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TEN-ROBO.-天才少女とロボット執事-  作者: ツキミキワミ
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番外ーなめこ到来

雪洞が山積みにされた書類を前に顔をしかめていると、軽やかなノックの後涼しげな顔をしたフランシスが入ってきた。

「失礼いたします、御茶をお持ちいたしました。

本日は北西から取り寄せましたローズと、東南諸島で栽培されましたマンゴー、ショコラティエに考案させましたハニーナッツとご用意してございます。どちらのフレーバーになさいますか」

慣れた手つきで銀色のポットを一列に並べると、主人に香が届く程度にそれぞれの蓋を開けてみせる。

しかし雪洞はフランシスに一瞥もくれず、聞いているかすら定かでない様子で答えた。

「ああ、うん。適当に混ぜといて」

今はそれどころじゃないの、とよせた眉間を一層せばめると、ぶつぶつ何かを呪文のように唱えている。あまりご機嫌は麗しくなさそうだ。

「かしこまりました」

30度きっかりに一礼すると、フランシスは命令通り茶葉を混ぜんと匙をとった。そんな従順な執事を見て、小柄な少年が慌てて止めにかかった。ドアマンのニコラである。

ニコラは自分より頭一つ分以上高い執事の腕にしがみつくと、カップを取り上げて言った。

「いやいやいや!ほんとに混ぜちゃだめだよフランシスさん!一体どんな味になるのさ、それ言葉のあやだから!」

「しかし」

「しかしもかかしもないって!全く、フランシスさんは頭いいんだか天然なんだか」

「私は人工知能ですから天然ものではありませんよ」

「いや、そういうことではなくて…」

大きな扉の前で従者たちはああでもないこうでもないと騒ぎ立てながら、執事とはなんたるかという論争まで引き起こし始めた。

論争というより言い負かされたニコラにフランシスの説教が始まったわけだが、その声が雪洞の唱える呪文と重なった折ついに主人が机を叩いた。

「あああ!もう、うるさーい!!!」

可哀想なのは急にぶたれて悲鳴を上げた木製の机である。しかしおかまいなしに再度机をひっぱたくと、雪洞は「ええいこんなものー!!」と手に持っていた書類を宙に放り投げた。

何やら様々な図面が書き込まれた紙たちが悲しげに舞いながら落ちていく。

ひぃっ!と身を縮こまらせたニコラの横で、フランシスは表情一つ変えず雪洞へ近づくと床に落ちた書類を拾い上げた。

「新しい篝での企画書ですか」

”夢を叶える世界”がコンセプトの篝では、住民たちが自ら新たな娯楽ツールを作り出す。

もちろんIT世界で実現できる規模に限るが、その内容は平和な農園づくり、架空のペットモンスター、(篝内で)3D化されるカードゲームなど実に多岐にわたる。

その際に提出するのがこの企画書であり、よっぽどハタ迷惑なもので無い限り、自らプログラミングを用意するならなんでも自由に作って良いことになっているのだが…

「なめこ、ですか」

フランシス視線の先には、紙面にでかでかと描かれたアンニュイ笑顔のきのこがたたずんでいた。

その下の説明文によれば、『なめこをひたすら耕しては収穫する。種類は全部で100通り以上。時々敵のエリンギ襲来が起こる』などと書かれている。

「なんなんだこのバカバカしい企画は!私の篝をなんだと思っているのかしら!」

時折このように、経営者の趣好と相反する企画も上がってくるのである。


「私はこういうの好きじゃないわ…。

変なものをつくって、私の篝が穢されたら困る。


ふふふ…まあ、いいじゃないの、こうなったら、私自ら篝にぴったりのものをつくるわ


私に不可能なんかないのよ。」

そう不敵な笑みを浮かべた少女は早速仕事にとりかかった。

執事はそんな彼女の様子をみて微笑し、いつもの紅茶を煎れ、机に置くとニコラと一緒に部屋をでていった。


ーーー


「ええい!なんでなめこをエリンギが襲うのよ!

エリンギは山にかえれ!」

悪態をつきながらプログラミングをし、その2時間後には作り終えていた。


ふぅーといきをついて、データをタブレットに移し、部屋を出ると、シャナがてけてけと走ってきた。


「りーぼー!あそぼーーうふふ」


雪洞が幼女の頭をよしよしと撫でていると、

「終わりましたか?ではチェック致します」

と背後にきていたフランシスは雪洞の手からタブレットをとりあげていった。


「りーぼ!りぃーぼ!お絵かきしよ!」

「いいわよ!」


そう答えて、シャナの遊び部屋に行こうとした瞬間、

「おいコラ、待てや」とドスの効いた声が耳に届いた。

「なによ、フランシス。完璧なプログラミングに嫉妬してるの?」

その少女の答えに青年は一瞬固まると大きな溜息と共に

「…馬鹿もやすみやすみにしてくれ」

と言い放った。


「うわっくろっ!」フランシスの反対側からきたニコラが思わず叫ぶ。


「黒いなんて人聞きが悪いな。」


く…口調まで変わってる!

少年が思わず後ずさりしたのを不快に思いながら青年は、

「これはなんだ!?」

と少女に詰め寄った。

「何って、企画書のやつよ」


そういって少女は口を尖らせる。


「あれが、か。ふっ…笑わせるなよ」

そういって青年はメインキャラクターの画像がでてるタブを突きつけた。


「何が問題なのよ、素晴らしく綺麗ななめこじゃない。こんなのだったらまだ栽培を許可してあげてもいいじゃない。」


「雪洞様…これって…」

ニコラが目を丸くし、口に手を当てる。


「てかなんでエリンギって菌類ってか山にいるキノコがわざわざ海にいる生物を襲ってくるのよね?



でも馬鹿丸出しよね、この企画者も。海にいるなめこを飼うのじゃなくて、栽培って。国語をやり直した方がいいわよ。」

と真剣な顔で少女はいった。


「しゃなにもみせてー!!」とキラキラした顔で幼女がフランシスに駆け寄り、画面をみて「キラキラなまこぉー!シャランラー♪」と即興で歌をつくった。


「こら、シャナ、なめこよ。」と叱る少女をみて、青年は額に手をあて、「間違ってるのはてめぇだよ」といった。


「へ?」


「嘘でしょ?」そういい、ニコラに同意を求めるが少年は目をそらしている。


「嵌めてるの?」引きつった笑みを浮かべながら自分の間違いを認めないプライドの高い少女を青年は

「…ググれカス」と見下ろしながら言い放った。



その次の日から雪洞の食事は、なめことなまこを使った料理だけだされるというのが一週間続いたという

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