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あなたと永遠の時を  作者: 九条 樹
第一章 高校時代
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第29話 【文化祭】ゆきちゃんの過去

 しばらくすすり泣いていたがだんだんと落ち着いてきた。

 頃合を見計らったようにお母さんが話しかけてくる。

「もう泣かなくていいのよ、優希は大丈夫だから」

「でも先生が言ってた、意識がいつ戻るか分からないって」

「大丈夫よ、桜ちゃんがこんなに心配してくれているんだもの、優希だっていつまでも寝ていられないわよ」

「でも…」

「優希にとって一番の親友は桜ちゃんよ、その一番の親友を悲しませるようなことをする子じゃないわ。大丈夫きっと直ぐにでも意識が戻るわ」

 お母さんが私の心を少しでも癒そうと話してくれているのはよく分かる。

 だけど今の状況を作り出した原因は私にある、そのことをお母さんは分かっているのだろうか。言わなければと思うが言い出せない。

 でも、お母さんはそんな私の思いを分かっているかのように話を続ける。

「優希もバカね、桜ちゃんが自分を責めるような事故に遭うなんて。悪いのは信号無視をした優希自身なのに」

「違います。私がゆきちゃんとの約束を破ってあんなところに居たから、だから心配して来てくれたんです。ごめんなさい」

「桜ちゃんが謝ることないわよ、担任の先生に事情は全部聞いたけどこの事故に対して桜ちゃんが悪いことはないんだから」

 私はなんて言えばいいかわからず黙ったまま俯く。

「優希はね、子供の頃凄くお父さん子だったの」

 お母さんが突然ゆきちゃんの子供の頃の話を始める。

「優希が小学校から中学にあがるときの春休みにお父さんが癌で入院したの、既に癌で何度も入退院を繰り返していたのだけど、主人は最後の入院と覚悟をしてたみたい」

「入院して数日が過ぎたある日、優希はお父さんが心配だから病院に泊り込むと言いだしたの。皆がダメだと言ったのだけど優希も何か感じるものがあったのか、心配だからと言って聞き入れなくて、結局泊り込むことになったの」

 いつも冷静なゆきちゃんでもやっぱりそんな時は我を通したりするのね。

「その日まで病状は落ちついていたのだけど、優希の泊まったその初日の夜遅くから急変して、そのまま亡くなってしまったの」

「優希は、病状が急変したのは自分が無理に泊まったせいだと思い込み。お父さんを死なせたのは自分のせいだと言ってずっと塞ぎ込んでいたわ」

 ゆきちゃんのお父さんが病気で亡くなったとは聞いていたけど、そんなことがあったなんて……

「それで中学一年の時は殆ど学校にも行かずに部屋に篭りっきりだったの。私も主人が亡くなって生活に必死だったので、なかなか優希をみてやれずに辛い思いをさせてしまったわ」

「いつの頃からか夜中に出歩くようになり、ろくに家に帰らないような生活が続いたわ。私も注意はするけど仕事に忙しかったので何もしてやれなかった。そのことは今でも申し訳なく思っている。一番辛い時期に母としてそばに居てあげられなかったのよ」

「でもそれはお父さんが亡くなったことで生活が苦しかったから…… その為にお仕事でいそがしかったからでしょ?」

「そうなんだけど、自分のせいでお父さんが死んだと思っていた優希には、そんなことよりも心のケアが必要だったのよ。私はそれに気づいてあげられなかった」

「それは私自身、主人の死が辛くてそれから逃げる為に夢中で働いていたような部分もあったから……優希もそれをうすうす感じていたのだと思う」

「そうなんですか」

「優希への対応にどうすれば良いのか分からず、私自身カウンセリングを受けたの」

 こんなに立派なお母さんでもいろいろ悩んでいたのね。

「そのお陰で優希が中学2年の夏過ぎから私もいろいろケアしてあげられるようになったわ。そうすると少しずつだけど学校に行ってくれるようになって、3年になった頃には、まだ休む日も多かったけど高校を受験して合格してくれたわ。もともと勉強はよく出来た子だったから」

 今でもゆきちゃんはすごく勉強ができる。私が必死でテスト勉強してもゆきちゃんには敵わない。

「それでもやっぱりどこか暗くて以前のような優希ではなくなってしまっていたの。親子の会話も殆ど無かったしね。話しかけてもいつも返事も無く、私を避けているようだった」

「ゆきちゃんにそんな過去があったなんて…… 私の知ってるゆきちゃんは優しくて、思いやりがあって、頼りがいがあって、頭がよくて。あげればきりがないくらい良いところばっかりです。そんなゆきちゃんに私はいつも助けられてばかりです」

「優希が今、桜ちゃんが言ってくれたような思いやりのある人間に戻ったのは、桜ちゃんと出会ったからよ。桜ちゃんと出会った日から優希は変わったわ」

「出会いですか?」

 そこで少し考える。ゆきちゃんと出会ったのは高校に入る前の春休みだ。はっきりと覚えてる。

 でも… それで何か変わるような重大な事があったような記憶はない。

「高校に入る前の春休み、私は公園で野良犬に襲われそうになっていたのを助けてもらいました。それがゆきちゃんとの出会いでした」

 やっぱりそれ以外何か重大な事があった記憶はない。

「春休みに出会ったゆきちゃんと、高校1年で同じクラスになった時は驚きました。そしてそれ以来ずっと世話をかけてばかりで。いつかお返しがしたいと思っていたのにこんなことになってしまって・・・」

 また泣きそうになってくる。

「桜ちゃん、初めてあった時に助けてもらったのは優希の方よ、そして私もあなたに助けられたわ」

 どういうこと?

 あの時は野良犬に襲われそうなところをゆきちゃんが助けてくれたはず。私が助けたんじゃなくて、私が助けられたんだけど……

 どうしてゆきちゃんを助けたことになってるんだろう?ましてやお母さんまで助けたとはどういうことなんだろう。




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