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あなたと永遠の時を  作者: 九条 樹
第二章 大学時代
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第62話 迷探偵・優希1

 宮川先輩に会うため約束の場所へ向かう。

 昨日と同じ扉が開放されているので、そこから観客席に入る。

 中に入って辺りを見回すが人の姿はない。

 時計を確認すると約束の時間までまだ10分ある。

 私は適当な席に腰を下ろし、宮川先輩を待つ間、昨日食事の後に行ったカラオケボックスでの会話を思い返す。


 薄暗い照明の中、ミラーボールが不規則に回転しながら色とりどりの光が部屋中を照らす。

 部長と下田先輩は我先にと、曲を予約登録し競って大声で歌う。

 二人とも下手とは言わないが決して上手いとは言えない。

 そんな二人の大音量が響く中、私は宮川先輩に話しかけた。

「宮川先輩は歌わないんですか?」

 歌わないのはわかっていたが、話をしたかったので確認のため聞いてみたのだった。

「うん。僕は遠慮しとくよ」

 期待通りの答えだ。

「じゃ先輩、ちょっと聞きたいことがあるんですけど、いいですか?」

「なんだい?」

 もともと仲が良いというほど付き合いがあるわけではないが、少しよそよそしい。何か警戒してるようだ。

 聞きたいことは2つある。だけど身構えられているので、まずは答えやすそうな質問からすることにする。

 いきなりハードルが高いと、話を打ち切られて何も答えてもらえないかもしれない、と思ってのことだ。

「稲村先輩のことなんですけど」

 そこまで言ったところで、明らかに動揺しているのがわかった。

 宮川先輩は突然ウーロン茶に手を伸ばす。先輩はうそはつけないタイプだな。

 一口飲み終えた先輩が口を開く。

「稲村先輩がどうしたの?」

 声も震えて、明らかに緊張している。

「はい、部長や副部長と仲がいいですよね。三人は幼馴染なんですかね?」

 今度は私の質問に安堵の表情を浮かべる。

 稲村先輩の名前を出したときの動揺が大きかったので、質問を少し遠回りさせたのだ。

「そうみたいだね。僕も部長達とは大学に入ってからの1年の付き合いだし、それほど詳しく知ってるわけじゃないけど、三人が幼稚園の頃からずっと同じ学校だということは聞いている」

「そうなんですか、でも稲村先輩って絶対部長のこと好きですよね」

 下田先輩の大きな歌声のおかげで、私の話が他の人に漏れる心配はない。なので本人たちがいる部屋でも大胆なことが言える。

「そ、そうかな?それはわからないよ」

 ん?先輩がまた動揺している。私の今の質問で動揺するところなんてあっただろうか?

 まさか宮川先輩って稲村先輩のことが好きとか?それであのエレベータで私が稲村先輩の話を出したときにあんな反応をしたのかな?

 つじつまが合ってそうだけど、どうも釈然としない。

 そしてその疑問こそが私が聞きたかった質問の1つめだ。あのエレベータでの反応が気になる。

「そうですか?大学の校門で待ち伏せしていたことや、食事を誘ったときの態度を見れば明らかだと思うんですけどね。宮川先輩はそう思いません?」

「う、うん。そうは思わないな。校門で会ったのも偶然だったし。食事の時だってはじめに誘ったのは副部長だったから……」

 怪しい。どうも部長と稲村先輩を切り離したいような口ぶりだ。どうしてだろう?

 先輩の反応の意味が分からないけど、話を変えることにした。

「先輩、話は変わりますけど、さっきエレベータで私が稲村先輩の名前を出したとき驚いてましたよね。どうしてですか?」

「え?そ、そうだったかな?覚えてないな」

 そんなに驚かなくてもいいのに。

 それに早口に答えるその様が明らかに焦っている。

 なんてわかりやすい人なんだろう。

「『君たち稲村先輩に会ったのか?』って言いましたよね。覚えてますよ」

「え?なに?」

 あっ、今、聞こえない振りされた。

 絶対聞こえてるはずなのに。

 もう一度同じ事を言おうとしたところで歌の間奏に入り、少し静かになる。

 皆に聞こえるとまずいので、歌が始まるのを待つ。

 下田先輩が歌いだしてから、さっきよりさらに近づいて、宮川先輩の耳元で同じ質問を繰り返す。

 宮川先輩は押し黙ったまま何も言わない。

 それからおもむろにウーロン茶を手に取り、口いっぱいに含む。

 今度はなにか迷っているような態度に見える。

 私が答えを促すように目をじっと見つめると、先輩は目を伏せる。

 もしかして本当に稲村先輩のことが好きなのかな?

