第38話 【文化祭】だって…
「あらあら、また泣いちゃったの?誰に泣かされたの?そこの鮎川くん?」
「え?」
3人が同時に病室の入り口の方を見る。
ゆきちゃんのお母さんが入ってくる。
「桜ちゃん大丈夫?」
「はい」
「ちょっと桜ちゃんと二人で話がしたいの、申し訳ないけど少しだけ席を外してもらえる」
鮎川くんと委員長は素直に出ていき病室に私とお母さんが残る。もちろんゆきちゃんも。
「桜ちゃん、せっかく大好きな鮎川くんが告白してくれたのに断っちゃったの?」
「どうしてそれを?聞いてたんですか?」
「ごめんね、病室に入ろうとしたら何やらとりこんでいるようだったので、ちょっと様子を見てたの」
「そうですか、ごめんなさい。ゆきちゃんの病室なのに」
ゆきちゃんの病室で告白されてしまうなんて、不謹慎だと恥ずかしくなる。
そう思うとお母さんの顔を見られない。
「いいのよ。それより青春って感じで、見ていた私の方がどきどきしたわ。でも断っちゃったのね」
「はい」
お母さんが見ていたなら、なおさら断って良かったと思う。
「泣くほど好きなら付き合っちゃえばいいのに」
「ゆきちゃんがこんな状態ではとてもそんな気になれなくて」
「優希の事なんて気にしなくていいのに」
「そんなわけにはいきません、こうなったのも私の責任ですから」
好きなのも本心だけどこの気持ちも本心だ。
「それは関係ないって言ったでしょ。それにあなた達が恋人同士になるのは、優希自身が望んでいたことじゃない?」
「本当にそうなんでしょうか」
ゆきちゃんの気持ちを直接聞けていないのがどうしても気になる。
「本当よ、私も優希と親子二人だけの生活でいつも優希のこと見ているのよ。優希が何を考えているかなんて分かるわ」
「ゆきちゃんの考えてること?」
「ええ、優希は本当に桜ちゃんが喜ぶような結果になる事を望んでいたはずだわよ」
「私の喜ぶ結果…」
ゆきちゃんはいつも私を気遣ってくれる。お母さんも言うんだから本当なのかもしれない。ううん、きっとそうなんだと思う。でもゆきちゃんの口から聞きたい……
「そうよ、だから二人が付き合うと優希も喜ぶわ。だから大好きな彼の告白を断ったりしないで。彼のこと好きなんでしょ?」
「はい」
「付き合いたいのでしょ?」
私は答えに窮す。もちろん付き合えたら嬉しいけどやっぱり……
「付き合いたくないの?」
「いえ、そんなことはないですけど……」
「じゃ話は簡単じゃない、ちょっと待ってね。彼を呼んでくるわ」
「え?いきなり?」
私は思わず立ち上がってしまう。
「そうよ、彼だって悲しそうにしていたでしょ?お互いが好きなのだから何も問題ないわよ」
「ま、まっ… 」
私の制止の言葉も言い終わらないうちに、お母さんは鮎川くんを呼びに行ってしまった。
この状況を、なにやら楽しんでるように見えたのは気のせいだろうか。
精神的に疲れきった私はそのままソファーに深く座る。