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あなたと永遠の時を  作者: 九条 樹
第二章 大学時代
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第66話 名探偵・優希1

 先輩の話にいくつかの疑問点があったけど、それも質問させてもらってだいぶ全貌が見えてきた。

 家に帰ってきた私は、今日の話を思い出しながらメモに要点をまとめる。

 

 ①先輩は事故によって使用不可となった、展望台の使用許可を得たいと願っている。

 ②展望台は稲村先輩の父、稲村幸造からの寄付によるもの。

 ③4年前に中野静香の事故&事件発生。

 ④事件は裸の写真をネタに強姦する。

 ⑤事故は一人の先輩が足をすべらせ屋上から転落。

 ⑥事件の犯人は二人。うち一人は死亡、もう一人は普通に卒業して就職をしている。

 ⑦両親がいない中野静香は当時弟と二人暮らし、事件後は叔母夫婦と共にオーストラリアへ。


 宮川先輩の話を元に補足を入れると、事件に関しては学校側が徹底的に隠蔽いんぺいしたことによって脅迫、強姦の事実はなかったことになっているとのこと。

 よって事故のことは知っていても、事件があったことは当時の在学生でもほとんどの人が知らないらしい。


 今日の話で私がもっとも疑問に思う点は、宮川先輩が事件に詳しすぎるという点だった。

 それに中野静香の話をしていた時の話し方にも違和感を感じた。

 後半で中野静香の境遇を話していたときの話し方は、まるで当事者かもしくはその目で見てきたような断定的な話し方をしていた。

 それとあの感情を露にした態度も気になる。

 きっと宮川先輩と中野静香には何か繋がりがあるはずだ。

 先輩は否定していたけど、きっと先輩は中野静香を何らかの形で知っているんだと思う。


 今回の一連の話で、この出来事に興味を持ったというよりも、何もかも釈然としない不思議な感じが気になって仕方ない。

 居酒屋で話を聞くまでは、先輩の話を聞かなければならないということが面倒で嫌だったけど、今はいくつかの疑問をすべて解き明かしたいという気持ちだ。


 まず中野静香という人物をもう少し掘り下げて調べてみよう。そうすることで宮川先輩との繋がりが見えてくるかもしれない。

 当時の天文サークルメンバーがわかればいいのだけど、サークル自体が廃部となっているためどうすればいいのかわからない。

 学生課に問い合わせれば何かわかるのかな?

 その前にとりあえず部長に聞いてみようか。それとも稲村先輩に聞いてみるのがいいだろうか?稲村先輩ならお父さんから何かを聞いて知ってるかもしれないし。

 とりあえず明日、部長と稲村先輩の二人に話をきいてみることにしよう。


 木曜日の朝、玄関を出たところで思いっきり体を伸ばす。

 いつもと変わらない穏やかな日差しが、昨日中野静香さんについて話した事自体がまるでなかったことだったような感覚にさせる。

 しかしあの居酒屋で先輩と話をしたのは紛れもない事実で、あの事件も事故も過去のこととはいえ間違いなく起こったことなんだ。

 昨日の話はまだ鮮明に記憶されていて、思い出すたび中野さんがかわいそうで気持ちが沈んでしまう。

 心の中は話を聞く前までと全く違っているけど、表面的にはいつもと何も変わらない爽やかな朝の風景だ。

 私は気を取り直し、自転車にまたがり駅へ向かってペダルを踏みだす。

 駅へ向かう道を走っていると、途中にお寺がある。

 そのお寺には綺麗な藤の花が咲いていたが、その藤もそろそろ終わりになりそうだ。

「そういば、来週からゴールデンウィークが始まるんだった」

 なんとなく独り言をもらしながら、強い日差しを恨めしく睨みつける。日傘をさすようなタイプではないけど、紫外線が気にならないわけではない。

 早く駅に着いて日陰に入りたいけど、自転車を速くこぐと汗が吹き出てくるのでゆっくりとこぎながら駅へ向かう。


 駅の駐輪場ではめずらしく大輔が既に待っていた。

「大輔が一番ってめずらしいこともあるもんね」

「俺だってたまには早起きすることもあるんだよ」

「それより桜はどうしたの?一緒に来なかったの?」

「それが寝坊して、まだ支度ができてないから先に行っててって言われた」

「あはは、めずらしいことするからそんな目に遭うんだよ」

「うるさい」

 大輔の間の悪さに本気で笑ってしまう。

「それより、昨日桜から聞いたよ。展望台事件のこと」

 昨日帰ってから電話したのかな?それとも夜に二人で会ってたんだろうか?

