表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
あなたと永遠の時を  作者: 九条 樹
第一章 高校時代
26/68

第26話 【文化祭】ICU

 時計を確認すると12時20分。

 バタバタしていて時間の感覚があまりなかったが、病院に着いたのが確か11時頃だからもう1時間半近く経ったことになる。

 処置室ではいったい何がなされているのだろう。

 ゆきちゃんの意識はまだ戻らないのだろうか。

 時間が経てば経つほど不安が大きくなるばかりだ。鮎川くんも先生も俯いたままじっとしている。

 裏口にある救急処置室の前といえども正面玄関とは一直線で、直ぐ近くには外来患者が会計をする場所があるため辺りはざわついている。

 しかしこのほんの2メートル程の長椅子の上だけはまるで別世界の様に静まり返っている。誰も言葉を発しようとはしない。もちろん私も声を出せないでいる。


 目を瞑りこれまでの出来事を思い返す。

 私が朝ゆきちゃんとの約束を破って一人で出かけた。しかも学校にも行かなかったのでゆきちゃんが心配して私を捜しにあんなところに居たんだ。

 私が約束を破ってしまった原因となる人物が隣に座っている鮎川くん。

 私は鮎川くんが好きだった。そして葵くんの話だと鮎川くんも私を好きらしい。

 それは凄く嬉しいことだけど、ゆきちゃんも鮎川くんが好きだってことを聞かされた。

 それを聞かされたことによって、私はゆきちゃんから真実を聞くのが怖くて逃げ出したんだ。

 だからこんなことになっているんだ。

 ゆきちゃんは私が鮎川くんを好きなのを知っている。それでいて全てを話したいと言っていたのに。

 話をちゃんと聞くべきだった。どう考えても私が悪い。

 私がちゃんとゆきちゃんを家で待っていれば、こんな事故になんて遭わなくてよかったのに……

 私のせいで車に轢かれたのに私は何もできなくて、鮎川くんが率先して動いてくれた。だからこうして 今病院にゆきちゃんを搬送し私達がここにいる。

 ゆきちゃんごめん。意識が戻ったらちゃんと話を聞くよ。

 ゆきちゃんが鮎川くんを好きなら私は、私は鮎川くんを諦める。

 ゆきちゃんが事故に遭ったのは私が悪いんだから。

 私、もう何もいらないよ。何も望まない。だからゆきちゃん早く意識を取り戻して。

 それだけでいい。それ以外何もいらない。

 早く元気になって。お願い。

 ゆきちゃんさえよくなってくれたら私が死んでもいい。

 だからお願い。意識を取り戻して。

「大丈夫か」

 鮎川くんの声でふと気が付く、私また泣いていたんだ。

 何か言いたいけど何を言えばいいのか分からない……

 そんな時、重い扉が開く音がする。

 振り返るとベッドに乗ったゆきちゃんがいた。

 まだ意識は戻っていないようだ。

 看護師さんの話では、このまま入院するので今からゆきちゃんを別館の病棟に移すらしい。

 別の看護師さんが親族の所在を担任の先生に確かめている。

 だけど唯一の親族であるお母さんはまだ病院に来ていない。おそらく大急ぎで向かっているんだろうけど。

 お母さんが病院に着くまでは、とりあえず担任の岡田先生が医師の話を聞くことになった。

 副医院長先生は一緒に聞いていい、と言ってくれていたけど、岡田先生は「後で説明するから一人で医師と話してくる」と言うので私達はゆきちゃんと病棟に行くことにした。


 私と鮎川くんは先生と別れ、別館の5階までゆきちゃんと一緒にエレベーターで上がる。

 エレベーターを降りると廊下が左右に伸び、右側には別館東棟、左側には別館西棟とか書かれたプレートが天井からぶら下がっている。

 そしてエレベーターの目の前がナースステーションになっている。

 ゆきちゃんを載せたベッドはナースステーションの直ぐ右隣の病室、別館東棟のE501の個室だ。

 部屋に掛かっている表札にはE501と書かれ、その下段にはICUと書かれている。


 ICUというのは確か集中治療室のこと。そこは重篤の患者が入る部屋のはず。

 ゆきちゃんは意識も戻ってないんだし、当然なのかもしれない……

 しかしICUなので外で待たされると思いきや、今度は救急処置室と違い一緒に病室に入るのを許された。

 ゆきちゃんは乗ってきたベッドから病室のベッドに移され点滴や酸素マスクをつけたまま寝かされる。

 看護師さんはゆきちゃんが絶対安静の状態なので気をつけるように言い残し病室を出て行った。


 私と鮎川くんは、変わり果てたゆきちゃんをしばらく黙って見つめていたが、いつまで経っても全く無反応のゆきちゃんをベッドに残し、どちらからともなく病室の隅にあるソファーに腰を掛ける。




評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
このランキングタグは表示できません。
ランキングタグに使用できない文字列が含まれるため、非表示にしています。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