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あなたと永遠の時を  作者: 九条 樹
第一章 高校時代
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第21話 【文化祭】返事をして!

 目の前には信じられない光景が広がっていた。

 ゆきちゃんが車にはねられ、一回転して大きく飛ばされてしまった。

 私はゆきちゃんの名を叫びながら駆け寄る。

 走りながら目の前で起こっていることなのに、嘘だ!これは幻だと言い聞かせ、そうあってほしいと祈る。

 ゆきちゃんを見るとどこから出ているのかはっきりとは分からないけど、頭の辺りだろうか血がたくさん出ている。

 名前を呼んでも反応がない。

 こうして近くで見れば見るほど紛れもない現実が目の前にある。

 さっきまで元気だったゆきちゃんが今は動かなくなっている。

 どうして?さっきビックリするような大声で私の名を呼んでくれたでしょ。

「ゆきちゃん、私だよ。なんとか言って。さっきみたいに私の名前を呼んで」

 全く反応がない。

 ほんの一分前だよ。その時は私を呼んでくれたじゃない。

「ゆきちゃん、しっかりして」

 私の悲痛な叫びもむなしく、体中の力が抜けきったようにぐったりとしたゆきちゃんから返事は返ってこない。

 いや、それよりもこのまま意識が戻らないのではないかと思わせるような酷い有様だ。

 私はゆきちゃんの反応がないので揺すって意識を戻そうと思い手を伸ばした。

「ダメだ」

 誰かの制止させようとする声と同時に私の体が後ろから掴まれる。

 振り向くとそこには鮎川くんがいる。

「今真下を動かすのは危険だ、頭から血が出ているから飛ばされたときに頭を打ったかもしれない、救急車が来るまで動かさない方がいい」

「そうだ!救急車を呼ばなくっちゃ」

「大丈夫もう呼んである、直ぐに来ると思う」

 私はパニック状態に陥り今何をすればいいかも分からない。意識が戻らないゆきちゃんの名前を叫びながら泣くだけだ。

 その時、ゆきちゃんの唇がかすかに動いた気がした。

「今何か言ったよ、言ったよね」

 私はすがるような面持ちで鮎川くんに同意を求める。

「わからない」

 そんなことない。確かに唇が動いた。そう、私の名前。桜と言ってくれた。

 そう思うと呼びかける声がより一層大きくなる。

 さっきよりもっと近く。ゆきちゃんの耳元で名前を呼ぶ。

 だけどそれっきり反応がない。

 全く動かないゆきちゃんに最悪の事態を想像してしまう。

 ゆきちゃんを抱きかかえたいのだけど鮎川くんが邪魔をする。

 救急車もまだ来ない。

 焦りと苛立ちがピークに達しようとした時、遠くからサイレンが聞こえてきた。

 あのサイレンが到着さえすれば…… その車の中から天使が降り立ちゆきちゃんを助けてくれる。

 その映像が頭中に浮かび上がる。

 サイレンの音ひとつで幾分冷静さがもどってきた。

 今まで幾度となく聞いたことのある救急車のサイレン。

 いつもは他人事であまり気にも留めることなどなかった。救急車に乗っている人を見ても無責任に、どうしたんだろう?大丈夫かな?と思う程度。

 近くでサイレンを聞くと『うわ、すごい音量、耳が痛い』など不謹慎な事を思ったりした。でも今はそのサイレンが私達を救ってくれる唯一の天の声のように感じる。

 『早く来て、早く。お願い。』

 私は祈るような気持ちで救急車が到着するのを待つ。





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