第43話 【文化祭】大輔の報告
「真下、昨日の朝の約束覚えてるか?約束どおり咲原に告白して俺の想いを受け止めてもらった」
私は何て言えば良いか分からず、大輔の顔をまともに見れなくて横を向く。
私が横を向いたのをどう感じたんだろうか、桜が慌てて話しに入ってくる。
「ゆきちゃん。私、ゆきちゃんが大変な状態なのに、お付き合いするなんていけないと思って、だから一度はお断りしたんだけど…」
最後は消え入りそうな声で語尾が途中で切れてしまったようだ。
思ったけど?思ったけど何?結局付き合ったんでしょ?だったらそれで良いじゃない。
桜は何がいいたくて大輔の話しに割って入ったの?それとも『けど』の続きに大事な話でもあったの?
私は小さく頭を振る。痛っ。小さく振ってもどこかしら体が動くようであちこちから痛みを感じる。
桜はそんな私をじっと見つめたまま何も言えないでいる。
私は誰にも分からないように心の中で小さなため息を一つつく。
私ってホント嫌な人間ね。桜は私がそっぽを向いたことで怒ってると思ったかな。
私は今どんな顔をしてるんだろう。皆にはどんな風に映ってるんだろう。
自分で二人が付き合う事を望んで大輔に告白するように頼んだのに……
その通りになったと分かった途端二人が気にするような態度を取ってる。
私って最低な人間だ。桜、ごめんね。
桜は何も悪くないのに……
怒ってるわけじゃないのよ。ただどうしようもなく寂しく感じただけなの。
「優希!桜ちゃんはあなたが大変な状態なのに今付き合うなんてできないって断ったのよ。だけどあんた鮎川君と約束していたのでしょ?桜ちゃんの誕生日である今日に告白することを!だから、ってわけでもないけど私が強引に二人の仲を取り持ったのよ。優希のことは気にしなくて良いって言ってね」
あぁ、そうか。お母さんが間に入ったんだ。それで。
お母さんがそんな行動をとるなんて…… やっぱりお母さんには分かってるんだろうな。
「桜、大輔おめでとう。これからずっと仲良くね」
桜が悪いわけじゃない。そう思い直して言った言葉だったけど、自分でもびっくりするほどぶっきらぼうな言い方になってしまった。
こんな言い方じゃ余計気にしてしまうんじゃないだろうか。
「俺は認めない!」
大輔の報告を聞いてうなだれていた彰弘がいきなり声を発した。
しかも認めないって。
彰弘が認めるとか認めないとか関係ない気がするんだけど…… でも思い詰めて出た言葉だということはよく分かる。
そして彰弘の発言のおかげで、私のぶっきらぼうな言い方が流されたようで助かった。
「たとえ桜花ちゃんが誰と付き合おうが関係ない。俺は桜花ちゃんが好きだ。絶対に諦めない」
諦めた方がよさそうだと思うけど黙っておこう。
彰弘はバカだけど桜への思いは本物だ。それをどうこう言う資格なんて私にあるはずもない。
頑張れとは言えないけどあの一途な思い、そしてそれをはっきりと言える心を持っている彰弘が羨ましい。私にはとてもそんな勇気はない。
「俺は帰る」
そう言い残し彰弘は帰って行った。続いて委員長ももう時間も遅くなったし、と言って帰って行った。
時計を見るともう7時40分だ。
「咲原、俺達もそろそろ帰ろうか、あまり遅くなると真下も疲れるだろうし。それに面会時間も8時までだから」
「私も少し疲れた。ちょっと眠りたい」
今はこれ以上話をしてもろくなことがない、と感じていた私は桜に帰るように促す。
「うん、バタバタしちゃってごめんね。また明日来るね」
そう言った桜だが、まだ何か言いたそうだ。
「桜、どうしたの?何か言いたいことがあるんじゃないの?」
桜は何かを考えているようだ。そして少し間をおいて。
「ううん。何でもない。また明日来るからゆっくり寝てね」
「そう?何でもないならいいけど」
「うん。なんでもない。お大事にね」
「ありがとう」
桜と大輔が帰っていった。
そして病室には私とお母さんだけが残された。