第2話 高校時代の思い出
今日は主人が朝早くから接待ゴルフに出かけている。
ゴルフの予定は数日前から決まっていたので私も友達とランチの約束をしていたのだった。
だけど今朝になってその友達が急用が出来たと言ってキャンセルしてきたのだ。
その友達とは高校時代からの同級生で18年の付き合いになる私の一番の親友だ。
仕方が無いので以前からしたいと思いながらずっと放置していた洋服タンスの移動を試みる。
9月になったとはいえまだまだ暑い日が続くなか一人でタンスの移動はかなり大変である。
汗だくになりながらなんとか動かすが中に物が入ったままではあまり動かない。
面倒だけどやはり横着せず中の物を一旦出すしかないようだ。
タンスの一番下の引き出しを開けるとそこには高校時代のアルバムがあった。
結婚した当初はよく二人で見返したものだがここ数年は全く見る事がなくなっていた。
時計を見るとまだ午前11時、主人は夕食も済ませてくると言っていたので時間は十分ある。
慌てる必要も無いと思いタンスの移動中だがアルバムを開く。
アルバムを見て昔を思い出す・・・・
高校3年の夏・・・
放課後の校門横の駐輪場での出来事。
「桜花ちゃん、俺と付き合ってください」
「葵くん?突然どうしたの?」
「俺、桜花ちゃんの事が好きなんだ」
「あ、ありがとう・・・でも」
その後の言葉が続かない
「桜花ちゃん、俺のことどう思う?好き?」
「私は・・・」
「俺のこと嫌い?」
「そんなわけないよ。嫌いだなんて、そんなこと・・・ない」
途切れ途切れにしか言葉が出ない。
「じゃあ好き?」
「私は・・・私は葵くんのことずっと大切な友達と思ってた、これからもそう・・・」
「そっか、やっぱり桜花ちゃんは大輔の事が好きなんだね」
「ええ?」
「いいよ、分かってたし。でも俺も桜花ちゃんの事好きだったからこの気持ちだけは伝えたくて」
「葵くん、ごめんね」
「謝らないで、惨めになるから」
「ごめん」
「また謝ってる」
「うん、ご・・・」
また謝りかけて止める。
でも申し訳なくて謝るしかできなかった。
「いいよ、俺ふられても桜花ちゃんの事好きだから、絶対に諦めない!」
一途な葵くんの想いが余計に辛い。
何を言えば良いのかわからない。葵くんも黙ったままだ。
葵くんとの間に重苦しい空気が漂う。
私はまるで時が止まってしまったように固まってしまったまま次ぎの言葉が出ない。
この重い空気に耐えられず息が詰まってしまいそうだ。
「おーい!桜~」
背後からゆきちゃんの声が聞こえる。振り向くとそこに親友のゆきちゃんが駆け寄ってくる。
「あっ!ゆきちゃん」
ゆきちゃんが来てくれたお陰で一気に時間が流れ出し内心ホッとする。
「なんだ、優希か!邪魔すんなよ!」
「なんだとは何だよ!」
「それで何が邪魔だって?」
「なんでもない!じゃあ俺は行くから、桜花ちゃんまたね」
「うん」
「早くあっち行け!」
「うるせー!」
「ふん!」
ゆきちゃんと葵くんはいつも口喧嘩をしている。
だけど本気で怒ってるわけじゃなくこんなやり取りは2人にとってみれば挨拶みたいなものだと思う。
今は葵くんが気まずくて退散した感じだけど。
などと考えているとゆきちゃんが突然とんでもない事を言って来た。
「桜どうしたの?あいつに告白でもされた?」
「ええ?どうしてそれを?」
いきなりやってきてどうしてそんな事が分かったんだろう?
「やっぱり。あいつが桜の事が好きなのはずっと前から分かってたからね」
「そうなんだ、私全然知らなかった」
「桜は鈍感だからな~」
私はゆきちゃんによく鈍感だと言われる。
「ええ?そんなこと無いよ」
「いぃや桜は鈍感だ~」
「そんなことないと思う」
「じゃあもう1つ良い事おしえてあげようか?」
何を教えてくれるんだろう。内心ドキドキしながら聞き返す
「何を教えてくれるの?」
「桜が好きな人をあててあげよう」
「ええ?」
私の好きな人ってまさか・・・
「鮎川大輔の事が好きでしょ?」
「どうしてそれを?さっき葵くんにも言われた」
鮎川くんの事を好きなのは当たってはいるけど誰にも話した事は無い。
1番の親友のゆきちゃんにだって恥ずかしくて言い出せなかったのにどうして2人とも知っているんだろう?
「鈍感な桜は自分がどれほど大輔のこと気にして見てるか気づいてないんだよね~?」
ついさっき葵くんに言われ今またゆきちゃんにも言い当てられさすがに言い返す言葉が無い。
やっぱり鈍感なんだろうか。そんなことを考えているとなぜか泣きそうになってきた。
悲しいわけでもないし言い当てられて怒ってるわけでもない。でも何故か泣きそうになる。
そんな私の反応に驚いたのだろう、ゆきちゃんが慌てて謝ってきた。
「あはは、そんな顔しないで、ごめん、ごめん。もう言わないから」
「もうゆきちゃんなんて知らない」
怒ってるわけじゃないけどなんとなくそんな言葉がでてきた。
「ごめん。桜、怒んないで」
ゆきちゃんが焦っているのが分かってなんだか可笑しくなってくる。
「ふふ、怒ってないよ」
「でも私ってやっぱり鈍感なんだね」
「まぁその話しはもういいじゃない」
そう言ったゆきちゃんだけど、まだ何か言いたそうにも見えた。
「うん。そうね。その話はもうおしまい」
何か言いたそうなのが少し気になるけど今日は疲れたのでこのままこの話を終わらせる事にした。
「じゃ、ゆきちゃん帰りましょうか」
そう言って私とゆきちゃんはお互い自転車に乗り校門を出て家路についた。