第35話 【文化祭】病室で…
私と鮎川くんはゆきちゃんの眠るベッドを挟んで向かい合わせに立っている。
じっとゆきちゃんの様子を窺うっていたが視線を感じ鮎川くんを見る、と鮎川くんがあわてて視線を逸らす。
またゆきちゃんに視線を落とすと鮎川くんの視線を感じる。
「どうしたの?私の顔に何かついてる?」
「いや、そんなことないよ」
鮎川くんの視線が熱く感じられる、私は何故か恥ずかしくなってきたのでソファーに移動した。
すると追いかけるように鮎川くんが私の座るソファーの目の前に来る。
「な、なに?」
なんだろう…… あんまり近づいて見られると恥ずかしい……
鮎川くんは無言のまま私を見ている。私の鼓動が早くなっていくのが分かる。
迫る鮎川くんから逃れるように、私は慌ててまたゆきちゃんの傍に戻ろうとし立ち上がる。
「咲原」
鮎川くんの何か切羽詰ったような裏声交じりの大声にビックリし思わず返事をする。
「はい」
「そこに座って」
「はい」
どうしたんだろう?鮎川くんがなんだか変。真剣な眼差しで見られて激しく緊張する。
さっきから胸の鼓動はどんどん早くなるばかり。頭の中では踏切の警告音のようなものが鳴り響いている。
「咲原、今から俺が言うことをちゃんと聞いて欲しい、知っていることもあるだろうし、びっくりすることもあるかもしれない」
「はい」
踏切の警告音が早鐘のように頭の中に響き渡る。
鮎川くんの真剣な眼差しに、なんとなくだけどこの後の展開が想像され激しく緊張してきている。
「俺自身もっと早くにいうべきだったと思ったりもするが、こういうことはなかなか言い出せないのだということも分かって欲しい」
「はい」
鮎川くんが何を言おうとしているのか分かるような気もする。
それを考えた途端緊張が極限まで引き上げられ息苦しくなる。
「俺がこういう気持ちになったのは…… そんなことどうでもいいか、それよりも咲原は真下がこんな状態になっているのに!と思うかもしれない」
「はい」
だんだん周りが白く輝いて目の前の鮎川くん以外色を失っていく。
「咲原の気持ちを考えずこんなことを言おうとしていいのかとの葛藤もある、だけど真下がこんな状況だからというのもある」
「うん」
ドキドキはおさまることなく今も激しく動揺している。そのせいか鮎川くんの話がよく分からなくなってきた。
「真下と約束をしたからというのもある。だけどそれだけじゃない、俺自身いつか言いたいと思っていた。彰弘に遠慮していた部分もあったけどいずれ俺が、と思っていたのも事実だ」
だんだんと頭は混乱し、目の前までが白い光に覆われはじめ何も考えられなくなってきた。
熱っぽくなって頭もぼーっとしてきた。
鮎川くんの言い回しに何が言いたいのか、何を言おうとしているのか理解できなくなってきた。
「咲原」
私の名前を呼んで鮎川くんが大きく息を吐き出す。その息が私の前髪を揺らす。
「はい」
私の目の前は真っ白な光に包まれまともに前が見えない。頭も痺れるような軽い痛みを感じる。
声だけがかろうじて耳に届く、しかし緊張のあまり気分が悪くなってきた。
「俺は、ここ数日色々考えた結果を今から話そうと思う。咲原がその話しをどう思いどう感じるかは分からない。だけど聞いてくれ」
真っ白い光に包まれた目の前がぐるぐる回っている。もう限界…… 鮎川くんの言葉も殆ど聞き取れない。
「俺は……」