3-10
バンバンッ!!
キーン、という耳鳴りととともに
鋭い痛みが頬に走る。
フランシスがゆっくりと顔をあげると、
ユリシスの右手には微かな煙をあげる、小型の銃が握られているのが見えた。
ご丁寧に消音機能までついた、エアガンだ。
ということは発射されたのは銃弾ではなく、高圧で圧縮された空気。
しかし、旧時代のそれとは殺傷能力が桁違いでもある。
いくらロボットでも、あたればそれなりのダメージだろう。
フランシスは身動きひとつせず、正面からユリシスを見据えていた
「気は確かか?」
「ふふ、少しでも動いたら撥ね飛ばしてやろうと思ったものを」
ユリシスが再度ゆっくりと引き金に指をかける。
フランシスの右耳からうっすらと人工血液が滲む。
-ちっ
ギリギリ逸らすこともできないのか、下手くそが…
フランシスがじりっと足を動かす。
「おおっと、動かないでくださいね。可愛い可愛い妹さんを私が頂くことになってしまいますよ」
ユリシスは左袖からも銃を取り出すと、フランシスに向けた。
ーーこいつ、ついに狂ったか
フランシスが思うより早く
ユリシスは微塵の躊躇もなく引き金を弾いた。
バンバンバンバンバンバンッ!!
矢のように鋭い空気の軌道がフランシスの髪をかすめていく。
これほどの痕跡を残せば、後から言い逃れはできない。
無論、監視カメラにもしっかり映像として保存されているはずだ。
突然過ぎる
直接攻撃
ーーこいつ…何がしたい?
「頭は確かか?
いくら音を消しても、すぐに防犯ロボットが来るぞ。
それとも、ここを死に場所に選んだのか?」
すっかり感情か顕になった顔で
フランシスが睨み付ける。
「口の減らない方ですね、私は捕まりませんよ」
全く臆することなく、ユリシスは再度銃口を向ける。
「お前、本気で俺に勝てると思っているのか?」
答える代わりにニヤリと笑うと、
ユリシスは
「楽しみにしていてください、面白いものを見せてあげますよ」
と、言った。
-面白い、もの。
わざわざ訴訟を起こして篝に火をつけ我々を呼び出して
更に奇妙な少年を使って屋敷の写真を撮るなんて面倒なことをしてまで
行おうとしている何か
そもそもセキュリティシステムに侵入したのはこいつらか?
仮にも雪洞のライバルと言われているアリエル嬢なら不可能ではないかもしれない
しかし何かが足りない気がする
そう言えば、あの不可解な電子音
あれも仕掛けの一つということなら
これだけの愚行も
あながちハッタリでもないかもしれないなーー
「生憎ショーは嫌いだが」
フランシスは言った。
「きっと好きになりますよ。魔法のように
消えてなくなりますから」
ー消えるだと?
何を?
そして再び、
ユリシスの指が引き金にかかるのが見えた。
バンッ!
という音より早く
フランシスは手元にあった椅子を引き寄せる。
無惨にも犠牲となった真っ赤な椅子が
紙吹雪のよあに粉々にくだけ散っていく
「そんなもの無駄ですよ!」
ユリシスが再び引き金に指をかけた
その瞬間
飛び散る破片に一瞬気をとられたユリシスの懐に、
フランシスが飛び込んだ。
ひゅおっ と風音が鳴ったかと思うと
地を抉るようなアッパーがユリシスの顎に直撃する。
バキッ
と鈍い音がして、ユリシスはシャナもろとも倒れこんだ。
「こうなったらこちらも実力行使と行こう」
頭上からフランシスの恐ろしく低い声が聞こえるが
体が動かない。
「社会の序列どころか力の差も分からないようだな」
ぴっ、と顔についた赤い破片を弾き、フランシスはうずくまるユリシスを見下した。
「そんなに幼女が欲しいなら、主人に作ってもらえ」
更にユリシスの腹部を蹴りあげる。
ユリシスの両手からカランカランと銃が落ちた。
「かはっ!」
「何を企んでるかしらんが
ネタばらしの時間まで待ってやるつもりはない。
さっさと吐いてもらおうか。
これまではまだ可愛いものと目を瞑ってきてやったが
少々おいたが過ぎたな。
ここらでお灸を据えといてやる」
フランシスが袖もとに忍ばせた短刀でユリシスの肩を突こうとしたときだった。
ユリシスは自分の下敷きになっているシャナをガシッと掴み
胸元まで乱暴に引き寄せた。
そしてフランシスに向き直ると
「これが見えませんか!」
と叫んだ。
「なっ、!」
フランシスの動きが一瞬止まる