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あなたと永遠の時を  作者: 九条 樹
第一章 高校時代
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第49話 【クリスマス】桜の手料理

 大輔の家の前に立ち、チャイムを鳴らす。

 ドアの向こうから返事が聞こえる。桜の声だ。

「ゆきちゃんいらっしゃい」

 桜が出迎えに来たことが嫌で、思わずぶっきらぼうな返事をしてしまう。

「やぁ」

「お姉ちゃん私も居るんだよ。私にもいらっしゃいって言ってよ」

「うるさいわね。あんたはついでなんだから」

「優希先輩~お姉ちゃんがいじめる。助けて~」

 そう言って愛花ちゃんがまた腕を組んでくる…

「やめなさい、ゆきちゃんが迷惑がってるでしょ」

「そんなことないもん。優希先輩はお姉ちゃんと違って、すぐに怒ったりしないし心が広いんだから」

 屈託なくそんな風に言われるとツライ。

「桜花ちゃん、何してるの?早く入ってもらって」

 奥から大輔の声が聞こえる。

「あっ、ごめんなさい。ゆきちゃんどうぞ上がって」

「お姉ちゃんなんだか奥さん気取りだね。気持ち悪い」

 『奥さん』の一言に思わず反応してしまいそうになるが、グッと我慢する。

「なんですって!何が気持ち悪いのよ」

 愛花ちゃんは「きゃ~」と叫びながらさらに強く抱きついてくる。

 やられた。油断していた。完全に腕を絡め取られてる。

 それより、じゃれ合ってる感じもあるけど、これ以上放っておくと本当に喧嘩になりかねない。

「桜、それくらにしてあげて」

「あ、ごめんなさい」

 私の一言で桜がすぐに大人しくなった。

「や~い。怒られた~」

 そんな桜を見て愛花ちゃんが桜をからかう。

「あんた、いい加減にしなさいよ」

 一旦落ち着いたのに愛花ちゃんの一言でまた桜が怒りだす。

「べ~!」

 愛花ちゃんが舌を出してさらに桜を挑発する。

「愛花!」

 桜は完全に怒った様で、怒鳴りつけるように愛花ちゃんの名前を呼びながら頭を叩いた。

「痛っい~。なにするのよ!」

「あんたがいつまでもふざけてるからでしょ!」

 桜がもう一度頭を叩く素振りを見せる。

「やめて!」

 私は一際大きな声で桜を制止する。

 そしてその声には激しい怒気が込められていた。

 突然の怒鳴り声にびっくりした二人は、完全に動きを止めてしまった。

 二人の態度を見て私自身が慌てる。

「あ、大きな声だしてごめん…… 」

 一瞬にして凍りついたその場の雰囲気を取り繕うように言うが、桜の顔は強張ったままだ。

「私の方こそごめんなさい、部屋に案内するわね。ついてきて」

 そう言われて桜の後ろを私と愛花ちゃんがついていく。

 あんな怒鳴り声を上げてしまったのに、愛花ちゃんは私の腕をしっかり掴んだまま離さない。

 愛花ちゃんはなんとも思わなかったのかな?

 ふとみると愛花ちゃんが、私の腕にすがるようにして上目遣いでじっと私の顔を見ている。

「どうしたの?」

「優希先輩こそどうしたの?先輩らしくないし、なんだか顔色が悪いみたい。疲れてる?」

「そう?そんなことないよ、私はいたって元気よ」

 愛花ちゃんは私の顔を凝視したまま動かない。

 少し間をおいて「だったらいい」そう言ってまた笑顔に戻る

 あんな風に態度や顔に出してしまうなんて、ましてや愛花ちゃんにまで心配されるなんて…… 私ってつくづく最低だ。


 部屋に入るともうすでに彰弘も委員長も来ていた。

今日は私達が大輔の家を借りてパーティーをすることになっていたので、大輔の両親はホテルのディナーに出かけたらしい。

「今日の料理はほとんど桜花ちゃんが作ってくれたんだ。美味しそうだろ」

 大輔が自慢げに言う。

「凄いわね。これ咲原さんが作ったの?」

 委員長が驚くのも無理はない。桜は基本不器用なんだけど料理だけは上手だからね。

 その辺の料理屋で食べるよりも美味しい。

「いいえ、殆どお母様が作ってくれて、私はちょっと手伝っただけ」

 謙遜しているけど、褒められて機嫌よさそうだ。さっきの事はもう気にしてない様子だ。

「いいえ、お母様が…… お姉ちゃん気持ちわる~。お母様だって」

 せっかく桜の機嫌が直ったのに、愛花ちゃんが茶化すようにものまねをする。

「あんたはさっきから私に喧嘩売ってるの?」

 このパターンは……

「あぁ~優希先輩助けて~」

 やっぱりきた。

 また腕を組んで離さない。

「だからあんたを参加させるのは嫌だったのよ。いい加減にしなさいよ」

「まぁまぁ。桜、落ち着いて」

 私はあえてさっきの事などなかったように、二人の間に入る。

「ゆきちゃんも愛花を甘やかさないで」

 この口調だと、桜もさっきの事は全く気にしてない様だ。よかった。

 桜と愛花ちゃんのやり取りを見ている委員長や大輔は大笑いしている。

 彰弘はというと、笑ってはいるが無理やりって感じがする。

 逆に何か思いつめたように顔がこわばっているようにも見える。

 なにはともあれ、こうして桜が腕によりをかけた手料理を食べながらのパーティーが始まる。


 料理に関してはみんな大絶賛だ。私は何度か桜の家で桜の作った料理を食べさせてもらった事があるので、今更驚きはしないけど皆は桜の本格的な料理に心底驚いていたようだ。

 ただ、鶏の一羽まるごとのグリルはいいとしても、フォアグラやロブスターなどの高級食材が並んでるのはどういう事だろう。3千円の会費ではとてもまかなえそうになさそうだけど。どうなってるんだろう?

 こっそり桜に耳打ちする。

「桜、会費でこれだけの料理できたの?」

 すると桜も小声で返してくる。

「大輔くんのお母様が食材を準備してくれたの」

 そうだったんだ、聞かなきゃよかった。

「それに、大輔くんの家のキッチン凄いんだよ」

「何が?」

「調理器具がすっごい立派なのがいっぱい揃ってるの」

「へぇ」

 私は興味なさげに返事をするが桜は嬉しそうに話す。

「オーブンも、ものすっごく大きいのがあるんだよ。だから鶏も1羽まるごと焼けたの」

 桜は料理を作るの好きだから、興奮する気持ちはわかるけど……

 そろそろ話を切り上げたいと思っていたところで、丁度良い合いの手が委員長からでてきた。

「今日は私のお勧めのビデオ持って来たの、皆で見ない?」

 映画は「34丁目の奇跡」といってクリスマスをテーマにした映画らしい。

 確かにこんな日にぴったりだ。

「はい。私見たい~」

 愛花ちゃんがすかさず返事をする。

 もちろん誰も反対することもなくビデオを見ることになった。


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