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あなたと永遠の時を  作者: 九条 樹
第二章 大学時代
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第64話 迷探偵・優希3

「ゆきちゃん、こっち、こっち」

 桜の手招きに応じて、宮川先輩の後をつける。

「どこに行くんだろうね」

 この先には野外ステージがある。誰かと待ち合わせでもしているんだろうか?

「ゆきちゃん、宮川先輩ステージに行くのかな?」

「そうかもしれないね」

 丁度そのころ、私達は高台にさしかかっていた。

 時刻は6時半になろうとしている、今はまだある程度明るいが、そろそろ日も落ちそうだ。

「とにかくついていきましょ」


 先輩がステージの中央扉の前で立って、周りをきょろきょろ見回している。

 やはり誰かと待ち合わせをしているんだろう。

 しかし高台から5分程しか経っていないのに、日が沈み出したと思ったら、あっという間に日が暮れてしまった。これでは人を識別するのは難しいかもしれない。

「やっぱりステージだったのね。でもどうしてこんな所に来たんだろう。ゆきちゃんどう思う?」

「だれかと待ち合わせかな?」

 木の陰で桜と話し合っていると、校舎からステージへ続く道を通って誰かがやってきた。

「桜、誰か来たよ」

「ホントだ、ゆきちゃんの言った通り、誰かと待ち合わせしていたみたいね、でも誰だろ?」

 まだ真っ暗というほどではないけど、かなり薄暗くなっていて、ここからだと誰かわからない。そもそも私達の知ってる人とも限らないけど。

 ただ、服装や髪型などのシルエットから女性だということは間違いなさそうだ。

「やっぱりちょっと暗くてわからないね」

「私ちょっと見てくる」

「え?ダメよ。見つかるよ」

 桜が様子を見に行くなんて、とんでもないことを言うので止める。

「大丈夫、私達から見え難いってことは、あっちからも見え辛いはずだから」

 桜の言ってることは確かに間違っていないけど、あんたはどんくさいんだから、それをちゃんと加味してくれないと……

「桜、別にもういいじゃない。帰ろうよ」

「えぇー、ゆきちゃんはここまで来て待ち合わせの人が誰だか気にならないの?先輩の彼女かもしれないし。見てみたいじゃない」

「まぁ、そうだけど。でも見つかったら気まずいし」

「大丈夫、任せて」

 桜だから任せられないのよ。

 と、考えてる間に桜が飛び出して行った。

 桜を追って私まで一緒に飛び出してしまいそうになるが、ギリギリで踏みとどまる。

 二人もこんな木陰から飛び出したら、それだけで見つかってしまうかもしれない。


 桜はゆっくり遠巻きに、徐々に近付いて行く。なかなか慎重だ。

 幸い二人は向かい合って話し合っているせいか、桜の存在に気付いていない。

 当の桜より、ここで見てる私の方がドキドキしてるのかもしれない。

 ここは学校の敷地の奥まった場所にあるため、この時間は軽音部が使ってないと人通りなんて殆どない場所だ。

 だから桜が一人でこんなところを歩いているのは不自然だ。

 それでも二人は話に夢中なのか、未だ桜が近付いて来ていることに気付かない。

 桜が5メートルほどの距離に近付き二人の横を通り抜けようとした時だった。

 二人の方ばかり見ていたため、自分の歩いている線上にゴミ箱があることに気付かず思いっきりぶつかる。

 金網でできたゴミ箱はがしゃーんと大きな音を立てて桜と一緒に倒れこむ。

「あちゃー」

 私は思わず小さな声をあげてしまう。

 あれだけのアクションを起こしたんだ、宮川先輩も気付かないはずがない。

 桜の存在に気付いた宮川先輩が駆け寄る。

 しかしなんてべたな見つかり方をするんだろうか。これほど見事に私の嫌な予感が的中してしまうとは。

 どうしようか考えたけど、桜が見つかってしまったんだし、ここで隠れてても仕方ないと判断し、私も桜の元へ走る。


 騒動の最中、待ち合わせの女性は何も言わずに帰ってしまったが、宮川先輩と一緒に居たのは稲村先輩だったことがわかった。

 桜は大仰にひっくり返ったわりに、どこも怪我することなく無事だった。


 待ち合わせの稲村先輩が帰ってしまったので、三人で一緒に駅まで帰ることになった。

「君達はどうしてあんなところに居たんだい?」

 尾行していたとは言いにくい。

 なんて答えればいいのか頭をフル回転させる。

 桜も答えに困っている。

「え、えっと、そうだ。宮川先輩がステージから展望台が見えるって言ってたので見に来たんです」

 なんとか言いわけを思いついてほっとする。

「今日の昼に来た時に見なかったの?」

 そうだった、今日のお昼にステージで待ち合わせしてたんだった。

 ほっとしたのも束の間、次の言いわけを考える。

「え、えぇ。そ、そうなんですけど…… そ、そうだ。桜に話をしたら、桜も見たいと言ったから講義が終わってから見に行こうってことになって…… ね、桜」

 私は桜に同意を求める。

「ええ。そうなんです」

 何がなんだかわからないという表情だけど、なんとか話を合わせてくれる。

「なるほど、そういうことだったのか。じゃ咲原さんも僕の話に興味を持ってくれたのかな?」

「ええ、はい」

 桜が消え入りそうに小さな声で返事をする。

 きっと桜には話が殆ど見えていないはずだ。

 だからなんと答えればいいのかわからず、不安げな返事をしているんだろう。

「そうか」

 そう言ってから、宮川先輩が何か思案している。

 何を考えているんだろうか?もしかして嘘がばれたのかな?

「よし、じゃ今から三人でどこか、そうだな暁明館ぎょうめいかんででも話をしようか?」

 え?何を考えているのかと思ったら、そんなことを考えていたの?

 興味本位で尾行してしまったことから、嘘をつくはめになってしまい、そして今から話をしようと誘われてしまうなんて。

 ちょっとした出来事から、自分が全く意図しない方向に話が流れてしまっている。

 しかし今更嘘でした、尾行してましたとも言えない。

「ちょっと待ってください、桜と相談します」


 先輩から少し離れて桜と小声で話す。

 今回のいきさつは少し話していたが、もう少し詳しく説明して、今日これからどうするか桜に決めてもらうことにした。

 桜いわく、今日は大輔との約束もなく、時間を気にしなくて良いらしい。

 それに宮川先輩が何を話してくれるかも興味があるらしい。

 ということで『ゆきちゃんが大丈夫なら、今からでも一緒に話を聞いてもいい』ということだった。

 私もどうせ一度は話を聞かないといけないと思っていたところだし、桜と一緒に聞けるなら先輩と二人っきりで話すよりよっぽど良いので、助かったという気持ちだ。

 二人の意見がまとまったところで先輩に告げる。


「先輩、桜も一緒に話を聞きたいと言ってるので、今から暁明館ぎょうめいかんへ行きましょう」

「わかった。でも真下さん、今日は用事があるって言ってたけど大丈夫?」

「用事は、大学の帰りに桜と一緒にご飯食べて帰ろう、という約束だったので大丈夫です」

「そうか、それなら良かった。じゃ行こう」


 辺りはもうすっかり日が落ち暗くなっている。

 薄い雲の隙間からいくつかの星が輝いているが、多くは雲に覆われ霞んでいる。

 そんな空を見上げ、ため息ににも似た大きな息を吐き出す。

 

 こうして私は桜を巻きこみ、歓迎コンパで使った居酒屋『暁明館』へ向かったのだった。


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