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その二十一〜二十二

その二十一


「プップー!」


車のクラクションの音が辺りに響き渡る。この場所に到着するまでの間に何回鳴らされた事か。


(この世界の交通ルールが全く分からないな。)


僕達はカゲローに降ろされた広場からギルドの前まで移動していた。途中、様々な生き物や車とすれ違ったが、話掛けられる事も無く、特にこれといって問題は無かった。


「ビィーー!!」


この音以外は、だが。


「五月蝿いなぁー!!ちゃんと道の端歩いてるじゃん!」


山口が苛立つのも無理は無い。僕達はいい加減にこの音にはうんざりだった。


「気にしても分からない事は仕様がないですよ。…それより。」


目の前には黄色に染まった煉瓦造りの建物がある。正面には開いたままの状態の大きな木の扉が有り、先程から様々な生き物が様々な格好をして出入りしている。その者達の中には、物騒な装備をしている者や肩に荷物袋を背負い、先が細い尖り帽子を被った、旅人の様な雰囲気の者もいる。扉の上には大きな看板が貼り付けてあるが、僕達にはそこに書いてある文字を読解する事が出来ない。


「ここにずっといてもしょうがないですし、中に入りましょうか。」


「そうだな。」


西丸の言葉を合図に僕達は扉をくぐり抜け、建物の内部に入った。中に入ると大きな広場が一つ。壁面には、透明な壁を挟んでオフィスの様な部屋が幾つもある。何処も人で溢れていた。中心部には丁髷(ちょんまげ)頭の日本の武士の様な男の像がある。


「うわ〜。広いわね〜。」


(どういう事だ?)


建物の内部は外からみた外見よりも明らかに広い。それは僕達の世界では有り得ない事だった。


「考えても仕方が無い。受付を探そう。」


(この男は常に冷静なのかな。)


西丸の真面目な顔を見てどうでも良い疑問が浮かんだ。


「後藤、誰かに聞いて見ろよ。」


神崎に言われて、視線だけで話し掛け易そうな者を探す。会話助長機は現在、僕が装着している。この世界の生き物とは僕しか会話が出来ないのだ。周りを見渡すと、スーツ姿のカゲローと同じ種族の者が複数いる事に気付いた。ここの社員だろうか。僕はその中の一番近い位置にいた、一人の男に声を掛ける事にした。


「すいません。受付は何処ですか?」


僕の問い掛けに、その男は一流レストランの接客の様に丁寧に応える。


「ご来店ありがとう御座います。恐れ入りますが、本日はどの様なご用件でしょうか?」


その態度に僕は安心し、話を進める。


「初めて来たんですけど、ギルドの登録は何処に行けば出来ますか?」


「新規登録で御座いますね。それでしたら私が御案内させていただきます。お連れの方は三名様で宜しいでしょうか?」


「そうです。お願いします。」


応えたのは神崎だ。見ればスーツの男は会話助長機を装着していた。


「かしこまりました。それではご案内致します。こちらへどうぞ。」


そう言うと、スーツの男は歩みを進めた。その動作からは気品の高さが伺える。


「新規登録四人。F室だ。」


「はい!」


すれ違いざまに他のスーツの男にそう言い、僕達は壁が透明な六畳程の部屋に連れて行かれた。中には木のテーブルに椅子が七つ。広場とは逆の壁に本棚が三つあり、びっしりと本が詰め込んである。


「どうぞ、お掛け下さい。」


僕達は促されるままに席に着く。


「申し遅れました。私、王宮都市ギルドA級補佐官のハリブと申します。本日はギルドの新規登録四名様でお間違いないでしょうか。」


「あの〜。私達急いでいるんです。めんどくさい事無しで、手っ取り早くお願いできませんか?」


(…こいつ。)


山口の発言に僕は呆れて何も言えない。ハリブは笑みを浮かべている。


「失礼します。新規登録の書類をお持ち致しました。」


深々と頭を下げて、先程すれ違った男が部屋に入って来た。男はテーブルに書類を置くと、また一礼して、すぐに部屋を後にする。ハリブはその男に声を掛けない。


「かしこまりました。お時間が無い様なので、手短に進めさせて頂きます。」


「…すいません。」


相手のかしこまった、好感の持てる態度からその言葉は自然に口から出てきた。そんな僕にハリブは笑顔で応える。


「いえいえ。お気になさらずに。それではまず始めに御確認させて頂きますが、四名様で一つのパーティーで宜しいですか?」


(パーティー…ゲームみたいだな。)