「先輩、私変な質問してますか?」

「いや、別に変な質問をしてるわけじゃないよ」

「でも先輩なんだか答えにくそうですね。私はただ、稲村先輩ってどんな人なんだろう?宮川先輩も知ってるみたいだし少し聞いてみよう。って思っただけですよ。答えられないなら別にかまいませんよ」

 稲村先輩の質問に対しては、軽い気持ちで質問しただけで『問いただす』というようなものではなかった。本当に質問したかったのはもう一つの方だったのだし。

 でも先輩の態度がいちいち怪しいのでつい責めるような質問になってたのかもしれない。

 あまりにもおどおどするのでかわいそうになってきた。

「もう一つ聞きたかったことがあったんですけど、もういいです」

 なるべく先輩の負担にならないように、優しい口調で言う。

「なんだい?答えられることなら」

 ということは、やっぱりさっきのは、答えられない質問をしていたってことなんだ。

 何が答えられないんだろう?頭の中はクエッションマークだらけだ。

「それではお聞きします。ミーティングの前にステージでお会いしましたよね。どうしてあんなところに一人でいたんですか?」

「そ、それは…… 」

 やっぱり答えられないみたいだ。先ほどからなぜか答えにくそうなので、この質問にも答えられないんだろうなと思っていた。

 なので、あっさりあきらめることにした。

「答えにくそうなのでいいですよ」

 私は宮川先輩にこれ以上精神的負担をかけたくなかったので、笑顔でそう言った。

 どうしてそんなに追い詰められたような態度を取るのか、不思議で仕方なかったけど、これ以上は無理だと判断し、もう忘れることにした。

「ごめん。いずれ話せる時がきたら必ず答えさせてもらうよ」

 え?いずれって、そんなに大層なことなの?知らない間に私はすごいことに首を突っ込んでいたとか?

 少し思案する。

 まさかね。私はすぐに自分の考えを打ち消し、気持ちを切り替えることにした。

「大袈裟ですね」

 私は笑いながら言う。

「一つだけ言うと……」

 なに?

「あそこからだと22号棟の屋上にある展望台がよく見えるんだ……」

 宮川先輩って話が上手いのか下手なのかよくわからない。でも知ってか知らずか、つい話に引き込まれてしまう。

「展望台?学校に展望台なんてあったんですか?」

「うん」

「じゃサークルの観望会ってその展望台からするんですか?」

「いや、今は使われてないんだ」

「どうしてですか?」

 また黙ってしまってた。

「先輩教えてくださいよ」

 宮川先輩は口を閉ざしたままだ。

 なんなんだろう?全くわけがわからない。

 単にシャイで話が遅いのか、話すのが苦手なのか、話してはいけないことがあるのか。それとも計算して話しているのか、いったいどれなんだろう。

 宮川先輩はもともと口数も少ないので真意が読み取りにくい。

 なんだか宮川先輩と話すのも疲れてきた。と思っていたところに博美先輩が話に入ってきた。

「優希ちゃん、道雄と何ヒソヒソ話してるの?そんなに顔をくっつけあって」

「え?べ、別に普通に話してただけですよ。ちょっと歌声が大きくて話し声が聞き取りにくかっただけです」

「そんな力いっぱい否定しなくてもいいわよ。道雄がかわいそうじゃない」

「いえ、そんなつもりじゃ…… ただ事実を言っただけです」

「でも側から見たら恋人同士みたいだったよ。二人の世界に入ってたみたいだから、声かけるのわるいなぁ~って思って見てたのよ」

「ち、違います」

 宮川先輩がどんな顔をしてるのかと思って見てみると、心ここにあらずといった表情で、何か考え事をしているようだ。

「宮川先輩もなんとか言ってください」

「え?あ、あぁ」

 やっぱり宮川先輩は私と博美先輩のやり取りを聞いていなかったようだ。

 このままでは博美先輩に勝手に恋人同士にさせられそうだったので、私は下田先輩に話しかけた。

「下田先輩。それ私も歌いたいです。マイク一つください」

「おお、一緒に歌うか。よし来い」

 下田先輩が歌っていた歌が、ちょうど知っている歌だったので、マイクをもらって下田先輩の席まで移動して一緒に歌った。


 その後もしばらくカラオケで皆盛り上がっていたけど、私は帰りが一人だったのもあり、途中で抜けさせてもらうことにした。

「道雄、優希ちゃんが帰るって。外まで送っていってあげなさいよ」

 博美先輩、何を言い出すんですか。勝手にくっつけようとしないでください。

「大丈夫です。店を出たらすぐ駅ですから。それに宮川先輩にも悪いですし」

「じゃ俺が送っていってあげよう」

 なぜか下田先輩が割ってはいる。

「いえ、ホント大丈夫ですから。ありがとうございます」

「新之助は関係ない。あっちで歌ってなさい」

「僕、トイレにいくからついでに……」

 宮川先輩。トイレのついでって。

「優希ちゃん。ごめんね。道雄は口下手だからトイレと女性を送るのを一緒にしてしまってるけど、悪気はないのよ」

「はい。わかってます」

 宮川先輩自身が送ってくれようとしてるなら、これ以上断るのも悪い気がするな。

「では皆さんお先に失礼します。ごゆっくり楽しんでください」

「お疲れ~」


 私たちが歌っていた部屋は3階だったので1階まで降りるためにエレベータに乗る。

「先輩わざわざ送っていただいて、ありがとうございます」

「いや、たいした事じゃないよ。それよりやっぱりさっきの事が気になって」

「もういいですよ」

「いや、やっぱり悪いから明日ちゃんと話すよ」

 え?本当にもう別にいいのに。でも元々質問したのは私の方だし、答えると言われたからには聞かないといけないんだろうな。

「あ、ありがとうございます」

「いや、僕のほうこそごめん。明日ちゃんと話すから、お昼にでもあのステージでどう?」

 どうしてこうなっちゃったんだろう?明日は桜と一緒にお昼食べようと思ってたのに。

「はい、それでは明日お願いします」

 本当は断りたかったんだけど、なんとなく一大決心しての誘いのように感じたので、簡単に断ることができず、結局今日のこの約束をしたのだった。


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