第39話 【文化祭】もう一度
しばらくしてお母さんが鮎川くんを連れて戻ってきた。私は慌てて立ち上がる。
「さ、鮎川くんもう一度告白してあげて」
そう言いながらお母さんは私の後ろに回り私を後ろから抱きしめそっと両腕を掴む。
鮎川くんはなかなか言い出せないようで黙ったままだ。
「どうしたの?おばさんがいると邪魔で告白できない?」
「いえ、そんなことは・・・」
私が邪魔?なんて言い方をされると「うん」とは言えないよ、でもきっとわかってて言っているんだろう。
「早く言ってあげて、いつまでも待たせちゃあ可愛そうでしょ?それにもう答えは決まっているのだから。何も心配ないわよ。でも一応こういうことは順序を踏まえた方がいいでしょ?だから早く告白してあげて」
やっぱりお母さん楽しんでるみたい。でもお母さんの言葉に安心したのか鮎川くんが意を決したような表情をつくる。
「咲原、さっきも言ったけど俺は咲原の事が好きだ、ずっと好きだった。だから付き合って欲しい」
何度聞いても緊張する。だけど私も鮎川くんのことは好き。お母さんにも応援してもらってるというのがゆきちゃんへの申し訳なさを霞ませてくれる。
でも私もなかなか返事ができない。
するとお母さんが私を抱きしめながら体を揺すってくる。
「ほら、鮎川くんが一生懸命告白したんだから桜ちゃんもちゃんと返事してあげて」
そうだ、鮎川くんの方がもっと緊張したはずだ。お母さんも鮎川くんも委員長もみんなゆきちゃんがこうなるのを望んでいたって言ってくれてる。ゆきちゃんの気持ちはきっとみんなの言う通りなんだ。
そう考えて私も意を決して返事をする。
「さっきはごめんなさい。ゆきちゃんがこんな状態なので一度は断ったけど、私も鮎川くんのことずっと好きでした。私も付き合いたいです」
「おめでとう。よかった、これで二人は晴れて恋人同士ね。目を覚ました優希がきっと羨むわね」
私はドキッっとして鮎川くんを、そしてゆきちゃんを見る。鮎川くんもビックリしたようだ。
「あら、私としたことが羨むと言うのは失言ね。でも優希は本当に二人の幸せを願っていたわよ。だから安心して、これから先ずっと仲良くするのよ」
「はい」
私達二人は同時に返事をした。
「良い返事ね。これなら大丈夫そうだわ。それじゃちょっと優希の体を拭いてあげたいのでちょっと席を外していてくれる。10分もすれば終わるからそれまで時間をつぶしていてね」
私達二人は病室を出て委員長の待つ待合室に向かう。
残された病室にて・・・
「優希、どう?そろそろ起きない?」
そう言って美代子は優希の頬を撫でるが、相変わらず反応はない。
「とにかく少し体を拭いてあげるわね」
パジャマの前のボタンを外し、固く絞ったタオルで愛しむように首筋から優しくタオルをすべらせる。
「ごめんね、二人のことを応援しちゃったわ。でもいいわよね?あなた自身どうせ報われないならせめて…… という思いだったのでしょ?お母さんには分かってるわ。あなたの…… だからこれでよかったでしょ?」
自分の行動は母として、優希のことはもちろん桜花のことも考えてのことだと、自分自身に言いわけするように語り続ける。
「目が覚めたらあなたの望んだ、でも望まない結果になっているわ。勝手なことをしてごめんね。でもこれがきっとあなたの為よ。」
聞こえていないであろうことは分っているが、自分の行動の理由を語りたかったのだろう。
「そんなことよりも早く目覚めて。みんな待っているのよ。この結果報告もあなたが目覚めてくれないと言えないじゃない。桜ちゃんや鮎川君が待っているのよ、だから早く起きてね」