第22話 【文化祭】救急
ゆきちゃんを救ってくれるはずの救急車が到着した。
救急隊員の人達が出てきて、救急車を呼んだ鮎川くんに状況を聞きながら手際よく、かつ慎重にゆきちゃんをストレッチャーに乗せる。
私はただ突っ立ったままその光景を見つめる。
大事な友達が大変な事態に陥っているのに泣いているだけで何も出来ない。
私も何かしてあげたいし、ゆきちゃんの傍に居たい。だけど何をどうすればいいのか分からない。
自分がどう行動すればいいのか分からなくただ見ているだけ。
鮎川くんが色々してくれている。鮎川くんがこの場に居なければと思うと怖くなる。
様子を見ているとどうやら鮎川くんは救急車に乗っていくようだ。私はどうすればいいんだろう。ゆきちゃんはどこにいくんだろう。このまま会えなくなってしまうんだろうか。それは絶対に嫌。
そんなことを考えていたら…… 「咲原も一緒に乗って」鮎川くんが声をかけてくれた。
「私もいいの」
「当たり前だろ、早く」
隊員の人に私のことも話してくれたんだろうか。
今はそんなことはどうでもいい、それより早く行かなきゃ。私は急いで救急車に乗り込む。
車の中ではゆきちゃんが横になり隊員の一人が頭の止血をしたり、マスクのようなものをかぶせたりと忙しなく手当てをしている。
鮎川くんは相変わらず救急車が来るまでのゆきちゃんの状態や、事故の状況を的確に隊員に話している。
その話をもとに別の隊員が受け入れ先の病院に連絡を入れている。
私だけが何もできずにゆきちゃんを見つめ、ただ無事を祈るだけ。それしか出来ない。
心のかなで謝りながら。無事であるように祈り続ける。
車内から連絡しておいた病院に到着した救急車は、待ち構えていた看護師に誘導され緊急車両専用出入り口に移動する。
ストレッチャーに乗せられているゆきちゃんが車から降ろされ救急隊員から看護師に受け渡され、そのまま救急処置室に入っていく。
私達はその処置室に入ることは許されないようでそこで閉め出された。
扉は金属製のできていてとても大きく、閉まる時は「ガチャン」と辺りに響き渡る様な大きな音を立てる。それはまるで二つの世界を完全に隔離し、こちらの祈りさえも遮ってしまうような重々しさを持っているように感じてしまう。
そう、その扉が閉まってしまえば一切中をうかがい知ることなどできない。
私はゆきちゃんが心配で直ぐにでも中に入りたい気持ちを抑え扉の前でたたずむ。
看護師さんに様子を聞きたいがもう誰も居ない。
仕方なく私と鮎川くんは、その忌々しい扉の前にある長椅子に座る。
隊員の仕事はゆきちゃんを病院に届けたことで終わりのようで、私達に一声かけて帰ってしまった。
隊員の話しでは家に連絡したが誰もいなく学校の方に連絡をしたらしい。
ゆきちゃんはお母さんと二人暮らしで、この時間お母さんはお仕事に行っているはずだけど、私もお母さんの職場までは知らない。きっと学校から連絡してくれるだろう。
ゆきちゃんが処置室に入って20分ほど経っただろうか、扉が開く。二人の看護師がベットにのせられたゆきちゃんをひいてどこかに移動するようだ。
私は思わず大きく息を飲み短い悲鳴のような声をあげてしまう。
「ゆきちゃんが……ゆきちゃんが」
ゆきちゃんの変わり果てた姿を見て、心臓が止まりそうになり、力なくつぶやくように名前を呼ぶ。