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TEN-ROBO.-天才少女とロボット執事-  作者: ツキミキワミ
37/40

4-8


招かれた彼の家は、真っ赤な屋根にレンガ調の、「いかにも」な豪邸だった。

友人が読んでいた絵本で、主人公がこういう屋敷でこき使われていたな、などと思い出す。


「さあ、家に着いたよ」


彼は自然な動作で私の肩を抱くと、家の隅々まで丁寧に案内してくれた。

父親の書斎、太ったコックのいる台所、執事専用の宿泊部屋――孤児院に来た老紳士は、彼の執事だった


しかしその間、私はちっとも心がはずまなかった。

この豪邸が本当に私の家となり得るなど、微塵も信じていなかったのだ。

どうせ「大人の事情」で、一時期だけ預けられたんだろう

もしくは、シスターの考えた、新手の社会科見学の一環かもしれない

いずれにせよ、すぐに孤児院に送り返しだ

などと本気で考えていたのだから、なんとひねくれたガキだったろう。



最後に案内されたのは、壁中が本棚で覆われた、研究室のような一室だった。

積み上げられた本たちに、私は一瞬にして目を奪われた。

世界各国の有名数学雑誌、科学論文集、物理原則教本…

凄い。

もしこれを全て読めたら、断片的な今の知識が全て繋がる。体系化された学問を入手できるだろう。新しいこともたくさん学べる。

誰にも邪魔されることなく、何も恐れること無く、ここで日がな一日過ごしてみたい――

思わずそれに駆け寄って、仰ぐように眺めていた。


「君の部屋だよ」


振り返ると、三人の大人がそこに立っていた。

口ひげを生やした男性と、それに寄り添うふくよかな女性、そして寝ぐせのついた白衣の男性。


「フィニステールさん。これが例の子かい」


「そうさ。体が弱いみたいなんだ。トムキンス、世話を頼むよ」


体が弱いのは坊っちゃんだけで十分だわ、と白衣の男性が頭をかく。


「どれ、ちょっと手なづけてみようか」


差し出された手からは薬品の匂いがして、私は思わず、彼の背中に隠れた。


「おじさん、女の子を誘う時は、もっと丁寧にやらないと駄目だよ」


彼はわざとらしく肩をすくめ、跪く真似をしてみせる。


「…フィニステールさん。女の子の体調より、俺は坊っちゃんの将来が心配ですぜ」


来た、ついに来た、と私は思った。

さあ、何処に飛ばされるんだ。

この人科学者みたいだから、まさか人体実験とか…


彼の服の裾を握りしめ、大きく息をついた時だった。

真っ白な白い手が、すっと私の前に差し出された。

大きな赤い指輪がついているものの、パンのようにふくよかで、どこか温かい手。

同時に、優しい声が耳に届いた。


「いらっしゃい。あなたに会えて、嬉しいわ」


彼の母親。

最後まで「お母さん」と呼べなかったけれど、一生感謝してもしきれない、私の恩人だ。


導かれるままに、その懐に抱かれる。

初めて感じる、包み込むような安心感だった。


ヒューッ、さすが奥さん、と後ろからトムキンスの声がする。


4人の笑い声を聞きながら、私はようやく、変わり始めた自分の運命に気付き始めていた。



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