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あなたと永遠の時を  作者: 九条 樹
第一章 高校時代
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第25話 【文化祭】岡田先生

 少し安心した私は、長椅子に座り込んで検査が終わるのを待っていた。

 正面玄関の方を見ると、丁度担任の岡田先生が血相をかえ病院に駆け込んでくるのが見えた。

 私と鮎川くんは、病院の裏口から入った直ぐのところにある、救急処置室の前の長椅子に座っていたが、正面玄関までは一直線になっていて、障害物もないので先生が入ってきたのがよく見える。

 遠目からでも先生の慌てぶりがよく分かる。大声で看護師にゆきちゃんのことを聞いている。

 ここからでは少し遠すぎて、私達から直接声をかけることは出来ないけど、あの様子だとすぐにこちらに向かって来そうだ。

 私も同じくゆきちゃんを心配しているけど、先生の慌てぶりは異常なほどで、それが滑稽に見えて思わず笑ってしまいそうになる。

 先生が総合案内のところで、受付の看護師に何やら説明しているようだけど、気が動転してるからか上手く説明出来ていないようでなかなかこっちに来ない。

 きっと的を得ない説明で看護師さんが困惑しているんだろうな。そう思ったので、迎えに行くべく立ち上がろうとしたその時、先生がこちらを見た。

 どうやらやっと看護師に救急処置室の場所を聞くことが出来たみたい、こちらに向かって小走りでやってきた。

 近くまで来て私達に気がついたようで、さらに驚いたようだ。

 私達の前まで小走りでやってくると、その勢いのまま息を切らせながら、ゆきちゃんの状態やなぜ私達がここにいるのか、なぜ事故にあったのかなど矢継ぎ早に質問をしてくる。

 私達はこれまでの経過を丁寧に順序立てて説明する。

 説明が丁度終わった頃にゆきちゃんが検査から帰ってきた。

「真下、大丈夫か」

 先生がいきなりゆきちゃんに話しかける。しかしゆきちゃんの意識はまだ戻ってないようだ。

「看護婦さん、真下は大丈夫なのですか。どうなのでしょうか。私の教え子なのです」

 先ほどの看護師さんもいるが、副医院長に注意されたばかりなので黙っている。

 私は鮎川くんを少し上目遣いで見る。鮎川くんも私を見ながら苦笑いしている。

「先生、静かにしなきゃ。ここは病院だよ、他にも重病人がたくさんいるのだから気をつけて」

 鮎川くんが先ほど私が看護師に言われたことを、看護師の方を見ながら少し嫌味っぽく言う。

「ああ、そうだったな、すまん。先生としたことがちょっと興奮しすぎだな」

「そうだよ。それにここの看護師さんはすごく怖いんだから、怒られるよ」

 そう言いながら私の方を見て微笑む。

「そなのか」

 そう言って先生は二人の看護師を交互に見まわす。看護師は黙ったままそっぽを向いて処置室に入っていった。


 副医院長の言葉を聞いた私達二人は、本当に救われたような気持ちになっている。

 あの言葉がなければ未だに泣きつづけているだろう。

 先生や看護師の態度や言葉は私達にとって大きな力を持つものなんだと改めて思い知る。

 

 しかし先生の言葉だけで全てが安心できるというわけではない。

 言葉には出さないが、きっと鮎川くんも心配していると思う。ゆきちゃんの意識がまだ戻らないことを。

 検査も終わったようだし、先生も大丈夫と言ってくれた、だけど未だに意識がないというのは凄く怖い。

 言葉に出せない程怖い。言葉に出すと恐ろしいことになりそうで黙りこんでしまう。


 一瞬和んだよう雰囲気になったけど、結局は現実を直視できずに意識を無理やりゆきちゃんから外しただけのこと。閉ざされた扉から何の反応もない、そんな時間がほんの数分流れただけで三人とも黙り込んでしまう。

 また重苦しい雰囲気が漂う。

 扉の向こうは一体どうなっているんだろうか……


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