第32話 【文化祭】一言
「それが二人の会話だったのよ」
「あの日の夕方家に帰ってきた優希が突然私に話しかけてきたの、主人が亡くなってからの3年間、そんなことは一度もなかったからびっくりしたわ」
「それだけでもすごい驚きだけどその優希が突然今までのことを『ごめん』と一言だけだったけどそう言って謝ってくれたの」
「今までずっとお互いギクシャクしていたから優希にしてみれば精一杯の一言だったと思う、でもその一言に全てが詰め込まれているのはよく分かったわ」
「私は優希が元の優しい優希に戻ってくれたと確信したわ。その日はあまりの嬉しさに眠れなかったのを今でも覚えているもの」
「言われてみれば、確かにあの日ゆきちゃんとそんな話をしました。すっかり忘れていたけどゆきちゃんは泣きながらお母さんを傷つけたことを後悔してましたよ」
「そうね、だから優希が元に戻ったのも桜ちゃんのお陰よ、それによって私も救われたわ。本当にありがとう」
「いえ、そんな、私何もしてません」
「私たち親子は桜ちゃんに助けられたのよ。その大恩ある大好きな桜ちゃんを、いつまでも悲しませるようなことを優希がするはずないわ」
「でも…… 先生がもしかしたら一年経っても意識が戻らないかもしれないって言ってました」
「優希はもう昔の優しい優希なのよ。だから桜ちゃんを安心させるために直ぐに目を覚ますわよ」
「とにかく明日は文化祭でしょ?ちゃんと学校に行くのよ。だから今日はもうお家に帰りなさい」
「でも、ゆきちゃんが心配で……」
「大丈夫よ、私がちゃんと看ているから桜ちゃんは安心して帰って。もし泊まり込んだりして桜ちゃんが体調を崩すと、目覚めた優希が桜ちゃんに申し訳ないと言って気にするから。だから今日はちゃんと帰って」
お母さんにそこまで言われると帰らざるをえない。
「分かりました、今日はもう帰って明日の文化祭もちゃんと行きます。でも明日文化祭が終わったら直ぐにここにきてもいいですか」
「もちろんよ、その頃には優希も意識が戻っているだろうから文化祭の話でもしてあげてね」
「はい、分かりました」
「咲原こんなところに居たのか。みんなの迷惑になるしもう帰るぞ」
先生が私を捜しに病室まで来たようだ。
「はい」
そう言って私と鮎川君は病院をあとにした。
願いは一つ。早くゆきちゃんの意識が戻りますように。