「ここにいない人は登録出来ないんですよね?」


僕は上條を頭に思い浮かべて言った。


「はい。申し訳有りませんが、ご本人様がいらっしゃらない事には登録は出来ません。」


「それなら四人で良いです。」


「かしこまりました。それでは四名様の代表をお決め下さい。」


「代表って?」


神崎が質問する。


「パーティーの責任者で御座います。パーティーの各個人が仕事を受注する際には、必ず代表の許可が必要になりますし、私どもがご連絡致します際は、代表様にご連絡差し上げます。…それと、様々なパーティーの責任を代表様には負って頂きます。」


「後藤さんで。」「後藤で。」「後藤で構わん。」


「……っおい!」


「元いた世界でも現場監督だったし、良いじゃん。」


「へぇ。監督さんだったんだ〜。ぴったりだね。」


神崎と山口は勝手に納得している。恐らく責任と言う言葉に抵抗があったのだろう。

スーツの男はそのやり取りを笑顔で見つめている。


「後藤さん。宜しいですか?」


(……はぁ。)


「はい。宜しくお願いします。」


神崎が小さくガッツポーズをしたのを僕は見逃さなかった。


「かしこまりました。それではこちらにご署名をお願い致します。その下の欄にメンバーの三名様もお願い致します。」


「了解で〜す。」


山口は嬉しそうにペンを走らせる。


「それでは、次にパーティーの名前を決めて頂きます。こちらはただの呼び名と受け取って頂いて構いません。」


「名前か〜。どうする?」


今の状況が本当に理解出来ているのだろうか。神崎が楽しそうに声を掛ける。


「名前は大事よね。悩むわ〜。」


「俺は何でも構わん。」


(何でも良いだろ。どうせ身分証が欲しいだけだし。)


天照大神(あまてらすおおみかみ)で良いんじゃないですか?全員日本人だし。以前、異世界から来た人は神様になったらしいですし。」


僕は適当に発言した。元の世界で読んでいた本に出てきた神様の名前だ。確か太陽に関係した神様だったと思う。


「良く分かんないけど格好良いわね。」「神様ね〜良いじゃん。」「俺は任せる。」


どうやら反論は無いようだ。


(決まりだな。)


そう思った矢先だった。


「でもさ〜。なんか長くない?」「確かに言いにくいよな。」


山口と神崎が首を傾げて考えている。


(もう勝手にしてくれ。…てか時間無いんじゃ無かったのかよ。)


僕は苦笑いを浮かべて、ハリブを見る。相変わらず、この男は笑顔を絶やさない。西丸はというと目を閉じて俯いていた。


十分後。


「仏像!…違うな〜。」


二人の口から出てくる、名前の方向性がおかしくなってきていた。それに気付いていない、神崎と山口は眉間に皺を寄せて悩んでいる。


「やっぱり、最初の後藤のが格好良くて良かったんだけどな〜。長いのがな〜。」「じゃあ短くしてアマミカミって言うのは?」


山口の発言に神崎は黙り込む。


「…………パシ!」


二人のハイタッチの音だ。どうやら決まったらしい。


「後藤代表!決まりました。」


「神崎、普通に呼んでくれ。」


僕は呆れて、力無く応える。


「後藤様。宜しいですか?」


「はい。…なんかすいません。」


「いえいえ。それではアマミカミと登録させて頂きます。」


(やっと決まった。)


「それではこちらの契約書にパーティー名をご署名下さい。」


そこにはA4サイズ程の紙が四枚。その紙には僕に理解出来ない文字がびっしりと書かれていた。


「簡単に内容を教えて頂けますか?」


「かしこまりました。ギルドの仕事を受ける際の注意事項や禁止事項。罰則が書かれております。どれも常識の範疇で行動して頂ければ問題はありませんが…ご説明致しましょうか?」


