第51話 大学入学
「ピー、ピー、ピー」
洗濯終了のアラーム音が洗濯機から流れる。
いつの間にかアルバムに見入ってしまっていたようだ。時計を見ると11時半を少し回っている。
確かアルバムを見始めたのが11時頃だったので、30分くらい見てたことになる。
洗濯機の中はバスタオルだけなので手早く干して、またアルバムを手にとる。
主人は夕食を済ませて帰ってくる予定だし、慌てることはない。
そう考えて、私は大学時代のアルバムを開く。
「見て見て、ゆきちゃん、サークルの勧誘の人がいっぱいいるよ」
「そうだね、桜は何か入りたいのあるの?」
私達3人は無事地元の国立大学に入学することができた。
今日は入学式があり、それが終わってから学内をゆきちゃんと二人で見学している。
「私はなんでもいい。でも何かには入りたいな」
具体的には何も決めてないけど、せっかく大学に入ってからにはどこかのサークルには入りたいと思っていた。
「私は入っても、入らなくてもどっちでもいいかな」
ゆきちゃんはサークルにはあまり興味がないようだけど、入るのも悪くないと思ってる感じだ。
「それならせっかくだし、どこか入りましょうよ」
「大輔はどうするの?一緒に入るの?」
「一応そのつもりみたい。だから3人で入れるようなのを選びたいなって思って」
「私はなんでもいいよ。桜に合わせるよ」
サークルに入ることにあっさり承諾してくれた。
「ありがとう」
「それより、大輔もこんな日にわざわざバイトなんて、行かなくてもいいのにね」
「なんか人が足りないから、どうしても来てほしいって言われたみたい」
大輔くんは入学式が終わったらバイトのためにすぐに帰って行った。
サークルに関しては大輔くんもゆきちゃんもなんでもいい、って言ってくれてるのでゆっくり見て回りたいな。
「それにしてもホントいっぱいあるね」
「そうだね、多すぎて決めきれないね。まずはある程度ジャンルを絞って決めようか」
「そうね、私運動系はちょっと……」
「わかってる、桜は運動が苦手だからそれ以外だね」
「うん。ごめん」
「いいよ、私だって大学に入ってまで運動したいとは思ってなかったし」
よかった、ゆきちゃんが運動系に入りたいって言ったらどうしようかと、内心ひやひやしていた。
「ジャンルは文化、メディア、演劇、学術、語学、音楽ってところかな」
簡単にジャンル分けしても結構たくさんある。
「これだけあると決めきれないね」
「とりあえず順番に見て回ろうか、ゆきちゃん時間大丈夫?」
「私はいつもフリーだから大丈夫だよ」
「じゃもう一回正門の所から順番に見て行きましょ」
「え?一番始めから見るの?もうあっちは見たじゃん」
「だめ、さっきはちゃんと見てなかったからもう一回始めから」
ゆきちゃんは苦笑いしながらも嫌そうじゃなく、初めから一緒に見て回ってくれる。
「はい、じゃここから。スタート」
私は二人だけに聞こえるような小さな声で、元気良く掛け声をあげてサークル見学をスタートさせる。
どれくらい見て回ったんだろう?少し疲れてきた。
「桜、どう?なにか良さそうなのあった?」
「いくつか良さそうなのはあったけど、どれもこれも決め手に欠けるね」
「そうだね、それよりも勧誘の人が必死すぎてうざいところもいっぱいあったよね」
「うん、楽しんでる人もいるけど、必死な人もいるね」
「ちょっと疲れてきたね」
私に付き合ってもらってるので良いにくかったけど、実は私もだいぶ疲れていた。
「休憩しましょうか」
さっき回ってる時、どこかでコンビニを見たような気がするんだけど……
「どこかにコンビニあったよね?」
「うん、私もそれ考えてたの、どこだったっけ?どこかの棟の1階にあったはずだけど何号棟だったっけ」
記憶を辿り戻ろうとした時、ゆきちゃんがいいものを見つけた。
「あっ、あそこにカフェがあるみたい。あそこ行こうか」
コンビニのベンチで休むよりゆっくりできそうだ。
「うん。そうしましょ」
私達はカフェで休憩することにした。
「どう?桜、ある程度の候補は決まってるんでしょ?」
「そうね、ある程度は決まってきたよ」
そう言って私は、有機栽培されたコーヒー豆を独自にブレンドしたというこの大学のオリジナルブレンドのアイスコーヒーをストローで一口吸い上げる。
普段はコーヒーよりも紅茶を好んで飲むんだけど、販売員のお姉さんがお勧めだというので飲んでみたけど確かに美味しい。
「何にするの?」
ゆきちゃんも同じコーヒーを美味しそうに飲んでいる。
「絵画か演劇か、あと写真なんかも候補かなぁ」
「演劇?それはダメ」
「どうして?」
ゆきちゃんって演劇嫌いだったのかな?知らなかった。
「だって、練習とか面倒くさそうだもん」
なんだ、そんな理由だったのね。思わず笑ってしまう。
「桜、何笑ってるのよ」
「ごめん、だって理由が面倒くさいって」
「でも、好きじゃないとあんなことはできないよ、きっと練習とかも厳しいだろうし」
「確かに団体でやるものだし、嫌々だと迷惑かけちゃいそうだね」
「絶対迷惑かける。自信あるからそれはやめよう」
