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ヨンワ・オワリ

「それ、まず手首を反してうまく捻って引け、そんで……(縄抜けのマジックは簡単なものならば、よくネタ明かししているので省略)」

 そんな説明を淡々と進め、福原がその通りに解こうとしたら、

「はいストープッ! フライングはいけません。スタートと言ったら始めなさい。そうしないとジャジメーンツーが二人ともぶっ殺しまーす」

 あれ程の説明聞いて、頭では理解しているのだが、いざとなると『我先きに』は否めない。

(はえーよ!只でさえ訳解んねぇーのに、人殺しの心構えなんか出来るかよ)

 心は二分する。

(でも……ヤらなきゃヤられるし、あぁどうしたら……)

 頭の葛藤と言うのは、本人の慰めでしかない。おそらくは、二卓なら誰でも先に殺すを選択するに違いない。

 あえて、自分に言い聞かせているだけだ。“仕方がないことなんだよ”って。

 福原も心は決まっていた。何故なら、

「はーいスタート!!」

 と、同時に直ぐに縄を解き始めたからだ。だが、そんな心を見透かしたように、

「と言ったら始めるんだよ! ベタに引っ掛からないようにしないとねぇ」

(……)

(そんなジョークはもう結構だ。自分の身は自分で守る! 早く銃を、早く殺させろぉぉ)

 

  

「犯人からは、なんの応答も無いのか!」

 集まった警察は、何も変わらない状況にヤキモキしだした。

 いつのまにか集まっていた野次馬とマスコミのたかり。

「仕方がない。情報提供者によれば、犯人は一人。こちら側に気をそらせている内に突入班を待機ポイントまで進めろ。合図を待って突入だ」

「はいっ」

 その指示により、突入班は建設途中の真新しいビルの中に入り、標的の五階へと掛け上がった。

 入り口は一つ。そこを囲むように待機。

「待機完了。指示を待ちます」

 福原はドア一枚隔てた向こう側に、救いの手が差し伸べられた事にも気付くよしない。

 そして……

「はい!スタートー!」

 解いた。福原は懸命に解いた。無我夢中で解いたのだ。

「よし、突入!確保、確保だ!」

 ―――――――ドンッ!

 突入班の蹴り開けたドアに鍵が掛けられておらず、いとも簡単に開いた。それに紛れて消えた発砲音。

 

 !!!!!

 

「抵抗するなぁ!」

「確保!確保!」

 福原は目を丸くしていた。

 何故なら彼が縄を解き、目隠しを剥ぎ取った瞬間見た光景は、何もなく、頭から血を流し倒れていた死体。

 すでに息は無いように見て取れた。

 只、それだけ。携帯は福原本人の物で、小さなテーブルにポツリと置かれていた。

 突入班が入って来たことに動揺し、辺りを見渡したが、ジャジメーンツーの姿もなく、只、自分と面識も所在も知らない死んだ男だけだった。

 突入班にボコボコにされ、捕まって、手錠を羽目られていても、すべてはスローモーション。

 頭の混乱。消沈。

 彼は解っていない。

 

「あっ!犯人が出てきました!カメラ捕らえてる?」

「あぁバッチリ撮ってるぜ」

「犯人は何か大声で訴えている模様です」

 

  

 ○○社『営業部』

「部長。お茶が入りましたよ」

 携帯電話を気持ちイイほどに音を立てて閉じ、窓の外を眺めていた男は、イスをクルリと回し、

「お茶、ありがとう」

 その顔は笑っている。

「何か良いことあったんですか?北田部長」

「何故?」

「笑ってらっしゃるから……」

 北田は、茶をスッと持つと、

「あぁ、クライアントからいい返事を聞けたんでね」

「そうなんですか!良かったですね部長」

 そういうとお茶を運んで来た社員が自分のデスク戻っていった。

 北田は視線を湯呑みの茶に向けると、呟いた。

「実にいい返事だったよ!これで私の部長の座もしばらくは安泰だ。フフッ」

 

 後日、北田の着信が福原の携帯に入っていた事に警察が気付き、北田を呼び事情聴取したが、福原が定時に出社しなかったので電話をしていたと、電話には出たが無言、それに必死に呼び掛けたと話し、問題なく落着した。

 

  

「こんばんわ。ニュースの時間です。今夜のトップは『人質殺害立てこもり事件』の続報で、犯人逮捕後の映像をお伝えします……」

 その晩のニュースは各局で福原が取り上げられた。

 彼の苦悶の表情は何かに取りつかれているようで、映像の終わる間際まで、彼が叫んでいたのは、

「俺はヤってないぞー!俺じゃないんだぁぁぁ」

 

 その晩のニュースを見ていた一人の視聴者がデジタル光線の放つ画面の福原に、こう呟いた。

 

「間違いなくお前だろギャハハ!!」

 

 四角い平面体の画面には、いつしかコンピーターゲームの単調羅列の映像が映し出されていた。

 対岸の火事と言うのか、日々淡々と平穏無事に暮らしている日ほど、人は無常に他人事ですませてしまう。

 無論、福原の側には銃はなく彼は殺してはいない。

 寧ろ、被害者であって加害者ではない。

 だが、誰もが被害者にも成りうるし、加害者にも成りうる日が来るかもしれない。それが、どんな些細なことであろうとも。

 その時は死か?生きて冷たい監獄か?

 目の前が真っ暗闇になり、全身金縛りのように成り、言葉も発せられない感覚を体験したとき、覚悟を決めてください。

 電気を消して寝るときも、一度、自分のいる場所を確認してみてはいかがですか……

 

 完

読んでいただき有難うございました。特にホラーではなかったですね。すみませんでした。

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