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あなたと永遠の時を  作者: 九条 樹
第二章 大学時代
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第60話 二人で食事2

 席に着くとウエイターさんがおしぼりと水、そしてメニューを運んできてくれた。

 注文が決まったらまた呼んでくださいと言い残し、厨房のほうへ戻っていった。

 私はメニューを開いて大輔くんの方へ向ける。

「大輔くんは何にする?」

「俺はハンバーグとエビフライのセット、ご飯大盛りで。桜は?」

 メニューもろくに見ないで速断する。はじめから決めてたみたいだ。

「じゃ私はハンバーグだけのセットにしようかな」

「OK、じゃ店員さん呼ぶよ」

 そう言って大輔くんがウエイターさんを呼んで、注文してくれた。

 

「今日のミーティングどうだった?」

 大輔くんから今日のミーティングについて話を振ってきた。

「今年一年の行事について話し合ったよ」

「ミーティング休んでたのって俺だけだった?」

 まずはミーティングの内容よりも、休んでしまったことを気にしているようだ。

「先輩たち何か言ってなかった?」

「特に何も言ってないよ」

「初ミーティングだったのに休んだから、怒ったりしてなかった?」

「大丈夫だよ。誰も全然怒ってないよ。安心して」

「よかった」

「そんなに心配なら、バイトを休めばよかったのに」

「俺もそうしたかったんだけど、もう一人いたバイトの奴がいきなりやめちゃって、それでそいつが出勤予定だった日を、俺が代わりに出勤することになっちゃったんだ。店長にどうしてもって頼まれたから断りきれなくて」

