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あなたと永遠の時を  作者: 九条 樹
第二章 大学時代
53/68

第53話 歓迎コンパ2

 暁明館ぎょうめいかんから歩いて10分弱の場所。駅の近くのカラオケボックス『アンバサダー』へやってきた。

 暁明館もこのアンバサダーも駅から大学へと続く一本道の途中にある。


「いらっしゃいませ。お客さま、只今満室となっておりまして待ち時間が1時間以上ございます」

 やっぱり今日はどこもいっぱいのようだ。

「部長、予約してくれてますよね?」

 下田先輩が部長に確認をしている。そうよね、こんな日に予約もなしでいきなり入れるわけないよね。

「え?予約?」

 どうやら部長には寝耳に水の話のようだけど。

「部長に頼んでおいたじゃないですか!」

「そうだっけ?そんな話聞いてないよ?」

「言いました」

「聞いてないなぁ」

「間違いなく言いました」

 言った言わないの水掛け論になってしまっている。

「下田君、君が言ったかどうかは問題じゃない。私が聞いたかどうかが問題なんだ。たとえ君が言ったのが確かだとしても、この私がちゃんと聞いていなければ意味がない」

 そりゃそうでしょうね。でも部長、さも正論のように言ってますがそれはただの屁理屈では?

「新之助、芳郎にそんな事を言っても無駄だ」

「でも……新入生もいるのに1時間も待つなんて」

 下田先輩私達の事を心配してくれてるんだ。優しい一面もあるのね。

「大丈夫、俺がちゃんと予約を入れといたから」

 さすが副部長、そつがない。

 ただ、もし部長がちゃんと予約を入れていたら、予約が重複してたんじゃないかしら?


 フリータイムで入ったカラオケで、初めは皆好き好きに歌っていたが3時間が過ぎたころになると歌よりもサークルの話になってきた。

 と言っても、部長と下田先輩は相変わらず歌い続けてる。

「さっきの居酒屋では、部長と新之助のコンビが暴走してしまってちゃんと話が出来なかったわね」

 そう言って私達に話しかけてきたのは相沢博美先輩だ。

「部長も下田先輩も楽しい方ですね」

「あれは楽しい、じゃなくておかしい人だね。新之助のことは下田先輩なんて言わずに新之助と呼び捨てにしていいわよ、私が許す」

 相沢先輩の話に三人で顔を見合わせて笑う。

「それと私の事も博美って呼んでくれていいわよ。あなたたちはなんて呼び合ってるの?」

「私は桜」「私は優希」「僕は大輔」

 それぞれに呼び名を確認し合う。

「了解、じゃこれからはそうやって呼びましょ」

 三人そろって「はい」と返事をする。

「それで、さっきは聞きそびれたけど、あなた達はどうしてこの天文同好会へ入ったの?」

「それは、桜が博美先輩の写真を見て一目惚れしたからです」

 ゆきちゃんがあのポスターの事を話す。

「あら、どういうこと?」

「実は学内を見学している時に、博美先輩の撮った天の川の写真を見て。それでこんな写真に写ってるような綺麗な宇宙そらを見たいと思ったんです」

「あぁ、あの写真ね。あれなかなか良く撮れてたでしょ?私の会心の作品だよ」

「とっても綺麗でした。あれを見てこれは天文同好会しかない。と思いました」

「ありがとう。で?他の二人は?」

「僕たちは三人で一緒にどこかのサークルに入ろうって決めてましたので、桜がここがいいと言ったので必然的にここに決まりました」

「なるほど、仲がいいのね」

「桜と大輔は高校時代から付き合ってますしね」

 ゆきちゃん、いきなりこんなところで言わないでよ。恥ずかしい。

「やっぱり?さっきのお店で二人を見ていてそうじゃないかな、って思っていたのよ」

「そうですか?」

「うん」

 普通にしてたつもりだったんだけど、やっぱりわかっちゃうのかしら?

「ちょっと皆聞いてくれ」

 部長が突然マイクを通して皆に話しかける。

 どうしたんだろう?

「実は…… 」

 なんだろ?真面目な顔をしてるけど。

「実は咲原君と鮎川君は付き合ってるんだ!」

 ええ?