「結構です!後藤さん。早く書いちゃってよ。」


山口が面倒臭そうに応える。僕はパーティーの名前よりは確実に大事であろうその説明を断らざる負えなかった。山口と神崎の冷たい視線が僕に説明を聞く事を許さない。僕は短い溜め息を漏らし、黙って四枚の紙にパーティーの名前を書いた。


「ありがとう御座います。これで新規登録は全て完了致しました。こちらがギルドの身分証四枚とGサポーター、一つになります。サポーターは代表様が必ずお持ち下さい。」


僕は四枚のプラスチックのカードとスマートフォンに似た、一台の機械を渡された。


(意外に簡単だったな。)


「尚、先程使用して頂いたペンで、皆様の皮膚を僅かですが、採取させていただきました。仕事を受注する際の本人確認で使用する為です。」


僕達は全員、自分の手のひらを見る。しかし、僕以外の人は自分の手の変化に気付く事は出来なかった。


「極微量ですので分かりませんよ。」


僕は中指の第一関節辺りにある、僅かな凹みを見ながら考える。


(次は図書館か。…しまった!僕はバカだ。)


僕はある事に気付き、周りの仲間の顔を見る。みんなは課題の一つをクリアした事に、喜びの表情を浮かべていた。


(…僕達は誰も文字が読めないじゃないか!)


その二十二


「こちらは、契約書の控えと、Gサポーターの説明書になります。後は最近のギルドの広告です。こちらはサポーターでも御確認頂けまのでよろしかったらお持ちになって下さい。」


「ありがとうございます。ついでに教えて頂きたいんですが、タクシーはどちらに行けば呼べますかね?」


分からない事は出来るだけ、この場で聞いておきたかった。ハリブならば分かり易く教えてくれそうだからだ。


「それでしたら、早速サポーターにタクシーと話し掛けてみてはいかがでしょうか?」


(こうかな。)


「タクシー。」


僕は手に持った機械を口元に運び呟いた。すると機械が話し始める。


「タクシー。…現在位置カラ最モ近イタクシー会社ハ王宮都市外町タクシーニナリマス。オ繋ギ致シマスカ?」


山口が目を輝かせてこちらを見ている。


「ルーキーの端末でもそれぐらいの機能は付いていますよ。どうぞ、ご活用下さい。」


「ルーキーって?」


神崎がハリブに質問するが、ハリブは笑顔で僕のサポーターを指差す。


「ルーキー。」


僕の言葉に反応して、端末が話し始める。


「ルーキー。ギルドデノ位ヲ表ス言葉。新規登録シタ時点デノ最初ノ位。受注出来ル仕事ガ最モ少ナイ。ドンナ仕事デモ、二ツ以上達成スレバビギナーニ昇格可能。」


「だってさ。」


「なる程ね。」


(これは使える。)


神崎も同じ事を思ったのか、嬉しそうだ。


「お節介だとは思いますがルーキーの仕事は、私達補佐官の立ち会いが必要となっております。本日はお仕事をなさいますか?」


「いえ、今日は結構です。また機会があればお願いします。」


僕は丁寧にハリブの申し出を断った。


「作用で御座いますか。それでは、また何か有りましたらお尋ね下さい。私、王宮都市ギルドA級補佐官、ハリブが御説明させて頂きました。」


「ありがとうございました。」


僕達は感謝の意を込めて頭を下げてから、その部屋を後にした。

部屋を出ると改めて沢山の人混みに驚く。僕達は必死に人混みをかき分けながら出入り口に向かった。途中、二足歩行の身体の大きな狼や頭から二本の触覚を伸ばした、緑色の人とすれ違い、驚きながらも何とかギルドの外に出る事に成功した。


「ふぅ〜。後藤さん、タクシー呼びましょうよ。」


「そうですね。…タクシー。繋いでくれ。」


僕は手に持った端末に話し掛ける。


「了解シマシタ。………………………はい!王宮都市外間タクシーで御座います。」


「へぇ〜便利だな。これ。」


神崎の言葉から察するに端末には会話助長機が内蔵されている様だ。


「今、外町のギルドにいます。王宮図書館まで送迎してもらいたいんですが。」


「かしこまりました。その距離ですと、400両かかりますが、よろしいですか?」


(両…この世界の通貨か。)


