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TEN-ROBO.-天才少女とロボット執事-  作者: ツキミキワミ
32/40

4-3



「はい。多大なリスクを追いながらのお嬢様への直接攻撃、『別の世界に連れていく』というユリシスの言動から、

彼らが何らかの手段でお嬢様をどこかへ輸送しようとしたことは確かです。


肉体の輸送とは既成理論を越えていますが、消滅したというよりは何処かへ移動したと行った方がまだ頷けることを考慮すれば

その行き先は篝のような異次元空間と仮定することも十分可能。


そして本来の狙いが失敗したとなれば、再びお嬢様をこの別世界に送ろうと次の手段を当然打たなければならない。

となれば、いっそ手の打ちを見せ…つまり、シャーロットの居場所を明らかにし

お嬢様をおびき寄せる餌にした方が合理的との判断故の行動でしょう。


以上のことから、これはシャーロットが居ると思われる場所の説明書かと思われます」



頭の中にある情報を一気に吐き出すと、フランシスは大きくため息をついた。


彼の視線の先にある雪洞の瞳が閉じられているのは

執事の言葉を聞いて故なのか

彼女の思考がその遥か先を行っているからなのか。



「…ほんとね、


正解よフランシス」




雪洞はゆっくりと目を開いて、フランシスを見つめた。




そして椅子に座って足を組むと


重々しい口調でついに話し始めた。



「篝は失敗作なの。


元々私は、身体ごと他空間に輸送するシステムを創ろうとしていたの。



篝は、その研究の過程で出来たもの。


脳内エネルギーの発見を受けて始めた研究だけれど

私にとっては、陽炎開発のための1ステップに過ぎなかった」


雪洞は天井を見あげ、フッと笑った。



「こんなものを創りたかったんじゃない…そう思った。


それでも、かすかであっても私の道を照らしてくれるものにようやく出会えたの。


だから、篝火。


【篝―KAGARI―】というのは、そんな情けない意味なのよ」




フランシスの頭を殴られたような衝撃が襲った。



-なんだそれは。


聞いていないぞ。


【篝】の意味とは、昔人々が追った夢への道筋を

再び照らす灯のことでは無かったのか。



そしてなんだって、肉体の輸送…?


これまでと話が違いすぎる。


篝の最大のメリットとは、肉体の放棄そのものだ。

精神だけの世界ゆえに、自由度も異なれば現実のものでなくとも、可能性が生じるのだ。


それが肉体も伴った異次元輸送となれば

それは現実世界となんら変わらないじゃないか。


お嬢様のなさりたかったこととは


一体何なんだ。



錯綜する情報の渦に半ば意識を失いかけながら

フランシスはトムキンスの顔を見た。


トムキンスは眉を潜め、重く真っすぐな眼差しで雪洞の横顔を見ている。




「篝が出来てから何年も、陽炎の発明のために色んなことをしたわ。


言いたくないことも、あなたは聞かない方がいいことも。


それでも結局、完成はしなかったの。完璧なものは、ね」




「お待ちください」


フランシスは額に手を当て、頭から懸命に考えを絞り取るように言った。



「輸送先はこの世界のどこかですか、それとも篝の様な異次元ですか。


肉体の輸送とは、分子レベルまで分解し超光速で移動させるということですか。


万が一それが可能となったとしても、形質をもたないエネルギーと異なり

分子同士の衝突はどうなさるのですか。


精神が行けば肉体も、というのは短絡的すぎませんか。それは話がまた異なるでしょう」


お嬢様ほどの人が、それが分からないのですか。



-違う、そんなことじゃない俺が聞きたいのは。



フランシスは、顔をあげて雪洞を見た。



「陽炎とやらを作るメリットとはなんですか」



雪洞はフランシスと目線を合わせなかった。


そして淡々と、言葉を続ける。

質問には答えなかった。



「一度だけ、それが成功したことがあったの。


無我夢中で…いくつもの相互作用が起こって偶然起こった物質の輸送よ。


その時のコードが、これ」


そういって空間に浮かぶ無機質な図形達を指差した。



「不規則な上昇気流によって生じる陽炎のように、


刹那的に立ち上った世界。


私はこの不安定なモノを【陽炎-KAGEROU-】と名付けた」




「…つまり、一応物質の輸送理論は確立されたということですね」



雪洞は少女は首を横に振った。


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