえた、強大な轟音に、ナーガは刀を構えた。しかし、直ぐにその音が、自分達が通って来た、背後の道から聞こえてきた事に気付き、微かな笑みを浮かべる。


(ノブリ達か?G・Pのスパイが王宮に潜入していると聞き、一人は見つけ出して殺し、ついでに近くにいたG・Pメンバーも殺したのだが、やはり一人だけでは無かったのか?どうやら情報が漏れた可能性があるな。…面白い!)





「ばっ馬鹿者!」


その四十七(仲間達)


洞窟に入って、少し進んだ所に、その化け物はいた。二匹の、胸が抉れたゾンビ。ニ岐の分かれ道の左手で、向かい合う様に立っている二匹は、幸いにもこちらの存在に気付いてはいない。


「早速だな。私が行こう。」


ノブリはこういった戦闘時、真っ先に戦闘に参加しようとする。別に彼女が好戦的な性格という訳では無い。彼女の正義感の強さが、そう行動させるのだ。


「用心しなよ。ゾンビの情報は少ないんだ。もの凄い怪力だったり、目からビーム何て出してくるかも知れないぞ。」


エスマは、侍隊の装備の一つである、面具を装着しているが為に、表情が見えない。だが、この状況を楽しんでいる様に思えた。


「あ、俺行きたい。俺にやらせてよ。」


「森内、エスマの言う通りよ。奴らがどんな攻撃をしてくるのか分からないわ。近接攻撃しか出来ない森内は、一旦様子を見ていて。」


森内は渋々頷いた。


「グギィー!」


二匹のゾンビが、ほぼ同時にノブリ達の存在に気付き、奇声をあげながら向かって来る。二匹とも、右手には刀が握られていた。走り出した者は、ゾンビだけでは無い。ノブリも、姿勢を低くし、地面を蹴った。しかし、その速度はゾンビ達の比では無い。瞬く間に、ゾンビとの距離が無くなる。間合いに入ったかと思うや否や、既にノブリの攻撃は終わっていた。それは、攻撃と言うには、あまりにもしなやかで、優しい動きだった。ノブリの攻撃は、二匹のゾンビの右腕に触れた、ただそれだけの行動である。ノブリは踵を返し、森内達の方向に向き直る。


「グギャア!」


二匹のゾンビは、ノブリに飛び掛かろうとするが、刀を持った右腕が、空中に固定されたかの様に、全く動こうとしない。必死に右腕を動かそうと、ジタバタ動いている姿は、まるで上質のパントマイムを見ているかの様だった。そしてゾンビ達は、自分達の刀で、お互いの首を一太刀で切り落とした。


「サイコキネシス。凄いな。いろんな使い方がありそうだ。…でも、ゾンビ達の動きは全く参考にならなかったわ。」


仲間達の所に戻って来たノブリに、エスマが言う。


「すまんな。」


「まぁ、無事で何よりじゃん。てか、分かれ道だね。どっちに行けば良いんだろう?…なんちゃって。」


ノブリは、士官学校時代に、サバイバルに関する知識や技術を叩き込まれており、人の探索や追尾はお手のものだった。しかし、ここまでいたる所に肉片が付着しているのならば、その技術を披露する必要は無さそうだ。


「化け物の死骸を頼りに、道を選択すれば、まず間違いないわね。」


「まずは…どうみても右だな。」


一行は、森内を先頭に、右の道を進む。


「しかし、奴の目的は一体何なのかしら。その辺の情報は何も掴めてないのか?」


「手厳しいねー。それが分かれば苦労しないわな。これでも結構危険な目にあって、やっと手に入れた情報なんだ。少しは労って貰いたいもんだわ。」


ノブリの質問に、エスマが苦笑しながら応えた。


「じゃあ、カゲローの仲間達についてはどう?何か気付いた事は無かったか?奴がまだ、忍者隊と繋がりがあるのかどうかが気になる。」


(…ナイム。)


「ああ、カゲローと一緒に行動してた奴らは、王宮の人間なんかじゃないよ。あれは森内ちゃんの友達かな?あはは。」


「何!?」


「静かに、化け物だわ。」


いつの間にか、ミリヤは不可思議な眼鏡を掛けていた。眼鏡のレンズの横には、小さなねじが取り付いており、それをキリキリと回しながら、洞窟の奥を見ている。


「ああ、これ?凄いでしょ。調節次第で、めっちゃ遠くまで見れるんだから。しかも明暗両用。うーん、私ってやっぱり天才。」


不思議そうに見ている森内に、ミリヤが得意気に説明した。


「あっそ。よし、次こそ俺が行くぞ。」


森内のぞんざいな対応に、ミリヤが不服そうな表情を浮かべる。


「いや、次も私が行くわ。まだ、敵の行動パターンが分からないでしょ?」


「なる程ねー。」


エスマが、ノブリの言葉に何かを感じ取ったのか、にやつきながらノブリを見ている。


(ったく、もー。)


