第37話 【文化祭】ついに!
「咲原、俺、咲原のことが好きなんだ。だから付き合って欲しい」
ゆきちゃんに集中しかけていた意識を引き戻すには、十分すぎる鮎川くんの告白だった。
委員長が入ってきた事でもうこの話は終わるのかな?と思っていたので告白の言葉を聞いて固まってしまった。
でもそんなことより、ゆきちゃんの意識がまだ戻っていない状況では、鮎川くんの言葉を素直に聞けない。
「ありがとう、だけどゆきちゃんの状態が」
「それは分かってる」
私の言葉を遮るように鮎川くんが言葉をかぶせてくる。
「さっきも少し言ったけど、この告白は真下との約束でもあるんだ」
「どういうこと?それに私はまだゆきちゃんの本当の気持ちを聞いてないの」
「それは知ってる、それも含めて約束なんだよ」
鮎川くんの言ってることが全く理解できない。
「何を知ってるの?約束って何?」
「私が説明してあげるわ、さっきから鮎川くんの話はまどろっこしくて、咲原さんに全然伝わってないから」
「え?あぁ、そうか。そうだな頼む」
「まず、真下さんは鮎川くんのことを恋愛感情では全く見ていないのよ、それは私も含め、教室にいた全員が聞いてるわ、そしてその証明として、鮎川くんに今日告白するように頼んだのよ。真下さんの言ってることが本当だって信用してもらえるようにね」
「ゆきちゃんがそんなこと言ったの?皆のいる前で?」
「そうよ、昨日咲原さんが来なかった朝の教室で、大声で怒鳴るように話していたわ、だから教室にいた私も全部聞いたってわけ」
鮎川くんが話に割って入ってくる。
「咲原、この告白は俺自身したいと思っていたものだ、決して真下に言われたからというわけじゃない。だけど今日告白したのは、真下が今日は咲原の誕生日だから今日にして欲しいと言ったからなんだ。そして今はそこのベッドで寝ているけど、真下が文化祭で告白の場所をセッティングしてくれると、そこまで言ってくれたから」
ゆきちゃんと鮎川くんの間で、そんな話が出来ていたなんて全然知らなかった。
「だから真下のためにもどうしても今日告白したかった、そしてこれだけはちゃんと聞いてくれ。真下は俺のことなんてなんとも思ってないし、俺と咲原が付き合うことを本当に望んでいるようだった」
「鮎川くんが咲原さんと付き合いたい一心で嘘を言ってるわけじゃないわよ。全部本当の話よ、私の目にも真下さんはあなた達二人が付き合うようになることを望んでいたように見えたわ」
だまって聞いてたけど、鮎川くんは嘘をつくような人じゃないし、委員長までがそう言うのならきっと本当なんだろう。
私も鮎川くんのことは本当に好きだからこんな幸せなことはない。
だけどたとえ二人の話が本当だとしても、ゆきちゃんがこんな状態なのに私だけ幸せになっていいのだろうか。
正直ゆきちゃんの意識がいつ戻るのか、考えたくは無いけどこのまま戻らないかもしれないのに、こんな状況で鮎川くんの告白をうけていいのだろうか。
「咲原?」
「あっごめんなさい」
私が黙り込んでしまったから心配になったんだろう、鮎川くんが回答を求めるように私の名前を呼ぶ。
「私も鮎川くんのことが好きです。だけどゆきちゃんが大変なこんな状態では、とても鮎川くんの言葉を受け入れれるような気持ちになれません」
「そうか、それはそうだね」
ゆきちゃんのことが心配だからだろうか、鮎川くんに好きとさらりと言えた自分にびっくりする。
だけど鮎川くんの悲しそうな顔を見ると辛い。
鮎川くんに告白されて嬉しいはずなのに何故か涙が出てくる。
こんな状況じゃなければ……
私も鮎川くんのことが大好きで私から付き合って欲しいとお願いしたいほどなのに。
先ほどまで元気だった委員長も、さすがに大人しくなり神妙な顔をして私達の会話を見守っている。