「大丈夫です。お願いします。」


僕はカゲローがくれた札束を確認せずに言った。カゲローがタクシーを進めていたのだ。確認する必要は無いだろう。


「かしこまりました。すぐに向かいます。」


「通信ガ切断サレマシタ。」


端末が言う。


「おい。見ろよ、アレ。」


神崎の視線の先には江戸時代の侍の様な鎧を来た者が四人。兜と顔を覆う面具から、性別を判断する事は出来なかった。ギルドの角辺りでこちらを見て、何やら話している。


(侍?…王宮侍隊か?本当に侍の格好なんだな。)


僕はカゲローの説明を思い出した。


「カメラ持ってくれば良かったな〜。」


山口の気の抜けた声。


「おいおい。遊びじゃないんだぞ。待ってるみんなの為にも早く元の世界に帰れる方法を見つけないと。」


「は〜い。」


珍しく神崎が真面目に注意をする。それに対して山口は気の抜けた返事をした。


「…来るぞ。」


いち早く、気付いたのは西丸だ。神崎の発言に何か気付いたのか、侍達がこちらに向かって歩いて来る。


(…なんだよ。)


「ど、どいて下さい〜!!」


その時、もの凄い速度で前方からワゴン車が突進してきた。


「ズザザザァー!」


それは僕達と侍の間に猛スピードで割って入り、急停止した。


「ガチャガチャン。」


侍達は驚き、音を立てて尻餅をついた。


「貴様ぁー!」

侍の一人が尻餅をついたまま、声を上げる。


「ああ、なんて事でしょう。ごめんなさい。…あ、後藤様ですわね。外町タクシーですわ。お待たせ致しました。」


僕達がいる側のドアが自動で開く。しかし、僕達は目を丸くして立ちすくんでいた。


「お前達、動くな!神を名乗る詐欺師め!」


その発言に僕達はさらに驚く。


(は?どうなってるんだよ。)


「なんか、逃げた方が良くないか?」


神崎の発言に対し、侍達は黙って腰に差した鞘から刀を抜いた。会話は通じるらしい。


「逃げよう!早く車に乗るんだ!」


僕の言葉を合図にみんなはワゴン車に飛び乗る。

「は、早く出して下さい!」


どうやらこの車は片面にしかドアが付いていない造りの様だ。その仕様に僕達は助けられた。


「ガキン!」


侍の一人が車を斬りつける。だが車の外板には全く歯が立たなかった。この車は相当丈夫な材質で出来ているのだろう。


「分かりましたわ。え〜と、これを握って…。」


「キュキュキュー!バシュン!」


「お、おい!…うわー!」


車は止まっていたとは思えない速度で急発進し、前方から周り込もうとしていた侍を吹き飛ばし、そのまま猛スピードで進んで行った。


「ま、またやってしまいましたわ。」


(大丈夫か?こいつ。)


僕達は後方で何やら叫んでいる侍達を後にして、その場から逃げ去った。


「あの人、生きてるかな。」


「あれぐらいで死ぬ様でしたら、侍隊失格ですわ。」


山口の呟きに対して運転手が応えた。


「キィキィー!」


「う、うお!」


車が後輪を滑らせて九十度近い曲がり角を左折する。


「も、もう少しゆっくり運転出来ませんか?」


「申し訳ありませんわ。今日が初めてのものでして。」


この世界の運転はこれが常識なのかと勘違いしそうになっていたが、そうではないらしい。彼女の発言で僕の顔から血の気が引いた。運転席の後部には彼女の写真と名前らしき物、後は複数の項目があり、そこには直筆で文字が書かれていた。いずれにせよ、僕達にはその文字を理解する事は不可能なのだが。写真にはカゲローと同じ種族で栗色の長い髪を首の位置で綺麗に巻いている女性が笑顔でこちらを見つめている。