「ふふ、歌いながらもしっかり聞こえていましたよ。そうか二人は高校時代から付き合ってるのですね」

 隠す必要はないけど、ちょっと恥ずかしい。

 突然の事に大輔くんもやっぱり恥ずかしそうだ。

「部長、マイクを通さなくても聞こえますよ」

「鮎川君、私のことはこれから部長と呼んでくれ」

「はい。って、初めからずっと部長って呼んでます。というかそんなことよりマイク切ってください」

 また皆が大笑いする。

「ミッチー、残念だったな。桜ちゃんはもう既に先約済だ」

 今度は下田先輩までマイクで話しだす。

「ぼ、僕は別に……」

 下田先輩が宮川先輩をからかっている。

「案ずるな宮川君、まだ真下君が残っている。頑張れ」

 部長、残ってるって、その言い方はゆきちゃんに失礼では?

「芳郎、優希ちゃんに失礼だぞ」

 副部長の坂上悠一先輩が注意をする。

「ん?そうか?失礼な事言ったか?」

「部長、思いっきり失礼ですよ。優希ちゃんがかわいそう」

 博美先輩も部長を責めるけど、当のゆきちゃんは全く気にしていないようだ。

 ゆきちゃんはそんなことで怒るようなタイプではない。

 私は小声でゆきちゃんに話しかける。

「なんかゆきちゃんの話で盛り上がりだしたね」

「ホントだね、あの部長の言うことだし別に失礼なんて思わないけどね」

「だよね」そう言って二人でくすりと笑う。

「芳郎、そんなことよりそろそろ帰らないと電車がなくなるんじゃないのか?」

 坂上副部長の言葉で全員が時計を見る。

「ホントだ、そろそろ帰らないとやばいな。まぁ私はいざとなったら悠一の家に泊まるけど」

「断る!」

 部長あっさり断られてる。

「なんだよ、悠一冷たいな」

「迷惑だから電車のある今のうちに帰ってくれ」

 言葉だけ聞くと、取りつく島もないという感じだけど、言葉とは裏腹に全く迷惑がってないのは、二人のやり取りを見ていればわかる。

 部長も副部長に対してだけは、苗字じゃなくて名前で呼んでるし、きっととても仲がいいんだろうな。

「しかし悠一の言うとおりだな。それでは今日はこの辺でお開きにします。皆さん各自勝手に帰ってください」

「部長、最後の言い方冷たい」

 こうして下田先輩の突っ込みで最後を締めてお開きとなった。


 私達三人は同じ電車に乗り、一度電車を乗り換え同じ駅で降りる。

 4月も終わりに近づき、夜でもだいぶ暖かくなってきた。

 はしゃいで火照った体に夜風が心地良い。

「じゃ私はここから自転車で帰るよ。大輔、桜をちゃんと送って行ってあげてよ」

「おう、もちろんだ。心配するな」

 ゆきちゃんの家も、私の家からそれほど離れてるわけじゃないけど、駅から見るとゆきちゃんと私達は方向が違う。大輔くんの家は私と同じ方向では私の家よりまだ奥になる。

 ゆきちゃんが角を曲がるまで見送ってから、私達も自転車で家に向かって走り出す。

「今日は楽しかったね、ゆきちゃんもすっごく楽しんでたみたいだし」

「そうだな、でも今日は優希の心配ばかりしてなかったか?」

「心配?」

 心配ってなんだろう?

「心配というか、楽しんでるかどうかを凄く気にしてたように思ったから」

 そう言われてみればそうかもしれない。

 いつからだろう?ゆきちゃんのつまらなそうな顔を見ることが増えた気がする。

 それが知らないうちに気になっていたのかもしれない。

 最近楽しそうにしていたといえば、入学式の日にサークル見学していた時くらいしか思い浮かばない。

「そんなことないよ。私が強引に決めちゃったサークルだったけど、楽しんでくれてたみたいだから嬉しかっただけだよ」

「そうか、それならいいんだけどな。ちなみに俺だって桜の決めたところに自動的に入ってるんだよ」

「そうだったね。楽しんでくれた?」

「あぁ、すっごく楽しかったよ」

「よかった」


「送ってくれてありがとう、大輔くんも気をつけて帰ってね」

「あぁ、お休み」

「お休み」

 大輔くんが角を曲がるまで手を振る。大輔くんも名残惜しそうに何度も振り返る。

 振り返ってくれるのが嬉しくて私はずっと手を振り続ける。

 

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