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あなたと永遠の時を  作者: 九条 樹
第二章 大学時代
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第58話 初ミーティング5

「それでは、今年のペルセウス座流星群について説明させていただきます。今年は8月13日ごろに極大を迎えると思われます。ちょうどお盆にあたりますので、小学生だけではなくメンバーにも帰省されてる方も多いかと思いますが、逆に地元に残ってる子供達にはちょうどいいかもしれません。とにかく先方と話し合いをして、日程の調整が必要だと思います」

「ありがとう。極大が13日か、その日は厳しいかもしれないな」

 極大って初めて聞く言葉だけど、話の内容から一番よく見える日ってことだろうな。

「そうですね、そのあたりどうするか検討する必要がありそうですね」

「よし、続きは後日だ。今日はこれまでにしよう」

「はい、お疲れ様でした」

 先輩達が席を立ったので、私たちも挨拶をして皆に続いて教室を出る。


 教室を出て歩きだしたところで、ゆきちゃんに声を掛けられる。

「桜、ミーティング前に下の階で会った人のこと、言っとかなくていいかな?」

「あっ、すっかり忘れてた。あの人のこと気になってたし部長に聞いてみようよ」

 部員全員がエレベータに向かって歩いてる。先頭の部長は既にエレベータの前で立っている。

 私は小走りに2年生達を追い抜き、部長の元まで行く。

 急に走り出したため、慌てて追ってきたゆきちゃんが隣に立ったのを確認して、あの女性のことを聞いてみる。

「部長今日のミーティング、初め教室を間違えて12303へ行ったんですけど、その時…… えっと、ある女性に会ったんです。その人が部長によろしくって言ってました」

「なんだか口ごもった言い方だね。ある人って誰のこと?」

 私はゆきちゃんを見る。

 口ごもったのは別に何かを隠そうとか、言い難いこととかというわけではない。

 単に名前が出てこなかったのだ。話しかける前にゆきちゃんに確認しておくべきだった。

 そのときエレベータのドアが「チン」という音と共に開く。

 部員全員がエレベータに乗り込む。

「稲村律子さんという人です。私たちと同じ1年と言ってましたが、長いストレートの髪で大人びた雰囲気のある女性でした」

 ゆきちゃんが私の代わりに答えてくれた。

「稲村君か、あれは私と同級生で3年だ」

「え?3年生なんですか?」

 嘘をついたってことかな?初対面の私達にいきなり嘘をつく必要性は感じられないけど。

「稲村君は冗談が好きだからな、からかわれたんだよ、まんまとだまされるとは君達も馬鹿だな」

「部長、なんですかその言い方は、馬鹿なんて言っちゃあだめですよ」

 そうだそうだ!騙されたとはいえ、言いすぎですよ。下田先輩もっと言ってやってください。と心の中で叫んでみる。

「君たち稲村先輩に会ったのか」

 突然話に入ってきたのは宮川先輩だった。

 自主的に話しかけてくるのは珍しいのでびっくりした。

「はい」

「そうか」

 宮川先輩は小さく呟いたまま動かなくなってしまった。何か考え事をしてるようだ。

 宮川先輩の態度は気になるけど、話しかけ難い雰囲気をまとっているので、部長に質問することにした。

「部長、稲村さんとはどういう関係なんですか?」

「稲村君とはただの幼馴染だ。な、悠一」

 副部長がうなずく。

 幼馴染ということを知ってる、ということは副部長も幼馴染なのかな?

 1階に着いたエレベータを降り、全員で校門へ向かう。

「ゆきちゃんと言ってたんですけど、きれいな人ですよね。」

「綺麗?稲村君がか?まぁ汚くはないだろうけど。綺麗とまで言えるのかな?普通じゃないかな?」

「部長、この場合の綺麗は、汚いの対義語じゃなくて不細工の対義語ですよ。だいたい稲村先輩に汚いとか失礼ですよ。せめて不細工か?と聞いてあげてくださいよ」

「新之助も十分失礼だ」

 博美先輩が下田先輩の頭を思いっきり叩く。

「いてぇな!何するんだよ。俺は間違ったこと言ってないだろ?」

「間違ってるとか、間違ってないとか関係ない。あんたは存在自体失礼なのよ」

 そう言ってもう一度叩こうとするが、二度も叩かれてはたまらないとばかりに、今度は寸前のところでかわした。

「お前こそなんてこと言うんだ。意味わかんねぇし」

 そのやり取りに皆の笑い声が、日も暮れて人気の少なくなった校門前広場に響く。

「あら、なんだか楽しそうね」

 不意に声をかけられて皆が声の発信者を見る。

 そこにはたった今話題にしていた『稲村律子』さんが立っていた。

 今、桜の木の裏から出てきたように思ったけど、気のせいかな?

