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あなたと永遠の時を  作者: 九条 樹
第一章 高校時代
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第48話 【クリスマス】一人の部屋

「今日はパーティかぁ」

 誰もいない部屋でため息混じりにつぶやく。 

 桜に愛花ちゃんを迎えに来てほしいと頼まれていたので、もう少ししたら出かけなくちゃいけない。

 桜自身はパーティーの準備があるからと、昼頃から大輔の家に行ってるらしい。

 桜は大輔と一緒か……

 まただ、またこんな気持ちに。あの時、あの病室でもう吹っ切ったはずなのに。

 私は気を取り直し、部屋にある姿見の前に立ち服装をチェックする。

 ううん、服装なんかより笑顔のチェックだ。

 鏡に顔を近づけ笑顔を作ってみる。なんともみすぼらしい笑顔だ。

 こんな悲愴感ただよう顔で行けるわけがない。

 私は両手を使って口角を無理やり上げてみる。全然ダメだ……

 そういえば割り箸なんかをくわえたまま、ニコっと笑うと口角が上がるとか……

「何やってるのよ!」

 誰もいない部屋で私の声がむなしくこだまする。

 無理やり作ったこんな汚い笑顔みせても嫌われるだけだ。急に胸が痛くなり俯きそのままその場にへたり込む。手で胸を押さえるが痛みが和らぐことはない。

 いつまでもこんなところでうずくまってなんていられない、顔を上げもう一度鏡を見る。

 見ると鏡の中の私の目からは、今にも涙が溢れそうになっている。

 ダメ、今泣いたらマスカラがとれてしまう。

 今日は気合入れて、いつもはしないようなメイクしているんだから。

 普段はつけることなんてないマスカラ。口紅だってチークだって大人っぽさを演出するような色合いを意識している。つい先日、桜と一緒に雑誌など見て勉強したメイクだ。

 アイラインも頑張って引こうとしたけど、それは上手くいかず結局諦めた。

 頑張ってみたんだけどな……

 そんなことを考えているとどんどん辛い気持が大きくなり、堪え切れなくなって涙が一滴流れる。

「あっ」

 声を発して自分で気付く、涙声になってる。

 慌ててティッシュを引き抜き、鏡を見ながら涙を押さえる。

 でも、せっかく押さえてるのに次から次へと溢れてくる。

「何やってるのよバカ」

 自分で自分に怒るけど涙は止まってくれない。

「なんで止まってくれないのよ」

 もう嫌、泣きたくなんてないのに。

 泣きたくないと思えば思うほど涙が止まらなくなる。

 我慢できない、私泣いてもいい?自分に問う。

 自分で答えを出すことは出来なかった。でも静まりかえった部屋で、私は誰にはばかることもなく声を出して泣いた……誰もいない部屋で、誰も知らない思いを胸の奥に押し込みむなしく泣き続ける……

 

 どれくらい泣いていたんだろう?「あっ、何時?」

 私は突然思いだしたように時計をみる。そろそろ出かけないと約束の時間に遅れてしまいそうだ。

「もう!」

 私は全てを振り払うかのように勢いよく立ち上がり洗面所へ向かう。

 手いっぱいにクレンジングをとり、乱暴に顔にこすりつメイクを全部落とした。

 大急ぎで部屋に戻りファンデーションを塗る、そしていつも使っている艶のない薄いピンクの口紅を塗る。チークもオレンジとピンクの中間のようなものを、目立たない程度に薄く塗る。

 結局いつものメイクだ。

 目が腫れぼったい感じがするけど今更どうしようもない。

 愛花ちゃんが待ってるんだ。遅れちゃいけない。

 私は勢いよく家を飛び出した。

 時間がなくなって焦っていることで少しは吹っ切れた気がする。


 桜の家が見えてきたので時計を確認する。なんとか約束の時間には間に合ったようだ。

 桜の家のガレージに自転車を停め息を整える。

 チャイムを鳴らすと、待ってましたとばかりに愛花ちゃんが飛び出してきた。

「優希先輩こんにちは」

 ドアを開けながら満面の笑みで出迎えてくれる。

 私だと確認をする前に、勝手に私だと決めつけてドアを開けながら挨拶してるけど、私じゃなかったらどうするんだろう。

 でもそんな屈託のないところが、愛花ちゃんの可愛らしいところだ。

 なんだかこの笑顔に救われるような気持ちになる。

「愛花ちゃんこんにちは」

「優希先輩と二人で出かけられるなんて嬉しいな」

 なんか微妙にデートっぽいニュアンスで言われてる気がするけど、気にしないでおこう。

「出かけると言っても大輔の家まで行くだけだけどね」

「それでもいいんです。優希先輩が私を迎えに来てくれて一緒に目的地まで歩く。それだけで幸せです」

「はは…… 」

 なんと返していいか分からず間の抜けた笑いしかできない。

 大輔の家は桜の家から意外と近い、二人の家の間には学区の区分けの境界線があるので中学校は別々だが、十分じゅうぶん歩いて行ける距離だ。私の家も桜とそれほど離れてるわけではないけどやっぱり中学は別だった。

「楽しいですね」

 愛花ちゃんは相変わらず楽しそうだ。

 この調子で話を進められたら応えるのが大変そうなので話を変えよう。

「そういえば愛花ちゃんはもうすぐ受験じゃないの?」

「そうですよ」

「勉強はかどっている?」

「ばっちりです」

「高校はどこだっけ?」

「もちろん相星です」

 なぜもちろんなのかはあえて聞かないでおこう。

「だって優希先輩の通ってる学校だもん」

 聞いてないのに答えてくれた。

「はは…… 」

 苦笑いするしかできない。

「先輩も大学受験するんでしょ?」

 そう言いながら愛花ちゃんが何故か腕を組んでくる。

「そうだね。私はどっちでも良かったんだけど、桜が一緒に行こうっていうから」

 そっと腕をはずそうとするが、愛花ちゃんは腕をはずされまいと強くしがみつきながら話を続ける。

「優希先輩ってすっごく頭が良いってお姉ちゃんが言ってたよ」

「そんな、別に良くないよ。普通だよ」

「ううん。お姉ちゃんが『ゆきちゃんは頭が良いのに進学するつもりないみたいで勿体ない』って言ってたよ」

 桜って家でそんなこと言ってたのね。

「だから優希先輩を無理やり誘ったんだって」

 そうだったんだ、だからあんなに必死で一緒に大学に行こうって言ってたのね。

 それよりもこの腕はいつ離してもらえるんだろうか。

「でも優希先輩のレベルに合わせた大学を受けることにしたから、勉強が大変だって言ってたよ」

「桜も勉強は結構出来るはずだから問題ないと思うけどね」

「でもお姉ちゃんは、センター試験まで日にちがないから冬休みはずっと大輔…… 」

「愛花ちゃん!」

 私はその先を聞きたくなくて、愛花ちゃんの言葉を切るように鋭く愛花ちゃんの名前を呼んだ。

 愛花ちゃんは相当びっくりしたようで、腕を離して「はい」と返事をする。

「ほら見て、あそこに大きな赤い看板が見えるでしょ。あの隣が大輔の家だよ」

 一瞬キョトンとしたような顔をしていたけど、また腕を組もうとしてきたので、組まれる前に愛花ちゃんの手を引っ張り大輔の家へ向かった。


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