「そうだね、ゆきちゃんが乗り気じゃないなら演劇は候補から外しましょ」
いろいろ話しているうちに、ゆきちゃんはコーヒーを飲み終えてる。
私も残りのコーヒーを一気に飲み干し立ち上がる。
「じゃもう一度戻って絵画のサークルと、写真サークルを見てどっちかに決めましょうか」
「そうだね、そのどちらかなら私もオーケーだよ」
私達は紙コップを所定のごみ箱に捨ててお店を出る。
絵画サークルって確かこっちだったような……
「ゆきちゃん、こっちであってるよね?」
「わかんない。合ってるような気もするけど自信ない」
たった今わかった。私もゆきちゃんも少し地理に弱いみたい。
さっきからちょくちょく軽く迷子になる。
「あっ、こんなところに近道があるよ。きっとここ通って行ったらさっきの場所にでれるんじゃない?」
「わかんないけど迷子になっても学内だし、いろんな所見て回るのもいいんじゃない?」
「そうだね、じゃ近道してみましょう」
小道を抜けると、まだ見たことのない棟に出てきた。
「ゆきちゃん、ここどこ?」
「私に聞かれても困るよ、桜が近道って言ったんじゃない。だいたいどこに繋がってる道かわからないのに、始めっから近道って決めつけるのもどうかと思ってたんだよね」
そう言って、私が勝手に近道と決めつけていた言動が、おかしくって仕方ないという様に大笑いしている。
「そうだけど……近道だと思ったんだもん」
「まぁどこだっていいじゃない、時間はいっぱいあるし慌てることないよ、散歩、散歩」
ゆきちゃんは何も気にしてない様で、散歩と言って今を楽しんでるようだ。
「そうね、じゃのんびり歩きましょ」
最近は大輔くんと二人か、三人一緒に行動することが多くなってたので、ゆきちゃんと二人でこんな風にのんびりする機会が減っていた気がする。
久しぶりにとっても楽しい気分だ。
「桜、なににやけてるの?気持ち悪いよ?」
「もう、気持ち悪いってなによ」
「あはは、ごめんごめん」
二人で歩いているのが楽しい。なんていうのは、気恥ずかしくて言えない……
「あっ!」
私は教室の壁に貼られている1枚のポスターを見て声を上げた。
ゆきちゃんがびっくりして「どうしたの?」と言いながら私の目線の先を確認する。
「なに?何かあったの?」
ゆきちゃんは私が何に驚いたのか分からなかったようだ。
「あのポスター、すっごく綺麗」
それは天の川を写した写真をポスターにしたようなものだった。
「あぁ、あれか。そうだね綺麗だね」
「ゆきちゃん、決まったよ。私の入りたいサークル」
「そうなの?まだ全部見たわけじゃないし、もう一回絵画サークルも見に行くって言ってたけど。決めちゃっていいの?」
「うん、私これみてピンと来た。決めちゃってもいい?」
「写真サークルだね?もちろんいいよ」
「違う違う」
「ええ?この振りで写真サークルじゃないの?じゃ絵画サークル?宇宙の絵でも書くつもり?」
「違うよ」
「絵画も違うの?じゃ何?」
「ほらここ見て」
そう言って私はポスターの左下を指さす。
そこにはこの写真を撮った人の名前とサークル名が書かれていた。
「天文同好会、ここに入りたい」
「天文同好会?」
「うん、きっとこんな綺麗な宇宙を見れて、写真も撮れるんだよ。私ここがいい」
「なんだ、写真でも絵画でもないのね。まぁ桜がそう言うならそれでいいよ。元々私はどこでも良かったんだしね」
「ありがとう、じゃここにしましょう。大輔くんもきっとオーケーしてくれると思うし」
「そうだね、大輔も桜が決めた事に文句を言うはずないしね」
そんな風に言われると照れるのと同時に、私一人が皆を振りまわしてるみたいで、少し申し訳なく思ってしまう。でも誰も嫌な素振り一つ見せずに合わせてくれるのでついつい甘えてしまっている。
「じゃ、今から行ってみようか」
「ううん、もう気持ちは天文同好会に決定してるから、明日大輔くんと一緒に3人で行ってみたい」
「そうだね、それの方がいいかもね。じゃ今日は帰ろうか」
「うん。でもお腹空いたし何か食べて帰らない?」
「賛成、私もお腹空いてきてたの」
「じゃ何か食べに行きましょ、今日は私に付き合ってもらったから私がおごるよ」
一日振りまわしたから、これくらいのお礼はしないとね。
「そんなのいいよ。私も楽しんだし」
「ううん、お礼がしたいの。お願い私におごらせて」
「そう?でも私と桜の間柄でお礼なんて別にいいのに」
「今日はそんな気分なの。久しぶりに二人でゆっくりできて楽しかったし」
「わかった、じゃ今日はごちそうになります」
「あんまり気を使うようだったら、カラオケはゆきちゃんのおごりでもいいよ」
「え?カラオケも行くの?桜は元気だなぁ」
そう言ったゆきちゃんだけど、まんざらでもなさそうだ。
その日は結局二人でイタリアン料理を食べて、それからカラオケに行った。
カラオケでも大いに盛り上がって、帰宅したのは10時を過ぎていた。
楽しい入学の日だった。
いよいよ大学編スタート。
今後、桜花・優希・大輔達はどうなるんでしょう。
お楽しみに~☆