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その四十三(他人から見たら不自然な確信。)〜その四十四(もう一つの光)

その四十三(他人から見たら不自然な確信。)


(…予想はしていたけど。)


後藤は声には出さずに、心の中だけで思った。洞窟内の光景は、後藤の想像を、悪い意味で裏切ってはいなかった。横幅が十メートル程の薄暗い空間。その洞窟に入るなり、後藤達を出迎えてくれたのは、地面や壁にへばりついていた何者かの肉片であった。既に原型を留めていないが為に、それらからは、元の姿を想像する事が出来なかった。しかし、それらの生き物は、確かに先程まで活動していたのであろう。洞窟内は、とても嫌な臭いで充満していた。


「今の内に目を慣らしておけ。」


カゲローが言ったその言葉の真理は、二つある。一つは、薄暗い洞窟内の環境に目を慣らす事。もう一つは、グロテスクな物を見ても、いざという時に動じない様、感覚を慣らしておく事。その真意は、その場にいる全員が察していた。


「ギィ…、ギィ。…ギ!」


「ビチャ!」


カゲローは足元で声をあげている何かを、人思いに踏み潰した。まだ暗闇に目が慣れていない者達には、何を踏み潰したのかは見えていなかったのだが、不幸な事に、後藤の特殊な目には、その光景が鮮明に映っていた。


(あれは…。人間の頭だ!)


既に人間とは呼べないあの生き物が、いつからこの洞窟でさ迷っていたのかは想像も付かなかったが、カゲローの無慈悲な踏みつけにより、その男の活動は、終わりを迎えた。


「進むぞ。…山口、案内しろ。」


「う、うん。取り敢えず、ニ岐の別れ道があるまでは真っ直ぐで、別れ道があったら右に進んで。」


山口は、自分の記憶を頼りに、洞窟の奥を指差し、説明した。後藤を除いた者達は、十メートル程先までしか見えておらず、山口の言う[ニ岐の別れ道]は確認出来なかった。


「思ったより明るいんだな。もっと暗い場所を想像してたぜ。」


「それは、碧見石の効果ですね。この辺りの岩には、僅かに碧見石の成分が含まれていると聞きます。純度が低く、商品にはなりませんが、その僅かな成分が、輝きを放っている様ですね。純度の高い碧見石は、眩しい位に輝いていますから。」


竜二の質問に、ニコが優しい口調で応えた。以前、この場所に来た事のあるニコは、ある程度の知識が備わっていたのだ。


「…カゲローさん。二十メートル程、先に進んだ所に、人型の化け物が二匹います。丁度別れ道の所ですね。」


後藤の発言により、辺りが一瞬にして、緊張に包まれた。全員が己のしなければならない行動を理解したのだ。一行は、カゲローを先頭に歩みを進める。歩いている内に、後藤達はある事に気が付いていた。それは、僅かにだが、この洞窟には、下りの傾斜が付いているという事だった。つまり、後藤達は進むと同時に、下って行く事になる。

(……勘弁してよ。)


進むにつれて、やっと山口の視界にも、化け物の姿が確認出来た。その二匹の化け物は、洞窟の左端で、何をする訳でも無く、ただ立ち尽くしている。その頭部には二つの耳、右手には刀を握っている。生前はカゲローと同じ種族であったその二匹の化け物は、胸の肉が大きく抉られており、その中にある肋骨や、心臓等の内臓器官が露わになっていた。更に、本来ならば、口の中に収められている筈の舌が、化け物の涎と共に、上下の唇からはみ出していた。この姿を見れば、誰もが思う事だろう。


(気持ち悪いわ。)


一瞬目をそらした山口であったが、すぐに視線を化け物に戻した。その行動は、間違いでは無い。

いつ襲ってくるかも分からない化け物が近くにいるというのに、気持ち悪いという理由だけで、視線を逸らす行為は、愚の骨頂といえる。しかし、普通の女性にはそれが出来なかった事だろう。山口のずば抜けた知性が、彼女に普通の行動をとらせなかった。


