イチワ
全四話の連載です。短篇の予定が長くなりましたので。ジャンルはホラーですが、ホラーではないかも。その時はすみません。
暗闇が恐いと言うのは、個人差があるだろう。
私達が普段目にする物は、光の造作による人体の芸術作品のようなもので、様々な才色、形態を映し出している。
では、暗闇には何も“無”なのかと言えばそうではない。目で確認できないだけで、存在自体消滅(0)になる事はないだろう。
これを今まさに実感している者がいる。
とある一室に何故か手足を椅子に縛られ、目隠しに猿轡といった、確実に拉致監禁されている男がいた。
彼はサラリーマンで、そこそこ営利を上げる世論と戦う中堅営業マン。
何の変哲もない日々を過ごしてきた福原悦雄、三十五歳、独身。好きな食物は納豆に大根卸しとちりめんじゃこをおとしたもの。ルックスはかなり良く、一応そこそこモテる。唯一、人に見せられない趣味が、テレビへの独り言。特にメンタルニュース。
「まさかあの人が!」
なんて聞くと、
「オメェもだよ! 偉そうにしゃしゃり出てインタビュー受けてるけど、あんたも含め世の中そんな奴ほど人を殺すんだ」
ギャハハ!
さらに、
「俺は殺ってない!」
と聞くと、
「間違いなく貴様じゃー!」
ギャハハ! ギャハハ!
意外にショッパイ奴。
そんな彼にしてみれば、刺激を通り越し、恐怖と絶望に心を打ちのめされた何者でもなく、目隠しで目の前真っ暗闇で、本人にしてみれば何処に居るのかさえままならないでいる。
この異常な迄の空気は堪え難い苦痛で、頭の中は変な妄想帯が駆け抜け、なぜか辿り着く考えは、『このまま何もなければいい』という錯覚を起こすが、手足縛られ、目隠しに猿轡された状態で“何もない”では済むはずもない。
案の定、次の瞬間。
「はいドーーーンッ!」
突如、彼の近くから声がこだました。