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その二十三〜二十六

その二十三


「もうすぐ中町に入りますわ。みなさん身分証の準備を。」


僕達は現在、アスファルトで出来た広い道を進んでいた。周りには多数の車や馬車が併走している。(最も、馬車を引いているのは馬ではなさそうだったので、馬車と呼んで良いものかどうかは分からない。)僕は作業着のズボンから身分証を取り出し、周りのみんなもそれに続いた。山口は何やら、にやつきながら、カゲローに渡された札束を数えている。

暫くすると、前方に小さなゲートがいくつか見えた。その光景は高速道路の料金所の風景によく似た物だった。僕達の車がゲートの前に停車すると、脇に設置されている電話ボックス程の大きさの部屋が目に入った。その部屋の窓から、一人の男が顔を出す。


「身分証を。」


男が低い声で言うと、カリンはみんなの身分証を集めて、無言で手渡した。


「見慣れない種族だな。何処の国から来たんだ。」


その言葉で僕達は重い緊張に包まれた。また、詐欺師扱いされるのはごめんだったからだ。


「それが何か関係あって?」


カリンが冷たく言い放つと、男は黙って身分証に小さな機械の先端を当てた。それは、よくスーパー等のレジで使われる物によく似ていた。


「関係は無いが…。」


「無いが?」


カリンは身分証を返してもらいながら問い掛ける。


「おまえの車、バンパーが凹んでいるぞ。原因はなんだ?」


「………。」


男の鋭い口調により、車内に沈黙が訪れる。意外にも、その沈黙を破ったのは山口であった。


「これでどう?」


山口は後部座席から身を乗り出して、札束の中から一枚を取り出し、男の前でちらつかせた。

男の顔が一瞬ひきつり、柔和な物に変わる。


「いいだろう。通れ。」


男は紙幣を受け取ると、表情を直して低い声で言った。

前方のゲートが開く。


「何処の世界でも人って単純なんだな〜。」


車がゆっくり進み始めると、笑顔の山口が気の抜けた声で呟いた。


「あんな男に千両なんて挙げすぎですわ。」


「いいの。いいの。いっぱいあるから。」


山口は札束で自分の頬を叩く。見る者から見れば、その姿は悪趣味な物に見えただろう。


「でもよくお札の値段が分かったな。字が読めないのに。」


神崎の質問に山口が答える。


「私も驚いたんだけどさ。ほら、ここ見てよ。」


山口はお札の右下を指差し、僕達に見せた。


「あ……千両って。」


そこには確かに日本語で、僕達のよく知る漢字でそう書かれていた。


「あら?みなさん、博識ですのね。神様が使っていた文字が読めるなんて。それにお金持ちですわね。羨ましい限りですわ。」


「まあね。チップははずむよー。」


誉められた、山口が嬉しそうに応えた。


「一枚で千両って。一体、全部でいくらあるんだ。」


神崎が目を輝かせている。


「少なくても五十枚はあるわよ。」



(この距離でタクシーが四百両だから…。カゲローはそんなに金持ちなのか?そうは見えなかったが。)


「まぁ。たくさんあるに越した事はありませんし、大事に持ち歩きましょう。」


僕は地図を広げながら言った。図書館の位置を探そうと思ったのだが、文字の読めない僕には、見付ける事が出来ない事に気付く。僕は小さくため息をついた。


「じゃあ、私がお金を管理しまーす。」


「子供の頃に行った、学校の修学旅行みたいだな。」


神崎と山口は声を弾ませている。


「遊びじゃないんだぞ。真面目にやれよ。」


僕はきつい口調で神崎を注意する。それをそのまま、山口も感じとっていた。


「わかってるよ。それよりお前、今の内に休んでおいた方がいいぞ。図書館に着いたらお前の出番があるからな。」


(まじかよ。)


「はぁー。」


僕がもう一度、ため息をつく姿を、神崎は楽しそうに見ていた。


その二十四


中町は外町と違い、背の高い建物で溢れており、通行量も多くなっていた。カリンの運転では少々不安ではあったが、何かコツを掴んだのか、今の彼女は軽やかに運転している。


「到着しましたわ。」


「は?ココ?」


山口の間の抜けた声。車は一軒の薄汚い平屋の前に停車した。それは周りの高層ビル群の中に一つだけ存在しており、明らかに周りの風景に溶け込めておらず、違和感が感じられた。なにやら、不気味な雰囲気も醸し出している。


