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あなたと永遠の時を  作者: 九条 樹
第一章 高校時代
33/68

第33話 【文化祭】逸る気持ち

「おはよう」

 教室に皆の元気な声が響きわたる。

 普段は勉強をするだけの教室が、今日は喫茶店に装いを変え皆の心を軽くしているようだ。

 皆楽しそうにしていて凄く元気がいいけど、私と鮎川君は暗い面持ちだ。

「今日文化祭が終わったら病院にいくんだろ」

 鮎川くんが声をかけてくる。

「もちろん行くよ」

「俺も行くから一緒に行こう」

「うん」

「昨日は大変だったらしいわね」

 振り返ると、委員長がこれもまた暗い面持ちで話しかけてきた。

「委員長はゆきちゃんのこと知ってるの?」

「先生に聞きました。でも他の生徒達は全く知らされていませんけどね」

「真下さんのことが心配でしょうけどとにかく今日は文化祭だから頑張ってね」

「うん、分かってる」

 ゆきちゃんのお母さんとも約束したので、ちゃんと最後までいなきゃいけない。

「桜花ちゃん、心配ないよ。優希のことだからもう元気になってるよ」

 葵くんには鮎川くんが昨日のうちに話しておいたらしい。今回のことは葵くんが悪いわけじゃないけど、なんとなく今までのような感じで話せない気分だ。


 先生が来て本日の注意事項など一通り話し終え9時きっかり文化祭が始まった。

 ゆきちゃんの代わりを委員長が勤め、私達は午前の部の喫茶店を営業させた。


 午後は自由時間となりそのまま委員長を含めた4人で学内を見て周った。

 私としてはすぐにでも病院に駆けつけたかったけど、ちゃんと最後までいると約束をしたから帰ることはできない。

 他の3人はそれなりに楽しんでいるように見える。

 だけど私はどうしても意識がゆきちゃんのことばかりになってしまって、うわべだけの笑顔さえ出せないでいた。


 何度も何度も時計ばかり見ていた。時計を見た数だけ時間が早く過ぎるなんて事もないのに…… どうしても見てしまう。


 やっと3時になった。

「3時になったよ、そろそろ教室に帰って片付けをしましょ」

 私の一言でみんな教室に戻る。

 後片付けをしながらも気が急く。

 焦っても時間が早く流れてくれるわけじゃないのに、どれだけ早く片付けても4時になるまで学校から出れないのに。

 だけどどうしても動きが早くなる。

 早く片付けて早くゆきちゃんに会いたい。

 きっともう意識が戻ってるはず、だよね。そう願いながら。


 4時前に担任の先生が教室に戻ってきて本日の文化祭の終わりを告げる。

 解散した瞬間に私は駆け出し、自転車に乗ってわき目もふらず大急ぎで病院に向かう。

 病院に着き自転車を停め駆け足で別館に入りエレベーターまで来たところで思いだす。

 鮎川くんと一緒に来る約束をしたことを。

 慌てていたのですっかり忘れていた…… 思わず振り返るが鮎川くんの姿があるはずもなくどうしようか悩む。

 ゆきちゃんの事は気になるけど、約束を破ってしまったのも気になる。

 もともとゆきちゃんが事故に遭ったのも私が約束を破ったからだ。

 約束という事に関してすごく敏感になってしまっている。

 病院を出て表通りまで戻るが鮎川くんの姿はない。

 その場で少し考えたが、鮎川君との約束よりもやはり今はゆきちゃんのことの方が気にかかる。

 私はまた思い立ったように駆けだし病室に向かう。

 別館に入ったところでエレベーターに乗り込む人達が見える。

 私は大急ぎで駆けつけ続いて乗り込む。

 病人のことを考えてのことだと思うが、病院のエレベーターは昇降するのが遅い。

 気が急いている今はさらに遅く感じる、しかもこの時間は人の出入りが多い時間帯なのか、各階に止まり乗り降りする患者や看護師、面会人で混雑している。

 3階まで上がってきたところで我慢ができなくなり、エレベーターを降りてすぐ隣にある階段を使う。

 階段には看護生や看護師達がたくさん上り下りしていてこちらも結構混雑していた。

 その人達をかわしながら、5階まで一気に駆け上がりエレベーターを見る。

 と、丁度エレベータのドアが開いた。結果はどちらでも同じだったようだ。息があがって疲れただけだったみたいだ。

 焦るらなくてももうすぐそこにゆきちゃんがいる。そう自分に言い聞かせ病室に向かう。

 ここまで来たらもう目の前だ。はやる気持ちを抑え、息を整える為あえてゆっくり歩く。


 病室の前で深呼吸を一つして病室のドアを……

 開けようとしたが手と体、そしてなにより心が震えて開けることができない。

 ゆきちゃんの意識は戻ったんだろうか?もし戻ってなかったら。

 そう考えると怖くてドアの前で固まってしまったまま動けない。

 ドアに手をかける勇気がでない。

 もう一つ大きく深呼吸するが震えが止まらない。

 学校にいる間は早くゆきちゃんに会いたくて、それだけを考えて時間が過ぎるのを待っていたのに、いざ病室の前に来ると会う勇気がでない。

 意識が戻っていると信じていたのに、思考が悪い方によってしまっている。

 そのとき病室から話し声が聞こえた。女性の声だ。ゆきちゃん!


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