第42話 【文化祭】もういいよ。
「優希」
お母さんの声は私を叱責しているようだ。
「みんな凄く心配していたわよ。心配してくれる人がいてよかったわね。でもあなたの不注意で起こした事故なのに桜ちゃんが自分のせいだと言ってそれはもう大変だったんだから。ちゃんと謝っておくのよ」
「そんな… お母さん、悪いのは私なんです。ゆきちゃんは悪くないので責めるようないい方しないであげてください」
「桜ちゃんは優しいわね」
「優希」
「分かってるよ。私が飛び出して勝手に一人で起こした事故なんだから桜は悪くない。それくらい分かってるよ」
「それならいいのだけどね」
「桜、心配かけてごめんね。大輔も委員長も彰弘も心配かけてごめん」
「真下が無事ならそれでいいよ。何も謝る事はないよ」
と、言葉を切ったところで大輔が腑に落ちない様子で聞き返す。
「彰弘?」
私は大輔の言いたい事が分からず「うん?」と応え彰弘を見る。
私の目線を追って大輔が振り向く。
「彰弘、いつの間に?」
「今さっき… 」
「どうしてここへ?」
「委員長に聞いて」
「葵くんは知らなかったの?私てっきり知っているものだと思って話ししちゃったわ」
委員長も秘密をばらしてしまってごめんなさい。というような言い方だ。
何がどうなってるんだろう?今まで気を失っていた私には話が見えてこない。
「文化祭でのみんなの様子がおかしかったから、疑問に思っていたんだけどこういうことだったんだ」
「別に隠していたわけじゃないけど、お前どこか行ったままだったから言いそびれて」
「ああ、俺があの日逃げて帰ってしまったからな。別になんとも思ってないよ」
要するに彰弘だけが私の事故を知らなかったってことなんだろうか?とにかく彰弘の出現で場の雰囲気が重くなったのは間違いなさそうだ。
いきさつがはっきりと分からないので、何を話したらいいのか分からない。
それよりも少し疲れたし寝たい。そうお母さんにそう言おうとした時。
「みんなちょっと聞いて、ここで大ニュースを発表するわ」
お母さんが暗い雰囲気を打破する為かのように、大きい声で手をたたきながら皆の注目を集める。
なんだろう?
お母さんの次の言葉を待ってると桜が大慌てで制止する。
「お母さん何を発表するんですか?まさか」
「もう分かっているくせに。あなた達のことに決まってるじゃない」
「ちょっと待ってください。こんな大勢いる前でいきなり発表するんですか?」
桜がそうとう慌ててる。
「みんなが居るから発表する意味があるんじゃない。それともずっと隠しておくつもりだったの?」
「いえ、そんなことはないですが…… でもこんないきなり…… 」
桜の態度で、お母さんが何の話をしてるのか、なんとなく分かった。
「では私の口から言うのもなんですので、鮎川君から言って頂きましょう。どうぞ」
大輔の名前が出たことで確信した。そうか、二人は付き合うことになったんだ。
彰弘の方を見ると、彰弘もなんとなくそれを感じているのか寂しそうに桜の後ろ姿をじっと見ている。
「僕が言うんですか?」
「あら嫌なの?じゃあやっぱりおばさんが言いましょうか?」
「いえ、僕から言います。真下には僕から報告する義務があるような気がするので」
そう言って大輔が私の目の前に立つ。
もう何を言うか分かった、だから今ここであえて大輔から聞かなくてもいい。
今は聞きたくない。
元はと言えば私が大輔にお願いしたことだけど、でももう分かったから言わないで。
そんな私の思いが通じるはずもなく、大輔が私を正面に見据える。