表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
TEN-ROBO.-天才少女とロボット執事-  作者: ツキミキワミ
11/40

2-1

何してるんだろう


こんな些細なことで



あんなに一生懸命かき集めて積み重ねた欠片を踏み砕いている



いつも あと一歩で君を傷つけて


それ以上に僕も傷ついて



結局


逃げてしまおうとしている





僕を許して欲しい―――







ばちっ!



という音と共に、フランシスは目を覚ました。



目の前に飛び込んできたのは、見渡す限り何も無い草原、と、忘れ去られたような鳥居が一つ。



足元を見ると、直径2メートルもの大きな魔方陣が

なぎ倒された草でミステリーサークルのように形作られていた。



そこが篝の中と気付くのに数秒を要した。



――そうだ、俺は確か、お嬢様が来られる前に、先に篝に入ることにしたんだ。

彼女の安全性が確保された、世界を作るために。



ようやく意識がはっきりと戻ってきた。

手元に戻る感覚を捕まえるように、フランシスはゆっくりと掌を握りしめる。



――なんだ今のは…


なんだあの声は。



これが「夢」というものか


「夢」は人間ならではのものでは無かったのか


そういえば俺は時折「夢」を見る気がする

気がするけれど思い出せない



フランシスはぼんやりと、うつろな眼で宙を眺めていた。




胸元につけられた小型無線機から雪洞の声がした。


フランシスははっと我に返った。

今自分がどれだけ無防備な状態であったのかに気付いて

しまった、と顔をしかめる。



「申し訳ありません。少々神経回路が混乱しておりましたようで」


フランシスはマイクに手を当てると、今度はしっかりした足取りで歩き始めた。


「めずらしくぼおーっとしてたわよ。何かあったの?」


「いえ。それよりお嬢様、篝の空間超越経路にも不調が無いか、調べておいて下さい」


「何?どういうこと?」


篝の外、すなわち現実世界の篝管理室からフランシスの映像を見ていた雪洞がマイクに顔を寄せる。


「篝に精神が着地するまでの間、第三者の思考が流れ込んで参りました。

何らかの混線が起こっているのかもしれません」


「…ふぅん。分かったわ。見ておく」


フランシスは「お願いします」と言うと、きびきびと歩き続けて真っ赤な鳥居を抜けた。


しばらく道なりに歩いて行くと、突如下が見えないほど深い崖が現れる。

崖というより、空中に浮かぶ島に乗っていると言った方が近い。


そしてフランシスの居るその場所からは、更に四方八方に伸びる吊り橋がかけられていた。



篝には総勢30の街がある。



ここはいわゆる篝の入り口であり

島に繋がれた橋の向こうに、4つのエリアに分けられた各街があるのだった。

つまりこの吊り橋こそが、篝の世界に続く道なのである。


フランシスは迷うことなく『SOUTH』と書かれた看板をつけた橋を見つけ

300メートルはあると思われる長い道のりを歩き始めた。


大人一人が通れるだけの小さな吊り橋は、

時折吹く風でぐらぐらと揺れる。

おまけに辺りに立ち込める真っ白な霧のせいで、前も後ろもよく見えない。

小心者はまずこの時点で怖気づくらしい。


しかしフランシスは、慣れた足取りで黙々と歩き続けた。


篝の中に入ると、なんとも言えぬ変な感じがする、とフランシスはふと思った。

それもその筈か、要は『幽体離脱』をしているのだ。


「ロボットの俺にも魂があるのか」


馬鹿な、と笑う。



「何?なんか言った?」


「いえ。それより、着きましたよ――」




深い霧の中から、頼りなく地面に突き刺さる二つのくさびと、それに繋がれた橋の先端が現れる。


その向こうに広がる光景に、フランシスは目を細めた。



「おやおや。これはまた」



街は燃えていた。


第3都市で火事が起こった、というよりも

第3都市が火事になった、という方が正しい。


それくらい、街全体が一つの有機物の様に

煌々と真っ赤な炎を空に突き上げていた。


不思議とそれがとても静かであることにフランシスは驚いた。




「見えますか?」


「見てるわ」


雪洞がため息をつく音が聞こえる。


「こりゃあもう駄目ね。財産データも不動産データも。

住民には一からやり直してもらいましょう」


「住民は幸い脱出したようですね。

焼死体、いや失礼、データが焼失した匂いがありません。

こういう時に穴抜けルートがある仮想空間とは便利です」


「そう。住民が居ないのなら周囲の酸素濃度を急降下させましょう」


酸素が無ければ炎は燃えない。

あくまで『自然』な消火にしたがる雪洞の言動に矛盾を感じながらも

フランシスは出かけた言葉をぐっとこらえた。


「中心街はともかく、市街地にも食糧供給用の農作地帯があったはずよ。そこは?」


フランシスはこめかみに手を当てると、ぴぴぴっと瞳のカメラで炎の勢力を計測する。


「規模と風向から察するに、かろうじてそこまでは回っていません」


「私も行くわ。先に向かってくれる?」


「了解しました」



フランシスはくるりと踵を返すと、市街地に背を向け歩き始めた。


それを追いかけるように、


どどどどどどぉっ


と、背後から地響きの様に建物が崩れ落ちる音が響いた。





評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