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TEN-ROBO.-天才少女とロボット執事-  作者: ツキミキワミ
19/40

3-4

ニコラは屋敷の一室で、精神の抜けたフランシスと雪洞の体の番をしていた。


「ちぇっなんだよロタのやつ。


親切心で言ってやったのによう」


ユリシスに出すお茶を作るのを手伝おうとして、また喧嘩したらしい。


5つ年上のシャーロットが最近どうも気になるらしいニコラは、

何かにつけて彼女について回るのだが、


その度に粗相をしては彼女に叱られる日々が続いていた。


「どうせ同じ味なんだから、茶葉なんて大匙も小匙も一緒だろうが。


あんなに怒んなくても…」


ニコラは椅子に座って足をぶらつかせながら、ぷくっと頬を膨らませた。



「あーつまんない。おれも篝行っちゃおうかなあ。


ダメって言われてるけど。


…そしたらあいつ探しにくるかな」



何を想像したのか、ニシシシッと笑う。


そして椅子から軽快にピョンッと飛び降りると、

そろりそろりと「Do not touch」と書かれた標識のある

ガラスのドアに近づいて行った。



そっとドアに手をかける。


と、


扉の向こう側後で寝ていた2人がガバッと起き上がった。



「わぁっ!」




フランシスと雪洞は顔を見合わせ、現実世界に帰ってきたこと確認するように頷いた。



「あ、御帰りなさい雪洞さん!」


驚いた拍子に転んだ体を起して、ニコラが慌てて声をかけると



「ああニコラ!良かった無事だったのね。


そこで大人しくしてなさいよ!」


と、雪洞はシールドの解除ボタンを押してカプセルを開けるや否や

部屋から飛び出して行ってしまった。


続けてフランシスがカプセルから出てくる。


「あ、フィニステールさんもお帰りなさい」


ニコラの呼びかけに手で応え、雪洞の後を追う様に走っていったフランシスであったが


出口でふと立ち止まってくるりと振り返ると



「お前はまだ篝に入れないと言っただろう、ニコラ。


後で私の部屋に来なさい、御仕置きだ」


とだけ言って走って行った。



嵐のように去って行った二人の足音が遠ざかるを聞きながら

ニコラはしばし目を瞬かせていたが、

はっと我に返ると


-げぇっ、ばれた。


と顔をしかめた。




*****


雪洞が長い廊下を走っていると、厨房から出てきたシャーロットが通りかかった。


「お嬢様、お帰りなさいませ!


あのう、先ほどお客様が…」


「シャーロット!」


雪洞はシャーロットを見つけると、駆け寄って両肩を力強く掴んだ。


「大丈夫!?ユリシスに何もされてない!?」



「え!?ええ…」



雪洞はほっと息をつく。


-何かされるって…やはりそんなに危険な人なのかしら。


いつも馬鹿にしているように見えたから、少し軽く見てしまったのかも。


やはり勝手に入れてはまずかっただろうか…


少ししゅん、としてシャーロットが主人の顔を見ていると、すぐさま


「シャナは!?」


と尋ねられた。


「あ、それが、また居なくなってしまったんです。


どこかに隠れていると思うので探し行こうと思っていたのですが…」



それを聞いた雪洞はぐっと口を一文字に結ぶと


「分かった、ありがとう」


と再び走って行ってしまった。





少し遅れて息を切らしたフランシスが現れる。


シャーロットを確認すると、壁に手をついてほおっと息をついた。


珍しく乱れた彼の姿にシャーロットは思わずドキリと胸が高鳴る。


少し顔を赤らめて、シャーロットは尋ねた。


「あ、フランシスさん。篝の方は大丈夫でしたか?」


「ああ、なんとかな」


「それは安心致しました…あの、今お嬢様が血相を抱えて走っていかれたのですが


何かあったのでしょうか?」


「ああ…厄介な客が来たもんでな。また詳しく説明する。


それにしても…」


ふと立ち止まって、フランシスは耳をそばだたせた。



-何かがおかしい



現実世界に戻ったときから、屋敷の異変を感じていた。


まるで何か、目に見えない細い糸が屋敷中に張り巡らされているように、ピーン、と空気が揺れている。

通常の人間では感知できないだろうくらいの、ごく微かな高音の電子音が鳴り止まない。



-何かを仕掛けているのか、ユリシス


かすかな悪寒が背筋をなぞる。




シャーロットの視線などまるで気に留めることなく、フランシスは雪洞と同じ道を走って行ってしまった。


フランシスの背中を見送りながら、シャーロットがため息をつく。


-もう行っちゃった。相変わらずお二人とも忙しいなあ。


恐らくユリシス様の居る居間に向かったのだろう。


あれ?でも私、ユリシス様が来たと言ったかしら。


…どうして、ユリシス様が来たとわかったのだろう?



ちょこんと首をかしげたシャーロットであったが、


-まあ、あの方たちに不可能なことは無いか。


と納得したようにふっと笑うと


「わかりました、とびきりの紅茶をお持ちしますね!」


と二人の背中に向かって声をかけた。



しかし彼女の言葉が、彼らに届くことはなかった。




後に彼らは悔やむことになる。


この時なぜ振り返って一言、「来るな」と言ってやらなかったのかと。





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