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TEN-ROBO.-天才少女とロボット執事-  作者: ツキミキワミ
36/40

4-7

幼いときに母を亡くした。


父は居らず、名前すら知らない。



私は身寄りのない、いわゆる「みなしご」だ。


山奥のこじんまりとした孤児院で

5歳までの時を過ごした。


同年代が山で海で走り回っているなかで

私は一人、テレビジョンで配信される数学の講義を見ている

なんとも嫌なガキだった。



そんな私を引き取ってくれたのが、彼の両親だった。



昨晩までぐずぐず降り続けていた雨が止み

久方に綺麗な青空を迎えた朝。


金属音のベルとともにステンドガラスのドアが開き

上品そうなスーツに身を包んだ老紳士が現れた。


紳士はシスターといくつか言葉を交わし

礼儀正しく頭を下げた。



特に気を引くものがあったわけではないのに

私はそんな二人をなんとなく眺めていた。




するといきなり、誰かが私の頭に手を置いた。


驚いて振り返ると、真っ白な男の子がそこに立っていた。

真っ白な男の子、とは変な言葉かもしれない。

しかしそれが、彼の第一印象だった。


銀色の髪に銀色の瞳

雪のような肌に、真っ白な洋服。



私はこのとき初めて、「人に見とれる」経験をしたのである。



彼は折れそうなほど細い膝でしゃがむと、私の手元にあった数式パズルの紙を覗きこんで言った。


「すごいね…。これ、解けるの?」



「…今、といてるとちゅう」



「へえ。今度僕にも教えてくれない?」


彼はパラパラとそれをめくっていたが、目線を私に移すと穏やかに目を細めた。



「僕は、アーサー。君は?」


「…雪洞」


「ぼんぼり。珍しい発音だね。

東洋の出身なの?」


人と話すことに慣れていなかった私は、俯いたまま答えた。


「…し、知らない」


「聞いたことないの?」


「べ、別に知りたいと思ったこと、ないから」


すると彼は、しばし黙って私を見つめた。

彼の綺麗な瞳に、自分が映っている。

感じる視線から逃げるように、私は思わず後ずさった。



彼は足元に散乱する科学雑誌を拾い上げると、立ち上がって私を見下ろした。

当時10歳の彼は、同年代に比べれば背の低い少年だったのだろうが

私にはとても大きく、大人びて見えたのを覚えている。


彼は再び、私の頭に手を置いて言った。



「君に決めた」


「……え?」



「僕の妹になりませんか?」


言葉の意味が分からずに、私は顔を上げて彼を見返した。


「それは…つまりどういう」


「君と毎日、一緒に居たいな」


一瞬の沈黙の後、私はあんぐりと口を開けて彼を見た。


そんな私を見て、彼は吹き出す。


思えばこのときすでに、私は彼の運命に巻き込まれていたのだ。


私たちに気付いた老紳士が、驚いた顔で近付いてきた。

彼は笑ってそれに応えた。



このとき彼等は始めから、噂の「IQの高い子供」を養子にするか見定めに来ていたらしい。

それを知ったのはしばらく後になってからだ。

それでも彼は、周囲の予定よりはるかに早く私を迎えてくれたのだ。

私の「生意気さ」が気に入ったのだ、と、これも後で聞いたこと。



いずれにせよ、こうして彼との“兄妹”生活が始ったのである。


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