第6話 【文化祭】買い物にて2
買い物をしながら色々と考えてしまう。
きっと彰弘も大輔が桜の事を好きなのはうすうす気づいてるはずだ。
気づいていてわざと応援を頼んだり大輔の前であからさまに桜にアタックしているのだろう。
そうする事によって大輔が遠慮する性格だと分かっているからだ。
ずるいと言えばずるいが彰弘も桜に対して必死なんだろうな。
今ここで私が桜も大輔のことが好きだと教えてやって、二人を応援してやれば間違いなく桜と大輔はくっつくだろう。
桜は私の一番の親友だけど・・・
だけど二人仲を取り持つような事だけはできない。したくない。
だからこそあの日、桜が大輔を好きだと言い当てた日。知ってはいたけど桜にあえて大輔の気持ちを教えてあげなかった。
鈍感な桜は誰かが言わないと大輔の気持ちに気づくことはないだろう。
大輔も鈍感だから桜が好きだってことに気がつかないだろうし。
誰も何も言わなければ鈍感で臆病な桜と彰弘に遠慮して自分の想いを押し殺してる大輔の間はいつまでも縮まらないだろう。
そして私はそれを望んでいる。だから今まで全てを黙ったままで桜と接している。
私も彰弘と一緒だ、あいつのことをずるいとは言えないな。
そう思うと自嘲気味に笑ってしまう。
「何笑ってるんだ?」
不意に大輔に話しかけられて飛び上がってしまいそうに驚いてしまい変な声がでてしまう。
「ふへっ!」
「なんだ?その「ふへっ」って」
大輔に変な声の真似をされて恥ずかしくなる。
「そんな変な声だしてない」
照れ隠しに語気を強めて言う。
「悪い、別にからかってるわけじゃないぞ」
「うん」
「それはそうと・・・」
そう言って大輔が言葉を切る。何か言おうとしてる。なんだろう?
「さっきは俺が好きな子を教えたんだから今度は真下が教えろよ」
予想外の質問に動揺してしまう。
「な、なんで私がそんなこと教えないといけないんだよ」
「だから、さっき俺が教えたんだから今度は真下の番だろ?」
「そんな順番なんて無いし、だいたい私は好きな人なんていないよ」
「嘘つけ、好きな人がいないなんて回答ずるいぞ」
「ずるいって言われてもいないものはいないんだから仕方ないだろ」
大輔が私の目を覗きこむようにじっと見つめる。
私はその視線に耐え切れず目を伏せる。
「あっ、目をそらした。やっぱり嘘ついてる」
「ち、違う。嘘だから目を逸らしたわけじゃない。何小学生みたいなこと言ってるんだよ」
あんなに見つめられたら恥ずかしいだろう。と言いたかったけどそれを言うのも恥ずかしい。
「だいたいさっきは大輔が好きな子を教えてくれたんじゃなくて私が言い当てたんだろう」
「そういえばそうだったな。じゃ俺が言い当てればいいのか」
「無理無理。大輔に言い当てられる訳無い」
「俺には無理か?」
「絶対無理。だって大輔は鈍感だもん」
「鈍感だから無理って、その言い方はやっぱり好きなやつがいるんじゃないか」
私は心の中で(しまった)と舌打ちする。
「よし、じゃ当ててやろう」
内心ドキドキしながら大輔の言葉を待つ。
「真下の好きなやつって大野か?」
「へ?」
また変な声が出てしまった。
「おっ!その反応・・・当たったか?」
あまりにも脈絡の無い名前が出てきてびっくりした。
「全然違う。だいたい大野って誰よ?」
「誰って・・・同じクラスの男子だけど・・・」
「そんな人いたっけ?全然記憶に無いけど?」
「分かった!吉村か?」
「だから誰よ、その吉村って」
「吉村も同じクラスの男子だけど?」
「そうなの?でもそんな影の薄い人なんて記憶に無いんですけど?」
やっぱりダメだ大輔じゃ私の好きな人は言い当てられないしこんなところで私が好き人を告白したら大変な事になるぞ。
「分かった。他のクラスのやつか?」
全然分かって無いし・・・
「もういいよ。大輔には永遠に分からないし分かってもらおうとも思っていない」
「そもそも私は好きな人がいないって言ってるんだからもうそれでいいじゃない」
「うーん。何か引っかかる言い方だな」
大輔はそう言ってしばらく考えるような素振りをして
「分かった」
だ・か・ら・大輔の分かったは全然分かってませんから。と心の中で突っ込みながら聞き返す。
「何が分かったの?」
「もう諦める。真下は好きなやつがいない。それで納得しておくよ」
「そうだね。それで納得しておいて」
「でも俺が咲原のこと好きだってことは誰にも言うなよ!咲原にもだぞ、絶対に言うなよ」
さっきのやり取りで楽しい雰囲気になっていたのに大輔の言葉で一気に気分が沈む。
私だってこんな事実誰にも言いたくない。ましてや桜になんて・・・
「分かってるよ、誰にも言わないよ、もちろん桜にもな」
きっと彰弘も大輔の気持ちを知ってるよ。と言おうかと迷ったけどそれを言ってしまうと大輔がかわいそうかと思って止めた。
それからはお互い無言のまま買い物を済ませて学校に帰った。