第18話 【文化祭】告白の決意
一時間目の授業を受けながら色々と考える。
桜は今、精神的にかなり苦しい状態なはずだ。それを和らげる一番の方法は……
私にはこれしか思い浮かばない。
それは桜と大輔が付き合うってことだ。ただ付き合うことになるだけじゃなく、私が協力するという形にした方がいいと思う。桜は私が大輔のことを好きだと思っているはずだから。
大輔自身桜のことが好きなんだし、告白しようか迷っていたくらいだから私がけしかければ告白する気になるだろう。
それにここ数日色々あって忘れていたけど、明日の文化祭初日、ようするに10月20日は桜の誕生日だ。それを理由にすれば告白もしやすいんじゃないかな?
一時間目の授業の終わりを告げるチャイムが鳴り始めると先生は教本を閉じてさっさと教室を出る、それを見届けてから大急ぎで大輔の席に向かう。
「大輔、話があるんだけどいいかな?」
「どうしたんだ?えらく慌ててるな」
「話というかお願いなんだけど、桜に告白してくれない?」
「な、ど、どうしたんだいきなり」
相当驚いているようだけど話を止めることなく続ける。
「朝の彰弘との話聞いてたでしょ?彰弘は桜に、私が大輔を好きだって思い込ませてしまったみたいだから、それが的外れな勘だという事を分からせる為に告白してほしいの。なるべく早く」
「ちょっと待て、俺が告白すると真下が俺を好きじゃないってことになるのか?」
当然の疑問だ。
「そうじゃない。大切なのはここからよ」
「何だ?」
「桜に告白する時、この告白に至るまで私に色々と協力してもらったと言ってほしいの」
大輔は黙ってうなずく。
「それと同時に私に好きな人はいないってことも付け加えておいてほしいの」
「なるほど、真下の言いたいことはよくわかった」
私はありがとうと言う代わりに笑顔をつくる。
「明日は咲原の誕生日だし丁度いい、明日告白しよう」
「知ってたんだ…… 突然だけど心の準備は大丈夫?」
「俺自身も告白しようかとずいぶん悩んでいたからな、でも……」
大輔はおもむろに腕を組み動かなくなった。何か考えているようだ。“でも”の続きが気になる。
しばらく沈黙が続いたが大輔が私の目をじっと見つめながら話し始める。
「自惚れるつもりはないけど、これだけ色々あるとやっぱり気になるのは確かだ。真下は本当に誰も好きな人がいないのか?」
まさか大輔がそんなことを言うとは思っていなかったので飛び上がってしまいそうになるがなんとか堪える。しかし心臓の鼓動が速くなってしまっているのはどうしようもない。
だけどここで大輔に怪しまれるとまた話がこじれてしまうので細心の注意を払い受け答えをする。
「朝から何度も言ってるでしょ?大輔もしつこいね。それともあんな彰弘の嘘を信じたの?」
声のトーンが変わると怪しまれると思い意識的にいつもと変わらない話し方をする。
大輔がまた何か考えているようだ……
少し間をおいて。
「どうやら本当みたいだな、分かった明日告白するよ、そして真下の事もちゃんと言っておく」
どうやら大輔を騙せたようだ。これでいいんだ…… これですべてうまくいく。
彰弘には残念な結果になるだろうけど仕方ない。私にとっても……
とにかく今回これだけ話がこじれたのもあいつが馬鹿なせいなのだから。
「じゃ頼んだよ、明日の文化祭で午前中四人一緒に店に出るからその後二人になれるようにセッティングする。だから何があってもその時必ず告白してよ」
「真下がセッティングしてくれるのか?」
私は軽く頷き時計を見る、もう休憩時間があまりない。席を立ちながら最後の話をする。
「明日の事はそれでいいよね、それじゃ私は桜が心配だから早退して捜してみる。朝はちゃんと家を出てるのに学校に来ていないのが心配なの。それに明日学校に来てくれないと困るしね」
そう言って教室のドアに向かうと。
「ちょっと待って、それなら俺も一緒に捜すよ」
気が急いているのでそんなやり取りをしながらも教室を出て早歩きで職員室に向かう。
「いいの?早退することになるよ」
「俺にとっても咲原は大切な人だからな、一緒に捜させてくれ」
大切な人…… 聞きたくない言葉を浴びせられて思わず足を止めそうになる。
もう恋人気取りなのね…… お互い好き同士だって分かってるから自然とそうなるのかな。
私は自分に言い聞かせる。もう私には関係ない。私は好きな人はいない!だから何も気にならない。
そう、これから先もずっと誰も好きになんてならない。絶対に……
「おい!」
突然大声で呼ばれてびっくりする。
「俺の話を聞いてるか?」
「あぁ、ごめん。なんだって?」
「だから、咲原を捜すと言って当てはあるのか?それに職員室も通り越してるぞ」
そう言われて立ち止まる。みると確かに職員室を通り越していた。そして……
そうなのよ、捜すと言ってもどこを捜せばいいのいかわからない。
だけど教室でじっと授業を受けてなんていられない。とにかく捜しに行きたい。