「これじゃあ、廃墟じゃないか。」


神崎の不安も無理は無い。


「入れば分かりますわ。はい。四百両、頂戴致します。」


「あ、うん。」


山口は呆気に取られた表情のまま、札束の中から一枚を取り出し、カリンに手渡した。


「ありがとうございました。お釣りの六百両ですわ。」


カリンが紙幣を山口に渡そうとしたが、山口はそれを拒む。


「お釣りはチップよ。ありがとね。」


カリンは笑顔を見せて一礼し、目の前の操縦桿に触れる。後部座席のドアが開いた。

僕達はそれぞれがカリンにお礼を言い、車を降りた。


「ごきげんよう。」


カリンがそう言い残すとワゴン車はその場を後にした。


「じゃあ、行きましょう。」


僕は平屋の玄関扉を軽くノックしてから、スライドさせる。


「っ!」


「何、何?どうしたの?…うわぁ〜。」


僕を後ろから部屋に押し込んで、山口が家の中を覗き込んだ。そこは外見からは想像もつかない空間であった。


「…またか。」


家の中は東京ドームさながらの大きさの円形の広場であり、その上空には数多くの"床"が浮いている。一番低い位置に浮いている床を見れば、その上には沢山の本棚が設置されている事が分かった。


(ギルドといい、外見からは全く想像出来ないな。)


「お前達、身分証を見せなさい。」


部屋の風景に目を奪われて気付かなかったが、入り口の左右には、男が一人ずつ立っていた。警備員だろうか。


「あ、はい。みんな。」


僕はみんなに身分証を出す様に促した。

男達はそれを受け取ると、中町に入る際のゲートでも見た、小さな機械を身分証に当てた。


「返すぞ。」


僕は黙ったまま、男達から身分証をまとめて受け取った。


「初めてか?」


「はい。」


男の上から人を見る様な態度に、若干の苛立ちを覚えたが、僕は素直に応えた。


「あそこにある、ワープ装置で自分の見たい本のフロアへ行くんだ。隣に貼ってある、一覧表を見れば本の種類と場所の相対が分かる。後は場所を装置に打ち込めば良い。…何をしている。分かったなら早く行け。」


僕達は返事をせずに前方の機械に向かって歩き始めた。


「なんかあいつむかつくわね。」


「そうですね。僕もああいったタイプの人は嫌いです。」


「後藤さん。例の力でこらしめちゃえば?」


山口がにやつきながら冗談めかして言った。

山口の言葉でふと、昔あった、妻とのやりとりが頭に思い浮んだ。


僕と妻が結婚する大分前に二人で行った遊園地での出来事だった。僕達は人気のあるアトラクションに乗る為に長蛇の列に並んでいた。そして、やっと自分達の順番が来た時、急に割り込んで来た二人組の男がアトラクションの係員になにやら話し始めた。話を聞く限りでは、どうやらテレビ番組の撮影で、有名タレントを急遽乗せて欲しいとの事だった。しかし、さすがにその頼みは通らなかった。係員は冷静に「みなさん並んでおられますので。」と言い、男達を宥めていた。僕はその言葉を聞いて、安心した。これ以上待たされるのは精神的に大分辛い物があったからだ。しかし、その安心はすぐに崩れ去った。