(何かに殺されたのね。気を付けないと私達も…。)


幸いにも、二匹のゾンビはこちらの存在に気付いてはいない。何を考えているのか、化け物同士で向かい合ったまま、全く動き出す気配がなかった。


「グ…ァアアア。グ…タスェアアア。」


山口が、ゾンビの背後を慎重に歩いていた時に、微かな声で、一匹のゾンビが呟いた。山口の心臓は、飛び出しそうな位に強く鼓動する。それは、自分の心臓の音で、存在が気付かれはしないかと、冷や汗を掻く程だった。


「イ゛イ゛イ゛ダァ…。ウフゥ。」


(落ち着け。大丈夫…大丈夫だから。)


山口の後ろを歩いていた後藤は、自分の胸を強く抑えて、心の中で自分に言い聞かせた。


(こんな状況が後何回続くんだ?頭がおかしくなりそうだ。)


後藤達一行は、無事に二匹のゾンビをやり過ごし、右側の通路に歩みを進める。


[ドク!ドク!]


山口の心臓は、未だに強く鼓動していた。一行は、背後のゾンビを警戒し、誰も口を開かずに歩み続けた。

暫く進むと、入り口にいた時よりも、死骸の数が増えている事に気付かされる。それが吉と出るか凶と出るかはまだ分からないが、どうやらナーガ達も同じ道を進んでいる様だ。


「止まって!」


全員の視線が山口に向けられる。しかし、声を発した者は山口では無い。


「ちょっと降ろしてくれ。」


「どうしたの?あんまり大きい声出さないでよ。」


山口は、ポケットの中からミツオを取り出し、地面に丁寧に降ろした。ミツオは着地したと同時に、化け物の肉片を交わしながら、洞窟の壁に向かって走り出した。


「ミツオ!何してるの?勝手な行動は…!」


竜二のポケットにいるニコは、発言の途中である物が目に入った。それに驚き、ニコは言葉を詰まらせたのだ。ミツオはニコの言葉を気にもとめず、目標物に向かって走り続けた。そして、その目標物に到着したミツオは、こちらに向かって、複雑な表情を浮かべながら口を開いた。最も、その表情に気付いたの者は後藤だけであったが。


「コイツ。俺達を襲った奴だ。…兄貴を、兄貴を…。」


ミツオが立っている隣には、先が丸い、使用中の消しゴムの様な形をした兜を被った、頭蓋骨が有った。ミツオは俯いている。


「コイツは…。」


カゲローは、その頭蓋骨を持ち上げ、表面を掌で撫でる。山口以外の者には、カゲローが何をしているのか分からなかった。


「見た事の無い化け物だな。…それに、今し方殺された死体でも無さそうだ。もっと前…。何年も前に殺害された死体だ。」


「どういう事ですか?」


竜二のポケットから身体を乗り出し、落下しそうになりながら、ニコが質問する。竜二が慌ててニコの身体を支えた。


「さあな。その手の専門家では無いから確信は持てんが、恐らくはナーガ達が殺害した者では無いだろう。」


「クックックックッ。クハァっふっふ。」


「ミツオ?」


「やっぱりな。…兄貴がこんな所でくたばる訳が無かったんだ。そうだよ。兄貴はあの時、一人でコイツに勝ったんだ。そんで今も何処かで…。」


それは可能性で言えばとても低い出来事である。有り得ないと言っても良いだろう。化け物の頭は、それだけでミツオの身長の倍以上はある。そんな相手を、能力を持っているとは言え、小人である、一人の男が倒せるとは到底思えない。誰しもがそう思う筈だったのだが、ニコとミツオは違った。