「君か、こんなところで一人でどうしたんだ?仲間はずれにされたのか?」

「相変わらず失礼な人ね」

「そうか?」

「そうよ!」

 二人の切り口上は、まるで喧嘩でもしているようだ。

「律子、どうしたんだ?まだ帰らないのか?」

 副部長もやっぱり知り合いのようだ。

「か、帰るわよ。ちょうど帰ろうとしていたところでしたから」

「そうか、気をつけて帰りたまえ」

 そう言って通り過ぎた部長の後を稲村さんがついていく。

「どうしたんだ?」

「どうもしないわよ。駅の方向が同じなだけよ」

「なるほど」

 私たちは、部長の後ろを歩く稲村さんの後ろを歩く副部長の後ろをぞろぞろとついていく。

「律子、腹減ってないか?今から皆で食事でも行かないか?お前たちもどうだ?」

 副部長が稲村さんに声をかけた後、私達の方を振り返り食事の提案をしてくる。

「いいですね。僕行きたいです」

「私も参加~」

 下田先輩と博美先輩がすばやく賛成する。

 その声を聞いて稲村さんが振り返る。

 肩にかかった長い髪をかき上げながら、くるりと振り返った稲村さんの顔は、少し赤みがさしているようにも見えた。

 照れ顔?うれしいのかな?

「そうですわね。少しお腹も空いてきましたし、『bonne qualité(ボンヌ キャリテ)』にでも行きましょうか」

「ボンヌキャリテ?それどこだよ」

 私も含め、その場の全員が疑問に思ったことだと思う。

「ヴィラ・アストンホテルのフレンチレストランよ。悠一は知らないの?」

「ホテルの名前くらいは知ってるけど、レストランの名前までは知らない」

「そう、じゃぁそこでいいかしら?」

「いきなり決定するな、だいたい『じゃぁ』ってどこにかかってるんだよ!それに全然よくない」

「どうして?」

「どうしてって、今から軽く食事しようかって話で、なんでホテルのフレンチなんだよ。だいたいあんな高級ホテルのレストランっていくらすると思ってるんだ」

 稲村さんって天然なのね。部長もちょっと天然だし、副部長も大変ね。

「おい、芳郎からもなんとか言ってくれ」

「稲村君のおごりなら行ってもかまわないが」

 部長、なんてこというんですか。

「全員となると8人ですね。一人3万として24万。そんなに持ち合わせがありません」

 当然でしょ、大学に来るだけでそんなにお金持ってくる人いないでしょ。

「学校にはカードも持ってきていませんし、一度帰ってお金を取ってきますので皆さん先に行っててください」

 え?稲村さん本気?

「そうか、稲村君悪いな。じゃ先に……」

 副部長が部長の口を押さえた。

「もう芳郎は黙ってろ。お前に聞いた俺が悪かった。律子、お金なんて取りに帰らなくていいし、フレンチレストランなんてとこも行かない」

「どうして?食事に行くんじゃなかったの?」

「食事には行くけどみんな割り勘で駅前のファミレスだ」

 皆が大きく頷く。

 そりゃ、そうだよね。でも……

「ねえ、ゆきちゃん。ゆきちゃんも行く?」

「そのつもりだけど、桜は行かないの?」

「うん、大輔くんのバイト終わったら会う約束してるから、早めに帰っておきたいの」

 ゆきちゃんの顔色が曇ったのがわかった。私だけ大輔くんと会うため先に帰るのは気が引けるけど、約束があるのでどうしようもない。

「そうか、じゃ私だけ行ってくるよ」

「ごめんね」

 私は副部長に用事があるので先に帰ると告げ、ファミレスの前で皆と別れ一人改札を通る。

 4月も下旬を迎え、風が少し暖かくなってきたように感じる。

 空を見上げると薄雲と駅前の明かりのせいで、星は見えない。

 私は湿った風を体中に感じながら急行電車に乗る。

 

 

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