「これで頼むよ〜。お兄さん。俺達も困ってるんだよ。人助けだと思ってさ。」


男は周りの人から見えない様に懐から茶封筒を取り出し、低い位置で係員に手渡した。


「…そう言う事なら。」


「テメェ!」


僕はその瞬間、頭に血が上り、係員の胸ぐらに掴み掛かっていた。周りの人の視線が僕に集まる。


「まぁまぁ、お兄さん。お兄さん達にも悪いと思ってますよ。はいこれ。」


男はまた懐から茶封筒を取り出し、僕の前に差し出す。


「ふざけんな!」


僕はそれを地面に叩きつけた。辺りに不穏な空気が流れる。その空気を断ち切ったのは後に結婚する事になる彼女だった。


「待って!…どうもすいませんでした。私達は後で良いんで、どうぞ先に乗って下さい。」


「おい!」


「いいから、いいから。」


妻は慣れた口調で僕を宥めた。


「じゃ、そう言う事で。」


結局その場はそれで終わり、苛立っていた僕が、そのアトラクションに乗る事は無かった。その後も、僕はずっと釈然としないまま、彼女と遊園地を廻っていた。


「まだ怒ってるの?見てよこれ!五万だよ。ラッキーだよ。」


「そう言う問題じゃねえだろ。」


僕の口調とは対照的に彼女は笑顔で応える。


「君はいつもすぐかっとなるからな〜。」


「年上ぶるなよ。一つしか変わらないだろ。」


妻の笑顔は崩れない。


「先輩から一つアドバイスしてあげるよ。」


「なんだよ。」


僕はぶっきらぼうに応える。


「君はもう少し落ち着いて、自分が得する事を考えた方が良いよ。気に入らない事に腹を立てるのも分かるけど、時と場合を考えて利口にならなくちゃね。」


「…ふん。」


妻の言いたい事は良く分かっていた。しかし、当時の僕には納得する事が出来なかった。


「まぁいいや。夕飯は豪勢に行こうよ!奢るよ!」


妻は茶封筒を僕の目の前に突き出して言った。相変わらずの笑顔で…。


その二十五


「後藤さん?どうしたの?にやにやしちゃって。」


僕は山口の声で現実に引き戻された。


「ん?ああ、何でもないですよ。…これですね。ワープ装置っていうのは。」


僕達は大きめのエレベーター程の大きさで、透明な外壁を持った筒型の機械の前に立っていた。


「これが一覧表だな。」


神崎の前には液晶画面とキーボードの様な物、後は一枚の大きな紙がワープ装置の壁面に貼り付けてあった。


「で?どうするんだ?」


文字の読めない僕達には、表を解読する事は出来ない。僕は頼りの神崎に問い掛けた。


「えーと。これとこれと…。」


神崎は慣れない手つきで液晶画面に文字を打ち込んでいく。


「出来たぞ。良し。みんな中に入ってくれ。」


僕達は促されるままに筒の中に入った。最後に神崎が入り、内壁に取り付けてあったボタンを押すと、重い音を立てて扉が閉まった。


「ぷしゅるるる…。」


機械が不思議な音を発し始めると、筒の中が眩い光に包まれる。


「大丈夫か?これ。」


僕は眩しさから、目を守る為に目蓋を閉じたまま言った。


「プシュゥー。」


機械の音が止むと、そこは元いた場所とは違うフロアだった。


「大丈夫みたいね。」


そのフロアの床は図書館の内壁に接していて、数多くの棚が設置されていた。棚の中には様々な大きさ、色の本が綺麗に収納されている。


「あそこだ。」


神崎が指差した方向には、十五メートル程離れた位置に、一つの鉄で出来た扉があった。その扉には一人の天使が描かれていた。左翼が黒色で右翼が白色に塗られたその天使は、見る者に不気味な、それでいて美しい印象を与えていた。


「あれは警備の人か?」


僕は神崎に問いかける。神崎は無言で頷いた。扉の前には三人の見るからに屈強そうな男が立っていた。腰に携えた鞘には刀が納められている。


「じゃあまた、身分証を準備しないと。」


山口の提案を神崎は否定する。


「あそこは、身分証があっても通れないよ。重要な書物があるからな。」


(なるほどな。)


「そこで後藤の出番だ。あいつらをどかしてくれ。」


神崎は小声で言った。


(どかせって。)


「僕に出来るのかよ。」


僕の不安な表情に神崎は気付かない。幸い、このフロアには僕達以外の一般人は見当たらなかったが。


「頑張れよ。あの中には俺達が元の世界に帰る方法が眠ってるんだ。」


「後藤さん!頑張って!」


山口も事情を察したのか、僕の肩を叩きながら言った。


「分かった。やってみるよ。」


僕は本棚の隙間から三人の男達を見つめて、強く願った。


(一時間で良いんだ!眠ってくれ。)


二人の男が白く、優しい光に覆われた。すると男達は、自らゆっくりと、その場に横になった。


「っつ!クソ。頭が!」


僕は激しい頭痛に襲われて、その場にしゃがみ込んだ。


「な!どうした!お前達!」


今の僕には二人に命令する事が限界だったらしい。一人の男は何が起こったのか分からずに叫んでいる。


「貴様等の仕業か!」


辺りには僕達以外に誰もいない。それは当然の反応だった。


「やばいじゃん!どうするのよ!?」


山口が焦って僕に話し掛ける。


(神崎、何とかしてくれ。)


僕は酷い頭痛のせいで、返事をする事が出来ない。


「西丸さん。隙をついて下さい。」


神崎は小さな声で呟くと、警備員に向かって走り始めた。


「どうしたんですか!?大丈夫ですか!?」


大きな声をあげながら走る神崎。西丸は黙ったまま、その後に続く。


「黙れ!貴様達の仕業だろう!」


男は鞘から刀を抜き、身構えた。


「何を言ってるんですか!?そんな事出来る訳がないじゃないですか!」


「黙れ!それ以上近づくな!」


男は明らかに動揺していた。丸腰の神崎を斬り殺して良いものか迷っているのだ。


(何をする気だ?)


