第9話 【文化祭】ごめんねゆきちゃん
夕食の時間・・・
私は食べたくなかったのだけど、お母さんに食事をするように強く言われてしぶしぶ部屋から出て食卓についた。
部屋を出る前に鏡を見たが、ずいぶん泣いたために鼻は赤く、目も腫れぼったくていかにも泣いてましたというような顔だった。一言もしゃべらず黙ってうつむき加減で食事を始めたが、どうしてもゆきちゃんの事が気になったので愛花に先ほどの様子を聞く。
「さっき、ゆきちゃんきたでしょ?」
「うん、お姉ちゃんの様子がおかしいから心配だって言ってた」
「それで愛花はなんて答えたの?」
「んー、何にも」
「何にもってなによ」
「何って言われても…お姉ちゃん何も言ってくれないから何もわかんないんだもん。答えようがないよ」
たしかに愛花の言う通りだ。黙って部屋にこもってたのだから…でも今はゆきちゃんにどんな顔をして会えばいいか分からないから玄関まで行けなかった。
「でも一時間くらい話してなかった?」
「話してたよ。文化祭の日優希先輩に会いに行くの」
「そんなの迷惑でしょ!やめなさい」
「どうして?優希先輩来てねって言ってたもん」
「それは社交辞令でしょ!ゆきちゃんは優しいから気を使ってくれているのよ」
「そんなことないよ。優希先輩は本当にきてねって言ってたもん」
言うことを聞かない妹にだんだんとイライラしてくる。
「それよりお姉ちゃんこそ、そんな優しい人が心配して家まで来てくれてるのに追い返すなんて、酷いんじゃないの?」
「うるさいわね!」
追い返したわけじゃない、会えなかっただけなのに妹の愛花には分かってもらえない。さらにイライラが募る。
私達二人の様子を見かねたのかお母さんが少し怒り気に…
「二人とも止めなさい!桜花も何があったか知らないけど優希ちゃんはいい子なんだから、心配かけちゃあダメよ!愛花もお姉ちゃんに口答えばっかりしないの!」
私はまた涙がでそうになる。持っていた箸を叩き付けるように置き、ガタッっと大きな音を立てながら椅子から立ち上がり、涙がこぼれてしまう前に大急ぎで自分の部屋に駆け上がる。まだ殆ど手をつけてない食事をそのままにして。
部屋に入って鍵を閉める。
そして枕で顔を覆い声がもれない様にして思いっきり泣く。
みんな何も分かってない!愛花もお母さんも…
ゆきちゃんがいい人なのは私が一番よく知ってる。みんなに言われなくてもそんなこと分かってる。
分かってる…分かってるからこそ余計に悲しいんだよ。ゆきちゃんがいい人だから余計に辛いんだよ。ゆきちゃんを押しのけて鮎川くんを想い続けるなんて…
でも、好きなの。鮎川くんのことを大好きなこの気持ちも抑えきれない。この想いをどうしたらいいのか分からない。
いっそゆきちゃんが嫌な人なら気も楽だけど、ゆきちゃんはいつも私のことを一番気にかけてくれて、とっても優しくて、とってもいい人なんだもん。
私の一番の親友で自慢の友達。なんでも相談にのってくれていつでも私を助けてくれた。そんなゆきちゃんのことも大好きなんだもん。
ゆきちゃんとはこれから先もずっと親友でいたい、でもどうすればいのか分からない。今はただ泣くだけで答えが見つからない…
どうして鮎川くんを好きになっちゃったんだろう。
鮎川くんじゃなければこんな辛い思いをしなくてすんだのに。
ゆきちゃん、鮎川くん、ごめんね。
ごめんね。