 なるほどそういうことだったんだ。頼まれると断れない性格だから仕方ないか。

「それで、何か面白そうな行事とかあった?」

「それなんだけど、夏休みのお盆の頃にペルセウス流星群がよく見えるんだって。だからその時に観望会があるの」

「そうなんだ。流星群って見たことないな。きっと綺麗なんだろうね」

「うん、私も見たことないけど、きっと綺麗だと思う。それでね、その時小学生と一緒に見ることになってるみたい」

「小学生?」

 そこまで話したところでウエイターさんがコーンスープを2つ運んできてくれた。

 注文したセット料理についているスープだ。このコーンスープがまたおいしい。

 大輔くんが早速スプーンでスープをすくってるのを見て、私も小学生の説明をする前に一口頂く。

「大学の上に、千代崎小学校っていうのがあるみたいなんだけど知ってる?」

「いや、知らない」

「私も知らなかったんだけど、その小学校の児童とは交流をもってるみたいで、去年も一緒に観望会をやったんだって。それで今年もやるみたい」

「なるほど、面白そうだね。桜も優希も子供が好きだから楽しみだろ」

 お腹が空いてる私たちは話をしながらもあっという間にスープを飲み干してしまう。

「うん、楽しみ。それでね。その時自作のプラネタリウムも小学生に披露するみたいなの」

「へー、プラネタリウムを自作するんだ。すごいな」

「普段は大人しいタイプの宮川先輩が、プラネタリウムの話になったとたん、積極的にいろいろ意見とか出しててびっくりした」

「そうなんだ、よっぽどプラネタリウムが好きなんだね」

「プラネタリウムというより星全般が好きなんだと思う」

「なるほど」

「あっ、来る」

 私の席からだと厨房が見えるので、料理が出来上がったのがわかる。

 出来上がった料理をお盆に乗せてウエイターさんが、テーブルに近づいてくるのを目で追う。

 ウエイターさんが近づいてくるとなぜか居住まいを正してしまう。

 テーブルまでやってきたウエイターさんは「失礼します」と言って、それぞれ料理を並べてくれる。

 大輔くんはハンバーグとエビフライ。大き目の皿にはサラダと、みるからにジューシーなハンバーグ、そして頭がついた大きなエビフライが1匹乗っている。

 私はハンバーグだけだけど十分なボリュームだ。

「とりあえず食べよっか」

「うん、いただきます」

 ちゃんとフォークとナイフが用意されているが、箸も用意していてくれているので、私たちは格好を気にせずいつも箸を使って食べる。

 ハンバーグに箸を入れると、ふわっとした柔らかめ肉の中から湯気が立ち上がり、大量の肉汁がこぼれ出る。

 ここのハンバーグは牛100%だけどとてもジューシーに仕上がっていて、自家製デミグラスソースとよく合う。

 一口大に切ったハンバーグにソースをよく絡めて、洋服を汚さないように気をつけながら口に運ぶ。

「おいしい。やっぱりここのハンバーグはおいしいよね」

「そうだな、この値段でこの味は最高だね」

 大輔くんがハンバーグ好きなので、何度かデミグラスソースを作ったけど、こんなに美味しいソースは作れない。

 ハンバーグ自体は負けないくらいの物を作れてると思うけど、ソースは敵わない。

 このソースは、きっとすじ肉を使ってるんだと思うので、私も同じようにやってみたんだけどダメだった。

 すじ肉をじっくり煮込み、玉葱を多めに使ってるソースは絶妙の甘味があり、くどくなくあっさりしている。

 こんなにあっさりしてるのに、深い味わいを出せるのは、やっぱりプロのなせる業だと思う。

 そんなことを考えながら、ふと大輔くんを見るともうほとんど食べ終わっている。

「大輔くん早い」

「腹減ってたから」

「いくらなんでも早すぎるよ。もうちょっとゆっくり食べないと体に悪いよ」

 大輔くんのお皿に、ご飯はもう残っていない。

「大輔くん足りる?私のご飯食べる?」

「いいのか?お代わりしようか迷ってたんだ」

「私の半分取っていいよ。それで足りる?」

「十分だ。あと一人前だと少し多いし、と思って悩んでたからちょうどよかった」

 私は大輔くんの皿にご飯を半分乗せ、ついでにハンバーグも少しわけてあげた。

「ハンバーグもくれるの?桜それで足りる?」

「うん、十分よ」

 時間も遅いし、ちょうど良いダイエットにもなる。

 こんな時間にこれだけの高カロリー料理を全部食べたら太ってしまう。


「はぁ、ごちそうさん」

 大輔くんは、半分あげたご飯もあっという間に食べ終えてしまった。

「ホント早いね、私まだ食べ終わってない」

「気にしなくていいよ。俺が早すぎただけだから、ゆっくり食べて」

「うん、ありがとう」

 そうは言っても待たせてると思うと急いでしまう。

 私が必死に食べてるので大輔くんも話しかけてこないで、窓の外を眺めている。

 そんな態度を見ると余計早く食べなくては、と焦ってしまう。 

「あっ」

 窓の外を見た大輔くんがなにやら驚いている。

「どうしたの?」

「優希」

 私は食べていた手を止め、慌てて大輔くんの視線を追って窓の外を見る。

 ゆきちゃんが自転車で、私たちのいる店の前にさしかかろうとしているところだった。

 私たちが見ていると、ゆきちゃんが一瞬こちらを向いた。

 その瞬間目が合った気がしたけど、私たちに気がつかなかったようで、そのまま通り過ぎていってしまった。

「今こっちを見たように思ったんだけど、気がつかなかったみたいだな」

「そうだね」

「帰りがこの時間ってことは食事の後、例のカラオケ屋でも行ったのかな?」

「そうかもね」

 大輔くんの話に適当に相槌をうっていたが、私は違うことを考えていていた。

 それはゆきちゃんに気付かれなくて良かった、等ということだ。

 悪いことをしているわけじゃないけど、ゆきちゃんやサークルの皆との食事を断ったので、大輔くんと食事しているところを見られるのは、なんとなくバツが悪い。

 ゆきちゃんの姿がすっかり見えなくなったので、私は残りのハンバーグを口に運んだ。

 同じハンバーグなのに、ゆきちゃんを見てからは全く違った味がした。

 あんなに美味しかったのに、最後は無理やり押し込んだ感じだ。

 そして残りのサラダも急いで食べお店を出た。


「やっぱりロイは美味しかったな」

「う、うん。そうだね。美味しかったね」

「どうした?美味しくなかった?」

 私の態度がおかしいと感じたんだろう、それが美味しくなかったと思ったみたいで、気にして聞いてくれたけど、実際はそんなことではない。

「そんなことないよ、それよりもうだいぶ遅くなったね」

「そうだな、そろそろ帰ろうか」

「うん」

 商店街を抜け、駅前の自転車置き場から自転車を出す。

 空を見上げると、心とは裏腹に空は晴れているのだろう、星がよく見える。

 私は気を取り直して、先ほどの雑誌で読んだ春の星座の見つけ方からおおくま座を見つける。

「大輔くん、おおくま座って名前くらいは知ってるでしょ?」

「うん。どれがおおくま座かはしらないけどね」

 私は先ほど得たばかりの知識を、さもはじめから知っていたように説明してあげた。

 自転車は乗らずに、歩いて押しながら。

「へー、そうなんだ。桜いつの間に勉強したんだ?すごいな。なるほどあれがおおくま座か」

「そうだよ。それにあれがうみへび座で、あれがおとめ座だよ」

 私の知識に、大輔くんはすっかり関心してくれている。

 さっきのカフェで仕入れた情報なのでまだ覚えているけど、一週間経っても同じ説明ができるか?と聞かれると自信はない。

「俺もバイトばっかりしてないで星の勉強しないとだめだな」

「ホントだね」

 大輔くんと一緒に歩いて帰る。

 空を見上げ、星の話をしてとても楽しい時間のはずなのに、その日はずっとゆきちゃんのことが頭からはなれることはなかった。




 

  

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