神崎は走るのを止めたが、ゆっくりと、少しずつではあるが、歩み寄っている。


「そんな事より早く応援を呼ばないと!中の本が危険ですよ!」


神崎の言葉の後に、少し間を置いてから男は応えた。


「そ、そうだな。」


男は刀から片手を放し、懐から小さな機械を取り出す。恐らくGサポーターであろう。


その瞬間。


神崎の後ろから西丸が飛び出し、一瞬で男との距離を無くした。


「な!きさ「シュッ」


右ストレート一閃。西丸の拳は綺麗に男の顎を打ち抜いた。その身のこなしを見る限り、ボクシングか何かの経験があるのだろう。


「ドサッ」


男は白目を剥いてその場に崩れ落ちた。


(……すげぇ。)


僕と山口は口を開けたまま、目を丸くしていた。僕は、頭の痛さを忘れてしまうぐらいに驚いていた。


「…と、取り敢えず、私達も行かないと。」


僕は山口に肩を貸してもらい、二人で扉に歩み寄る。


「…この人、生きてるの?」


改めて、仰向けに倒れている男を近くで見て、山口が不安そうに西丸に訪ねた。男は泡を吹いて、失禁している。


「大丈夫だ。」


西丸が短く応える。


(ほんとかよ。)


「だってさ。早く行こうぜ。」


「ちょっちょっと待ってよ。心配だよ。」


神崎の返答に、信じられないといった表情の山口が応える。


「山口さん。残念ですけど、僕達にそんな時間はありません。眠らせていられるのも一時間ですから。」


僕は頭を抑えながら言った。


「…分かったわ。西丸さんの言葉を信じる。数少ない仲間だから。」


「ありがとう。」


山口にお礼の言葉を言ったのは西丸であった。あまり喋らない西丸の言葉に僕は少し違和感を覚えたが、山口の笑顔でその違和感も感じなくなった。


「神崎、急ごう。」


「おうよ!リーダー!」


(頼りになる男だ。)


神崎は元気良く応え、勢い良く扉を開けた。


「バン!」


扉の先は暗闇の部屋だった。一メートルも進めば自分の履いている靴すらも確認出来なくなるだろう。壁も床も暗闇で見えないので、部屋の広さも天井の高さも分からない。そんな中、一つの本棚のみが十メートル程先の位置に設置されていた。暗い部屋の中、その本棚のみがスポットライトを浴びて、輝いていた。


「…勇気がいるな。途中で床が無かったりして。」


神崎の発言に誰も笑わない。笑えなかった。


「なんちゃって。大丈夫だよ。一回見て来たから。」


(…こいつ。)


僕達は恐る恐る、歩みを進めた。


近くで見れば、本棚は三段で構成されている事が分かった。それぞれの段に二、三冊だけ、本が収納されている。その本は、全てキッチリと左詰めに収納されていた。

神崎は、本棚の真ん中の段から、無造作に本を一冊取り出し、山口に渡した。


「何よ。」


山口は肩を貸していた僕を一旦床に座らせてから本を受け取る。僕はコンクリートの冷たく、堅い感触を感じた。


「あ…。これ、古文書だわ。古い日本の文章よ。」


「大昔に転送されて来た神様が書いたんだろうな。読めるか?」


神崎の質問に少し間を空けてから山口が応える。


「あ〜。なる程ね。余裕だわ。以前、暇潰しに似たような文章読んだ事あるから。」


(暇潰しって…。)


西丸といい、僕のパーティーには個性的な人物が多い様だ。


「…これは違うみたいだわ。命がどうとか、復活させるにはどうとか、関係ない事が書いてあるもの。」


「じゃあ、こっちは?」


今度は、一番上の段から取り出し、山口の持っている本と交換した。


(まさか、適当に選んでいる訳じゃないよな。)