「ちょっとあんた。私達に戦わせないつもりでしょ?隠れ家で話した事忘れたの?あんただけ危険な目には合わせないわよ。…私が行くわ。」


「おいおい、ミリヤは戦闘向きじゃないだろ。ってかみんなで行けば良くないか?どんな化け物が何体いるんだい?」


エスマの質問に、ミリヤは応えない。表情から察するに、とても不機嫌になっている様だ。こんな状況でも無ければ、彼女の表情を見た者は、子供の様な無邪気な可愛さを感じた事だろう。


「ミリヤ、敵との距離は?」


ノブリの質問にも、ミリヤは応えない。


「バリバリ」


次の瞬間、ミリヤの右腕の形が変わった。肩から肘にかけて、まるでバナナの皮の様に、前後左右の肉がめくれ下がったのだ。


「キュゥゥゥ。」


彼女の右腕、元はイハエアと呼ばれる[人間では無い者]の腕だが、その化け物の持つ、特殊な能力を発動させる為の、言わば準備段階に入ったのだ。ミリヤは黙ったまま、一人で歩みを進めようとしたが、仲間達がそうはさせなかった。ミリヤを先頭に、一行が歩みを進める。


「うげぇー。何だこいつら。気持ちわりぃ。」


少し歩いた所で、気味の悪い化け物達が、一行の目に入った。


「[蠢き]下級種族でもかなりの底辺ね。…数が多いな。」


森内の苦い表情に、ノブリが冷静に応える。いたる所で、蠢いている沢山の足。誰が最初にそう呼んだのかは分からないが、シンプルで的を得た名前だ。蠢きは、人間の女性の様な顔を、ただの肉塊と化している死体にうずめ、貪っている。


「二十はいるなー。食事に夢中で、全くこちらに気付かないぞ。」


蠢きは、一匹一匹の足が一メートル程と長く、蜘蛛の様な体系をしている為、それだけの数が揃えば、一部の壁や、天井を埋め尽くすには十分だった。


「下がってて。こんなの私に掛かれば一発よ。」


「無理する…!?」


ノブリが喉を詰まらせる。蠢きに目を奪われていた為に、ミリヤの右腕の、肘から先が、男性の胴体程に膨れ上がっている事に気付いていなかったのだ。その灰色の巨大な腕は、今にも破裂しそうな雰囲気だった。


「イハエアの腕を付けるだけ、何てのは三流のやる事よん。私はそんな事しないわ。」


ノブリの反応に、気分を良くしたミリヤは、嬉しそうに言った。そして、背中に背負った袋から耳栓を取り出し、助長機の上から装着した。


「あ、耳塞いだ方が良いよ。」


ミリヤは、灰色の掌を、前方に向けて開いた。


「これだけの数だ。何発か放って、ある程度数を減らしてくれれば、後は私達が何とかするわ。」


イハエアの能力を知っている、ノブリが言った。しかし、ノブリの計算の中には、ミリヤの異常ともとれる、向上心が入っていなかった。


「甘いわ。」


「ゴガアオォォォォォン!」


ミリヤの掌から、何かが放たれた。前方の空間が、一瞬、蜃気楼の様に歪んだかと思うと、二十匹はいた蠢きが、粉々に砕け、洞窟の奥に吹き飛んでいった。砕け飛んだのは、蠢きだけでは無い。洞窟の壁面から突き出ていた、岩等の突起物や、地面に落ちていた石、それら全てが、粉々に砕け、飛んでいった。ノブリ達の眼前には、綺麗に削り取られた、トンネルの様な空間が出来た。


「…あちゃー。」


エスマは、頭を抑えながら苦言を漏らした。だが、その場にいた全員の耳が、正常に機能していないが為に、聞き取れる者はいなかった。ノブリと森内は、目を丸くし、放心状態だ。そして、吹き飛んだものは、蠢きや岩だけでは無かった。


「ばっ馬鹿者!」


五メートル程後方で、尻餅をついているミリヤに、ノブリが怒声をあげた。ミリヤは、笑顔で人差し指と中指を立て、ノブリ達に向けた。


イハエア。中級種族である[人間では無い者]。その能力は、両肩から開いた吸気口より、周囲の空気を吸収し、肘から先の特殊細胞で圧縮。その圧縮した空気を、掌に開いた穴から、銃弾の様に発射する。その威力は、分厚い鉄板も容易に貫通する程のものだ。しかし、ミリヤの腕から放出されたそれは、その比ではなかった。


(今の音で、ナーガに感づかれただろう。…一旦退くのが無難ね。)


「逃げるのは利口じゃないな。ノブリちゃんが今逃げたら…分かるよね。」


ノブリの表情から、彼女の考えを悟った、エスマの声は鋭かった。


「ええ。私は退かないわ。ただみんなは…。」


「ほら、ぼさっとするなー。敵に気付かれたよ。」


「早く行こうぜ!俺も戦いたい。」


「あっはっはー。」


エスマのは、心底楽しそうな声で笑っていた。


(森内とミリヤだけでも帰そうと思ったのだが、どうやら無理そうね。)


ノブリは、先程のミリヤの言葉を思い出し、笑みを浮かべていた。


(私の仲間は、無茶苦茶な奴ばかりだな。)


「周囲の警戒を怠るなよ。…行こう。」


「ッ痛!」


ノブリは、ミリヤの頭に、軽く拳を振り落として言った。

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