「兄さん。あなたは酷い人ね。私達兄弟を悲しませたり、喜ばせたり。」


ニコは涙を流している。そんな中、浮かない表情をしている男が一人。


「…で?どうするんだ?お前たちの洞窟での目的は達成されたんだろ?(絶対に勘違いだが)洞窟を進む理由が無くなった訳だが?」


「あ、そうか。」


カゲローの問い掛けに、竜二が間の抜けた声で言った。


「ちょっと待って下さいよ。簡単に信じられる事じゃないでしょ?それにニコとミツオはお兄さんの最後を見たって…。」


「おい!」


後藤の、誰もが考えていた不謹慎な発言に、神崎が一言注意を促す。後藤は自分の言っている事が、ニコやミツオにとって、とても辛い真実だという事は解っていた。しかし、後藤達一行に、この二人がどれだけ必要かという事も、十分理解していた。


(二人を帰らす訳には行かない。)


「分かってるよ。…俺達がいないと困るんだろ?恩人様を見捨てたら、兄貴に会わす顔がねえよ。」


「そうね。私達も最後までご一緒しますわ。」


二人は、後藤だけを見て言った。


「ふん。…頭が弱いみたいだな。」


「親切心だけで付いて来た、あなたと同じね。」


涙を拭き、珍しく言い返したニコに、後藤が応えた。


「ありがとう。」



その四十四(もう一つの光)


「俺はG・Pって言う組織のメンバー。わけあって、今はこんな格好をしているがね。あんたと同じ、今の王宮に仇なす者だな。」


(何?)


岩陰に身を潜めていたノブリは、思い掛けない侍の発言に、目を丸くした。


(少し…様子を見るか。)


崖の上で待機している、ミリヤと森内は、緊張した面持ちで、渓谷を覗き込んでいる。その姿には気付かずに、姿が見えない男と、自称G・Pのメンバーだと言う、男の会話は続いていく。ノブリは、声や、姿を消す能力から、見えない男が、カゲローだという事に気付いていた。


「良いだろう。お互いに干渉するのは止めよう。それで?俺が知る人物とは?」


「あんたと嫁さんの、士官学校時代の同級生だよ。…ノブリちゃんだ。」


(ふざけてる?それともそういう性格なのかしら。)


カゲローとノブリの表情が、僅かにだが一瞬引きつった。その後も二人の会話は続いていく。話の中で、カゲローが自分の事をチビと表現しようとした事に、ノブリは憤りを覚えたが、冷静さは失わない。暫くすると、土煙を上げて、見えない何者かが地面に着地した。すると、眠っていた侍達が次々と姿を消していった。


[俺は殺ってない。そう言えば黙って俺を見過ごすのか?]


[俺は違う!俺は…。お前が王宮に仇なす者ならば、…殺す。]


カゲローの言葉は、ノブリの胸に深々と突き刺さっていた。カゲローの性格を熟知しているつもりだったノブリには、彼が嘘を付いている様には思えなかった。国王が暗殺されてから、初めて彼の言葉を耳にしたノブリは、カゲローが未だ、王宮の事を愛しているのだと気付かされた。しかし、ノブリには、彼を許すだけの器は持ち合わせていなかった。


(どんな理由があるにしても、ナイムやマイを守れなかったんだ。…私の親友を。)


偏狭の村の出身。人と話を合わせる事が嫌いで、尚且つ、綺麗事が嫌い。ノブリの生い立ちや、それが原因で歪んでしまった彼女の性格は、裕福で幸せな家庭を持った者達が入学する、士官学校には合わなかった。周りの者達は、ノブリの出身地が原因であったり、口を開けば否定ばかりする彼女の性格を嫌い、避けていた。そんな状況で、唯一仲が良かったのがナイムである。彼女は持って生まれた性格なのか、孤立している人間を放っておけないところがあった。その性格からナイムは、必要以上にノブリに声を掛けては、無視され続けていた。最初は、そんなナイムを煙たがっていたノブリも、彼女の優しい笑顔や、正義感の溢れた性格に影響を受け、少しずつだが人間らしい心を取り戻していった。そして、ノブリのクラスにはもう一人、誰にも相手にされていない、正確に言えば、嫌われている、根暗な少年がいた。その少年は、誰とも話そうとせず、常に自分が他人より優れている人間だと考えていた。実際に彼は優秀だった。優秀と言う言葉が、学校の成績だけで考えて良い物であるならばの話だが。そういった成績の良さも、同級生から嫌われる要因の一つであった。…カゲローである。ナイムは、そんな嫌われ者のカゲローにも、救いの手を差し伸べた。本人にその気はなかったのだろうが、ノブリやカゲローからしたら、確かに彼女に救われたのだ。次第に三人は、深い友情で結ばれていく事になった…が、それは別の話だ。