「桜、中野静香って人がかわいそうって言って泣いてたよ」

「そうだね、先輩の話を聞いてるときも泣いてた」

「優希は泣かなかったのか?冷たいやつだな」

 一瞬むっとしてしまう。

 大輔は私のことを、気がおけない友達と思っての何気ない一言のつもりか知れないけど、そんな風に言われると腹が立つ。

「悪かったわね、血も涙もない冷血人間で」

「げっ、怒ったのか?ごめん。冗談だよ」

 冗談なのはわかってるけどちょっと傷ついた。でもすぐに謝ってくれたし、いつまでも怒るようなことじゃないってことはわかってる。

「怒ってないよ」と言いながらいたずらっぽく少し舌をだす。

「うわっ、気持ち悪っ」

 な、なんだとー。

 今度こそ本当に怒ったぞ。

「気持ち悪いってなによ!」

 私は右手を振り上げて、殴りかかるような格好をする。

「わっ、よせよ。冗談だって」

 うるさい、問答無用!と言おうとした寸前だった。

「ごめん。お待たせ」

 桜の声だ。

 背後から聞こえてきた桜の声に、私は右手を上げたまま固まってしまう。

「ゆきちゃん、どうしたの?」

 別に何もやましいことはない。でも何故か体を硬直させたまま振り向くことができない。

「桜、聞いてくれ。優希のやつ俺を殴って調教しようとするんだ」

 は?調教って、なんてこと言うのよ。

 私は慌てて振り向き、言いわけをする。

「ち、違うのよ桜。大輔が私のことを血も涙もない冷血人間って言うから、懲らしめてやろうと思って」

「そう、そう思って俺を殴ろうとしたんだ」

 桜になんてこと言うのよ。

「もう、大輔くんが悪いんでしょ。ゆきちゃんに意地悪しないでよ」

 ほっ、よかった。桜はちゃんと理解してくれてる。

「そうなんだよ。大輔が悪いんだ。桜助けて」

 私は桜の腕に抱きつく。

「なんだよ、お前ら女同士で抱き合って。気持ち悪いな」

「うるさい」

「早くしないと電車来るよ。急ぎましょ」

 桜は相手にしてられないといった様子で自転車をとめ、皆を急かせる。


 三人で昼食をとっていたときに、今日は昨日の話の気になる点を調べたいので講義が終わった後一人で行動したいと言っておいた。

 そういうわけで、桜は大輔のバイトが休みだったので一緒に帰って行った。

 一人になった私は天文同好会の部室へ向かう。

 部室はミーティングをする教室とは違って、望遠鏡などの機材が置いてある教室で、ミーティングのない日などは暇なメンバーがたむろしている。

「おはようございます」

 ドアをかけると同時に挨拶をする。

「おはよう」

 声の主は副部長の坂上先輩だ。

「優希ちゃん一人?めずらしいね」

 私は「はい」と返事をしながら他にメンバーはいないのかときょろきょろさがしてしまう。

「どうしたの?誰かお捜しかな?」

「捜すってほどでもないですけど、部長はいるのかな?と思って」

「芳郎ならもう帰ったよ」

 そうなんだ。帰っちゃったんだ。でもよく考えたら天然の部長よりも、ちゃんと話が通じる副部長に聞くほうがいいかもしれない。

「どうしたの?芳郎に用事だったの?」

「いえ、そういうわけじゃないんですけど、部長の姿が見えないので珍しいな、と思っただけです。それより副部長に少し聞きたいことがあるんですけどいいですか?」

「どうしたんだい、改まって。答えられることならいいんだけど」

「はい、実は副部長に」

 と、そこまで言ったところで副部長からストップがかかる。

「ちょっとまった」

「なんでしょう?」

「その副部長ってのやめない?別に偉いわけでもないし、副部長って微妙だから名前で呼んでもらったほうがありがたい」

「そうですか、わかりました。では坂上先輩って呼ばせてもらいますね」

「OK」

「お聞きしたかったのは、天文台事件についてなんです」

「天文台事件か。どうしてそれを?」

「宮川先輩からチラッと聞いたんです。それでもっといろいろ知りたいと思ったので、先輩なら何か知ってるんじゃないかと思いまして」

 同じ天文の部だから詳しく知ってるかもしれないと思って、あえて事故ではなく事件と言ったけど、先輩の反応からすると、先輩も事件のことを知っているようだ。

「なるほど、でも僕も事件のことはあまり知らないよ」

「どんなことでもいいんです。知ってることを教えていただけないでしょうか」

「そうだな、例えばどんなことを知りたいんだい?」

「中野静香という女性のことを何か知ってますか?」

「期待に応えられるほど知ってるとは思えないけど、知ってることを言うと……」


 坂上先輩に聞いた中野静香という人物は昨日宮川先輩に聞いたことよりも情報が少なかった。

 やっぱり宮川先輩の方がいろいろと詳しいみたいだ。

「僕が知ってるのはこの程度だけど、律子ならもっと詳しく知ってるかもしれない」

「律子さんて稲村先輩ですか?」

「うん。あいつに聞いてみるともっと詳しいことが聞けるんじゃないかな」

「そうですか、ありがとうございます」

 席を立とう腰を浮かせたけど、もう一度座りなおす。

 稲村先輩に会いに行こうにも、どこに居るのか見当もつかない。

「坂上先輩、稲村先輩ってどこにいるんでしょう?そもそも稲村先輩って何部なんですか?」

「律子は軽音部だよ。今日は芳郎が帰るときにストーカーのようについていったから、きっともう家に帰ってると思う」

「そうですか」

 もう帰っちゃってるのか、残念。話を聞くとしたら明日以降か。

 明日は金曜日でミーティングがあるし、土日は休みだから結局は月曜日までお預けかぁ。

 傍から見たら、そうとうしょんぼりしていたんだろうか?先輩が気を使って声をかけてくれた。

「時間あるなら今から律子の家に行ってみる?」

「え?家に?」

「この時間になっても新之助も博美も来ないし、今日はもう誰も来ないだろう。暇だし律子の家で美味しいおやつでもいただこう」

「いいんですか?突然だとご迷惑じゃないでしょうか?」

「大丈夫、大丈夫。そんなの気にすることないよ。ただ、芳郎のストーカーを終わらせて家に帰ってるかどうかは微妙だけどね」

 私はなんと返答していいのかわからず、苦笑いをするしかなかった。

「とりあえず行ってみて、居なかったら諦める感じで良いなら一緒に行ってあげるよ」

「ありがとうございます」

「お礼を言われるほどのことじゃない。どうせ暇だったしちょうどよかった」

 もう一度「ありがとうございます」とお礼を行って部室を出た。


 そうして私は先輩の言葉に甘え、一緒に稲村先輩の家へと向かったのだった。


  

今週はなんとか2回目の投稿ができました。

来週も頑張って2回くらいは投稿したいと思います。

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