第31話 【文化祭】二人の会話
「その時の二人の会話はね・・・」
穴を掘りながらの二人の会話
「助けてくれてありがとう」
「あんた名前はなんて言うの?」
「咲原桜花」
「桜花か、私は真下優希」
「ゆきちゃんね」
「その文鳥あんたのか?」
「違うよ」
「そうなのか?泣きながら抱き抱えてたからあんたのかと思ったんだけど」
「あんな所に放置されたままだと可哀相で」
「それで泣いてたのか、優しいんだな」
「死んだおばあちゃんが言ってた、人は死んでも魂はいつまでも生きてるって。きっと文鳥だって同じだよね。だからこの子も天国から自分のこと見てるはずだよ」
「そうか」
「そうだよ、だからあんな所にいつまでも放置されたままだときっと悲しんでるはずだよ」
「そうかもしれないな」
「おばあちゃんも天国からいつでも私を見てくれてるの。だからいつも良い子だって褒めてくれてたおばあちゃんを悲しませるような、そんな人間にならないようにいつも気をつけて…」
そこまで話していると突然優希が泣き出す。
「どうしたの?ゆきちゃんどうして泣いてるの?何か悲しいことあったの?大丈夫?」
「大丈夫だよ」
「じゃあどうして泣いてるの?私何か悪いこと言っちゃった?」
その問いには答えず優希が話す。
「私にもね、私を見守っていてくれている人が天国にいるんだ。でも私は悲しみのあまり今の今までそのことを忘れていたみたい。そして私はその人を悲しませるようなダメな人間になってしまっていた」
「そんなことないよ。だってゆきちゃんは今こうしてこの文鳥のために一緒にお墓を作ってくれてるじゃない。こんなことしてくれる人がダメな人のはずないじゃない」
「ありがとう、あんたは優しいね」
「ゆきちゃんだって優しいよ。野良犬から私を助けてくれたし。何度も言うようだけどこうして文鳥のお墓を一緒に作ってくれてる。ゆきちゃんの方がずっと優しいよ」
優希は首を振る。
「自分でも本当はもう分かってるんだ。お父さんが死んだのは仕方のないことだって。お母さんが生活のために一生懸命働いてくれてたことも、悲しみのせいにしてお母さんを傷つけていたことも、今ではみんな分かってる。だけど自分でもどうしていいか分からずに全てから逃げてた。たった一言素直に謝ることさえできずに……」
泣きながら話す優希を桜花が抱きしめる。
「とっても悲しいことがあったんだね。だけどゆきちゃんの本当の優しさを、お父さんは知ってるはずだよ。今こうして泣きながら話してるのもきっと見てる。もし今までお母さんを傷つけてたとしてももう大丈夫だよ。そのことを後悔しているってことは、これからまた元の優しいゆきちゃんに戻れるってことだよ。今日家に帰ったらきっと素直に今までのことを謝れるはずだよ」
「そうだな、ちゃんと謝って、これからは今まで迷惑かけた分を取り戻さないと天国にいるお父さんに叱られるな」
「そうだよ、だからもう泣かないで、これからが大切だよ」
そう言った桜花の目にも涙が溢れてる。
「どうしてあんたが泣いてるんだよ」
「ごめん、私泣き虫で……」
「あんた、名前は桜花だったよね?桜って呼んでいいかい?」
「うん、いいよ。私もゆきちゃんって呼んでいい?」
「いいけど、桜はさっきから私のことゆきちゃんって呼んでるじゃないか」
「あっ、そうだったね。ごめん」
「よし、墓もできたし私はそろそろ帰るわ」
「うん、お墓作るの手伝ってくれてありがとう」
二人は笑顔で言葉を交わす。
「そうだ、桜は中学生か?」
「私はこの春から高校生になるんだよ」
「そうか私と同い年だな、私は中之島高校に入るんだ」
「そうなの?私も同じ中之島だよ」
「じゃあ同じ高校だな、これからもよろしくな」
「こちらこそよろしくね」
そう言って二人は別れる。