(…行ったか。)


物音がしなくなった。会話から察するに、複数人で行動していたカゲロー達の気配が、その場から消えた。洞窟内に入ったのだ。


(ナイム。もう少し待っていてくれ。)


ノブリは、自分の脇に置いてある、布袋を見て思った。その中には、ノブリが常に大切に持ち運んでいた、ある物が入っていた。


「お待たせ。どうだった?ノブリちゃんなら何か感じたんじゃないか?」


急に呼び掛けられたノブリは、一瞬で身構えた。一部の隙も無い、完成された構えだ。しかし、言葉を発した男は、ノブリの方ではなく、洞窟の入り口の方を向いて、未だに岩の上に座っている。


「おいおい。侍隊の上層部は好戦的でいけねえなー。俺は仲間だから、安心して出て来なよ。」


「…元だ。もう侍隊の副隊長ではないわ。」


ノブリは警戒態勢を解いて、ゆっくりと岩陰から姿を表した。


「あー、悪い。そうだったわ。それで?カゲローを見て、どう感じた?」


(姿は見えないんだがな。)


「あなた。私の存在に気付いて、わざと会話を聞かせたわね。…まぁいいわ。昔と変わらず、王宮を愛している様に感じた。奴とは古い付き合いだが、声だけを聞いた印象では、何も当てにはならないな。」


「いや。それが意外に大事なんだわ。俺から言わせてもらえば、見た目や、言葉何て物の方がよっぽど当てにならないよ。」


(変わった奴だな。こいつは先程、ナーガがここに来るという事実を、自分が掴んだ情報だと言った。…G・Pの創始者の一人がこいつなのか?)


「ミリヤと、えーと、森内ちゃんだっけ?もう降ろしてやんなよ。上から心配そうにあんたを見てるよ?」


(何故、崖の上にいる二人の事が分かったんだ?)


ノブリは、僅かな疑問を感じながらも、崖の上で待機している二人を、絨毯と共に崖下に降ろした。


「エスマさん…だよね?」


地面に降り立ったミリヤは、男に訪ねた。


「ああ。加勢しに来た。…マリムの事はとても残念に思うよ。」


「兄貴はあれで自分の使命を全うしたんだ。天国の兄貴が残念に思うかどうかは、その後の私達の行動しだいだよ。」


「…ふーん。なる程ね。」


エスマと呼ばれた男は、意味深な雰囲気で応えた。


「何よ。」


「いや。暫く見ない内に成長したんだなーと。俺の記憶では、イタズラがばれると、いつもピーピー泣いてマリムに叱られていた…。」


「五月蝿い。バーカ。」


ミリヤは話を最後まで聞かずに応えた。


「こりゃ手厳しいねー。」


エスマは発言とは裏腹に、嬉しそうだ。


「何でエスマさんは来たの?王宮の潜入捜査がバレちゃうよ?」


「もう別の人間に引き継ぎは済ませたよ。老師が帰って来いってさ。G・Pは、これからの活動が本番だからな。」


「ふーん。まぁ、エスマさんがいれば心強いわ。ノブリ、森内。この人はG・P創始者の一人。エスマさん。滅茶苦茶強いんだから。」


「マジか。全然何言ってっかわかんなかったけどよろしくな。」


森内とエスマは会話助長機を装着していない。


「宜しく。どうして、私達やカゲローの存在が分かったの?」


「…秘密。」


(喰えない男だ。)


私はエスマの返答には応えずに、洞窟の入り口に身体を向けた。


「じゃあ、俺達も行こうかねー。」


侍姿の男が、まるで近場の店に買い物に行くかの様に言った。


「全員…生きて帰るぞ。」


ノブリの言葉に、全員が首を縦に振った。

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