第55話 初ミーティング2
廊下を走りながら時計を見る。2分前、なんとか間に合いそうだ。
ゆきちゃんの方が足が速いので、私の前を走っている。
一足先に教室着いたゆきちゃんが、ドアに手を掛けて私のことを待っている。
私は息を切らせて「お待たせ」と言う。それと同時にゆきちゃんが教室のドアを開ける。
「遅くなりました」
私の声が教室に響き一斉に皆が私達二人を見る。
いつの間にサークルメンバーが増えたんだろう。ざっと見た感じ20人以上はいる。
それとは逆に知った顔が1人もいない。
部長も副部長も、さっき会った宮川先輩もいない。
「あなた達はどちら様?」
1人の女性がこちらにやってきて、私達が誰だか尋ねる。
「天文同好会のメンバーです。ここは天文同好会の教室じゃないんですか?」
ゆきちゃんがその女性に問いかける。
「あなた達は新入生?」
「はい」
今度は私が答える。
「じゃ今年天文同好会に入ったのね?」
「はい」
「今日は火曜日よね?火曜日はこの教室は私達が使ってるのよ。天文同好会がここを使うのは金曜日じゃないかしら。火曜日は一つ上の階の12401教室だったと思うけど」
私とゆきちゃんは顔を見合わせる。そういえば毎週火曜日と金曜日がミーティングだけど、曜日によって教室が違ったんだった。
「す、すいません。間違えました」
私は深々と頭を下げる。
「いいのよ。それより牧野君によろしくね」
「え?先輩は部長とお知り合いですか?」
「ひどいわね、私ってそんなに老けて見える?私もあなた達と同級生よ」
しまった。部長を君付けで呼ぶから勝手に上級生と思ってしまった。
「と、とんでもありません。老けてなんて見えません。すごく落ち着いているので、先輩かと思ってしまいました」
「別にいいわよ。それより急がないと遅刻じゃない」
「はい。あっ、名前お聞きしてもいいですか?」
同級生と言われてもこの女性は、なんとなく敬語を使ってしまう雰囲気を醸し出している
「稲村律子よ」
「はい。お騒がせしました。それでは失礼します」
「桜、急ごう」
廊下に出た私達はゆきちゃんの掛け声と共に再び走り出す。
一つ上の階へ行くだけなので、エレベータではなく階段を使うことにする。
階段の前で一旦立ち止まったゆきちゃんが、振り返り私を見る。
追いついた私が「どうしたの?」と聞く。
「さっきの人、同い年には見えなかったね。落ち着きがあって綺麗だった」
そう言ってゆきちゃんは階段を駆け上がる。私も後に続く。
確かに綺麗な人だった。でも。
「ゆきちゃんも綺麗だよ。落ち着きはないけど」
私の言葉の後に、ゆきちゃんが階段で蹴躓いて足を踏み外し、こけそうになる。
「桜、いきなり何言うのよ。びっくりするじゃない」
「そう?でも本当よ。ゆきちゃん綺麗だよ」
「よくそんな恥ずかしい事が平然な顔して言えるね。もういいよ」
「ホントなんだけどなぁ」
「そんなことより完全に遅刻だ。急ごう」
「うん」
教室の番号を確認する。『12401』今度こそ間違いない。
ゆきちゃんがドアを勢いよく開ける。
「遅れてすいません」
今度もまた一斉に皆が私達を見る。
部長に副部長、宮川先輩も、見知った顔がそこにあった。
大輔くん以外、ちゃんと天文同好会のメンバー全員いる。
「遅刻ね」
ホッとしたのもつかの間。博美先輩の咎めるよな口調が飛んできた。
「すいません」
私とゆきちゃんは頭を下げる。
そしてゆきちゃんの方をチラリと見る。
とても教室を間違ったというような言い訳が出来る雰囲気じゃない。
そもそも教室を間違えていなくても時間がギリギリだったのだから、今それを言ってもみっともない言い訳にしかならない気がする。
ゆきちゃんも同じような気持ちなのか、先ほどの事は何も言わない。
「おい、博美。初っ端からそんなに怒るなよ。遅刻といっても10分も遅れてないじゃないか」
下田先輩が博美先輩を抑えてくれる。歓迎コンパの時も思ったけど下田先輩って意外と優しい。
「別に怒ってないわよ。遅刻したから遅刻ね。って言っただけよ」
本当に怒ってないのかな?ちょっと怖い。
「そうか、じゃもういいな。二人ともこっちおいで」
そう言って下田先輩が不気味な笑いと共に手招きをする。
その様子は完全にエロおやじだ。
前言撤回。『やさしい』じゃなくて『やらしい』だ。
一文字違うだけで全然意味が違う良い例だわ。
「はい」
そう返事はしたももの、ちょっと近寄り難い。
「なんだよ、そんな目で見るなよ。冗談だよ」
「いえ、そんな……」
「ちょっと和ませてやろうと思っただけなのに、変態扱いされたらたまらんなぁ」
「す、すいません」
あのエロさは演出だったんだ。下田先輩の地かと思っちゃった。
もう一度心の中で謝っておこう『ごめんなさい』
「それはまぁいい、とにかくこっちに来て座って」
副部長に促されて、私達は指定された椅子に座る。
博美先輩も、私達と下田先輩のやり取りを見て笑っているので、もう怒っていないようだ。
席はコの字型に並べられ、部長、博美先輩と座り、角を曲がって下田先輩、宮川先輩、ゆきちゃん、さらに角を曲がって私が座り、その隣に副部長という配置だ。
私とゆきちゃんは角々に座らされる格好だ。
横に並ぶよりも角になっている方が、ゆきちゃんの顔がよく見えるので安心感がある。
「鮎川君は欠席との連絡を受けているので、これで全員揃ったことになりますね。ではミーティングを始めます。相沢君よろしく」
進行役は部長じゃなくて、博美先輩なのね。
「では、今年度初のミーティングを始めたいと思います」
今日までにミーティングは一応2回している。だけど今日が今年度初のミーティングということになっている。前回まではただの集まりという感じで、コンパの日時決めたりしてたからなのかな?
はっきりとした理由はわからないけど、とにかく今日が正式なミーティング第一回目だ。
「まず始めに副部長から年間行事について、報告いただきたいと思います。副部長お願いします」
ミーティングが始まった途端博美先輩の言葉遣いが変わる。
他のメンバーも先日のコンパの時とは違いピリッとしているせいか、空気が張り詰めている。
私も自然と背筋が伸びる。