「あの人達。僕達を見て詐欺師って言ってましたけど…。」


しっかりと現状は把握しておかなければならない。場合によってはすぐに引き返さなければならない事になるだろう。


「昨日の原因不明の暗闇ですわね。今朝のニュースでは大昔に神様を召喚した儀式の効果に似ているだとか。」


流石にこの世界の人達も気付いている様だ。


「王宮からの発表では実際には神様が転送されて来た事実は無いとの事ですわ。しかし、自分を神と名乗り民を惑わす輩が出て来たとかで、侍隊が直々にパトロールされています。……ニュースを見てらっしゃらないんですの?それにその耳。」


僕は慌てて話を変える。


「お若いのにタクシーの運転手なんて大変ですね。外見からは良い所のお嬢さんみたいなのに。」


運転手はこちらを振り返り笑顔を見せる。


(前を見ろ。前を。)


「やはり、分かってしまいますわね。育ちと言う物は滲み出てしまいますわ。オーホッホッホ。」


僕達も合わせて苦笑いを作る。西丸は慣れていないのかぎこちない。


「貴族生まれの私がこんな仕事をさせられるのも、全てケレン王のせいですわ。全く、信じられませんわ。」


「危ない!」


山口の叫び声で車は急停止する。僕はジェットコースターに乗った時の様な冷たくぞっとした感覚を覚えた。車の目と鼻の先には小さい子供がゴムボールらしき物を持って、目を丸くして立ち竦んでいる。


「うわぁ〜ん。」


その少年は泣きながら細い通りに走り去って言った。


「……飛び出しはいけませんわ。」


(生きて図書館までたどり着けるのか?)


恐らくは運転手以外の全員が思った事であろう。


「そういえば俺達、侍隊の人をひき逃げしたけど…。俺達ってこの国の犯罪者?」


「…………。」


神崎の問い掛けにしばしの、沈黙が訪れる。


「…ばれませんわ。」


(それで良いのか?)


運転手の発言に僕は心の中だけで疑問を浮かべる。


「あの〜。」


「カリンですわ。」


山口の言葉にカリンと名乗る運転手が応える。


「カリンさん。私は山口です。ここの人達はみんな会話助長機を付けてるんですか?」


「ここで商売される方々はみなさん付けていますわ。様々な種族が来ますからね。…そういえば、あなた達変わった種族ですわね。何処の国からいらしたの?」


「………。」


急な質問に咄嗟に応えられる者はいない。


「…私とした事が失礼な事を聞いてしまいましたわね。お気になさらずに。でも地方出身だからって恥ずかしい事は何もありませんわよ。」


何か勘違いをされている様だったが、その方がこちらとしても都合が良いので誰も否定はしない。


「話は変わりますけど、私たち、町を歩いていると、クラクションを鳴らされるんですけど…。」


「それはあなた達がこの町の民に歓迎されているからですわ。この町は外から来る観光客によって大分潤っていますの。誰が始めたのか、見慣れない他の種族を見ると歓迎の意を込めてクラクションを鳴らすのですわ。」


(それにしても五月蝿いとは思わないのか?やかましいだろ。)


ここに至るまでにも何処か遠くから、複数のクラクションの音が聞こえてきていた。


「宜しければ、観光名所を御案内致しますわよ。入社する際に私も覚えさせられましたわ。」


「結構です。」


今はそんな暇は無い。時間が余っていたとしてもカリンの運転で観光ツアーなどごめんだ。

僕が即答すると、カリンの残念そうな表情がバックミラー越しに見えた。

「それより、みんな聞いて下さい。…図書館に行った所で僕達は誰も字が読めないじゃないですか。」


「……あ。そっか。てかそれ、早く言ってよ。」


山口が不機嫌そうに応える。


「それなら大丈夫だ。俺に任せてくれ。」


「え?神崎さん。この世界の字、読めるの?」


「ん?読めないよ。」


「おまえな〜…。」


そう言って僕はある予感が頭に浮かんだ。


(こいつ、カゲローの家にいた時に何か[見て]きたんだな。)


「そういう事だ。」


神崎は僕の表情を見て言った。


「どういう事よ!」


「着いたら説明するよ。」


山口は子供の様にふてくされて外を眺め始めた。まるでゲームの中の様なこの景色を…。


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