僕は一抹の不安を覚えたが、声は出さずに黙って見守っていた。


「あっ!多分これよ!逆転送とか、元の世界に帰るとかって書いてある!」


(やった。)


「でも、この本。結構厚いぞ。……パクってくか。」


神崎がニヤリと笑った。それは、少年が良いイタズラを思いついた様な無邪気な表情だった。本はパッと見でも、某少年誌ぐらいの厚さはあった。それを今、解読するには時間が足らなすぎる。


「…仕方ないな。」


僕は小さく呟いた。頭の痛みは時間の経過と共に和らいできている。回復の速度は以前のものよりもずっと早かった。


(免疫が付いてきたのか?)


「……あぁぁぁぁ!」


山口が叫ぶ。


「ど、どうしたんだよ。びっくりするじゃねぇか。」


「この本書いた人…。織田信長って書いてある。」


「……は?」


僕と神崎は同時に言葉を発した。


「ほら、ここ。織田信長って。…でもまさかねー。だって前の人がこの世界に来たのって900年も前の話でしょ?信長が死んだ、本能寺の変ってせいぜい4、500年前だし。」


(でも、そんな前の人間がたまたま、同じ名前だったってどれくらいの確率なんだ?俺達ぐらいの年代だったら、どっかの歴史マニアがふざけて名乗ったって言うのも分かるけど。)


僕が口を開くまでの間、謎の沈黙が暫く続いた。


「…取り敢えず帰りましょうか。」


「…うん。」


その後、僕達は無言のまま、暗闇の部屋を後にした。


「あ、ちょっと待って下さい。」


僕はワープ装置の前にいるみんなに声を掛け、周りの本棚を見渡した。


「どうしたんだよ。」


「あれでいいや。ちょっと待っててくれ。」


僕は山口が手に持っている本と似たような色で、同じぐらいの幅の本を手に取り、もう一度、暗闇の部屋に向かった。


「さすがリーダー。悪知恵が働くわね。」


僕は山口の言葉を背後から聞き、苦笑した。


その二十六


「ふぅー。後藤、また、タクシー呼ぼうぜ。」


薄汚い、平屋の前で神崎が言う。僕達は図書館の入り口の前に立っていた。暗闇の部屋の前にいた男達は、僕が再度、部屋を出た時にも、以前として眠っていたし(一人は気絶だが)帰りのワープ装置も神崎が操作してくれた。図書館の出入り口に立っていた警備員にも何も言われる事は無く、問題無く図書館を出る事が出来た。何より、嬉しかったのは、既に僕の頭痛は全く無くなっていた事だった。


「ああ、そうだな。」


僕はポケットから小さな機械を取り出して話し掛けようとした。


その時。


僕達の前方に見た事のある、車が音も無く出現した。

その車の運転席にいる男は、驚く僕達を嘲笑うかの様に、澄ました顔をしている。


(わざと驚かせたな。)


自動で後部座席の扉が開いた。


「カゲローさん!来てくれたんですね!」


山口が嬉しそうに声を弾ませたが、中の男は不機嫌そうに応える。


「貴様等。何時だと思っているんだ。時間も守れないのか。情けない。」

約束はギルドの近くにある広場に17時に集合。それはしっかりと覚えている。


「私の腕時計壊れちゃったから、カゲローさんの家に置いて来ちゃったんだった。」


「俺は後藤が腕時計をしてるから、てっきり時間管理は後藤がしてくれてるものだと思ってたよ。」


「あ、それ。私も。」


(神崎に便乗するな。山口は今、気付いただろう。)


「僕のも壊れてるんだよ。」


「何だそれ。じゃあ何で付けてるんだよ。」


神崎がにやにやしながら聞いてきた。


「別にいいだろ。気に入ってるんだよ。」


「あっ!分かった!彼女のプレゼントでしょ〜。」


(……この二人は。)


「違うぞ。山口。後藤にはそれはそれは綺麗な嫁さんがだな…。」


「乗っていくのは一人で良いんだな!」


話の流れをカゲローが断ち切る。車を見れば、既に西丸は後部座席に座っていた。慌てて、僕達は車に飛び乗る。(山口のみ助手席に。)


(カゲローに助けられたな。)


「ちなみに今は何時何ですか?」


僕はカゲローに訪ねる。そして返答を聞いて、やはりこの男は[良い人]なのだと思った。


「17時だ。」

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