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あなたと永遠の時を  作者: 九条 樹
第一章 高校時代
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第28話 【文化祭】お母さんと先生

二人の会話を盗み聞きする。


「検査の結果、脳や体に異常はないのですね?では優希は大丈夫なんですね」

「そうですね、CTを見る限り頭に異常は見られませんし、体の方は右腕が骨折しているのと肋骨に少しヒビが入っている程度です」

「救急隊や事故の目撃者の話からすると、奇跡のような軽症と言っていいと思います」

 よかった。副医院長先生の言った通りゆきちゃん大丈夫なんだ。

 神様ありがとうございます。本当によかった。

「ただ、彼女の意識がまだ戻りません」

「私もそれが気になっていたのです、CTの結果、脳には異常がないのですよね?だったら何故意識がもどらないのですか?」

「誠に申し上げにくいのですが、はっきり言いまして原因が分かりません」

「わからない?検査をしたのに分からないのですか?ですからICUに入っているのですか?」

「はい、検査の結果異常がないのに意識が戻らない、異常があればその部分のケアをする形で対応できますが、異常がないのに意識が戻らないというのはどう対応していいのか」

 先生が語尾を濁す。私はまた胸が締め付けられるように痛くなってきた。

「今後何かあっても直ぐに対応できるようにとりあえずここ(ICU)に入っていただきました」

 やっぱりここは重病人が入る部屋なんだ。

 私が約束を破ったからこんなことになちゃったんだ。ごめんなさいゆきちゃん。

 自分を責めることでしか今のゆきちゃんに償いができない。

「では優希は今後どうなるのですか?」

「明日もう一度詳しい検査をします」

「はい」

「意識が戻らないということ以外は、検査の結果をみても何も問題ありませんので、もしかしたら5分後に意識が戻るかもしれません」

「そうなることを願います」

「しかし、逆に今まだ意識が戻らないということは、明日になっても戻らないかもしれません。いや、半年後、一年後も戻らないかもしれません」

 ゆきちゃんの意識が一年後も戻らない?どういうこと?検査の結果異常がなかったのにどうして一年も意識が戻らないの?

あまりにも衝撃的な先生の言葉で私は我を忘れて病室に飛び込む。

「先生、どういうことですか?一年も意識が戻らないって!」

「なんだね君は?患者の友達か?今は親御さんと話しているから出て行って下さい」

「桜ちゃん、今先生と大事なお話しをしているの。少し待っていてくれる?」

「先生、ゆきちゃんの意識が戻らないってどういうことですか?答えてください」

 私の叫び声で駆けつけた看護師さん数人が私を病室から連れ出そうとする。

「嫌、止めて、まだ先生に答えを聞いてないの、離して!」

 私は更に大声で叫びながら看護師さんの手を振り払う。

「大人しくしてください、とにかく病室から出ましょう」

「嫌、嫌」

 私は力いっぱい抵抗する。とその時

「桜ちゃん!」

 ゆきちゃんのお母さんの優しくも力強い口調。

 その重みのある声が私の耳に響いた。その声の静かな迫力に思わず口をつぐみ、動きが止まる。

 そして黙ってゆきちゃんのお母さんを見る。

 お母さんは優しい笑みを私に向けながら言う。

「桜ちゃん、優希のこと心配してくれているんだよね。いいわ、こっちに来てここに座って、一緒に先生の話を聞きましょう。でも少し静かにしてね」

 私は黙ってうなずきソファーに座っているお母さんの隣に座った

 先生は私達の正面に丸椅子を置いて座りなおし、目配せをして看護師を退室させた。

 そしてお母さんが私に説明するような形で先生に確認をする。

「では、今の所の検査では異常が見られないため、明日もう一度精密検査をするということですね」

「そうです、それで意識の戻らない原因を探ります。ただ事故で受けた脳への衝撃などにより、見た目では異常がなくても異変が起きている場合があります」

 一瞬声をあげそうになったが、私は涙と声を押し殺し、俯いたまま黙って話を聞いた。

「今の医学では、脳に対してまだ分からないことが数多くあり、全ての原因究明がなされるとは限りません。しかし私どもで最善は尽くします」

 医師の言葉は一つ一つがあまりにも残酷で、とうとう耐え切れなくなり、また嗚咽をあげる。

「説明はよく分かりました。私としては先生に全てを委ねるしかありません。よろしくお願いします」

 先生は力強く頷き病室を出て行った。


 私がまた泣きだしてしまったからだろうか、お母さんは先生との話を打ち切ってしまった。

 かろうじて声だけは出さないよう我慢しているが、涙は止まらない。

 そんな私をお母さんが優しく抱きしめてくれる。

「桜ちゃん、ありがとうね。病院まで付き添ってくれて、そしてこんなに優希のこと心配してくれて」

 違う、私は何もしてない。ここまで連れて来てくれたのは鮎川くん……

 そう思っても何も言葉に出来ず、大きく頭を振るだでただ泣き続ける。

 お母さんは、さらに強く私を抱き寄せ優しい手で包み込む。

 その母性に張り詰めた気持ちが崩れてしまい、大声を出して泣きだしてしまう。

 お母さんはそんな私をいつまでも優しく抱いてくれた……

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