第15話 【文化祭】何が本当?
話をちゃんと聞いていなかったのでもう一度聞きなおす。
「だから大輔が好きなのは桜花ちゃんだって言ったの。俺だってこんなこと言うのは辛いんだから何度も言わせないで」
「ごめん」
やはり聞き違いではなかった、鮎川くんが私のこと好きだと言った。
頬の辺りが熱を持ち急激に暑くなる。きっと顔が真っ赤になっているに違いない。恥ずかしい。
私は少しでも恥ずかしさを隠そうととするが、どう反応していいか分からず所在無くあたふたとしてしまう。
私の挙動不審な態度を見てだろう、葵くんがこらえきれないように笑い出す。
「俺ももう吹っ切れたし正直に話すよ、大輔はずっと前から桜花ちゃんのことが好きだったんだよ。そのことは優希もうすうす感付いていたはずだ」
「桜花ちゃんが大輔を好きだってことも分かってた。だから俺は焦ってあんな嘘をついてしまったんだ」
葵くんがまた鮎川くんの話をする、話の内容はあまり頭に入ってこない。鮎川くんの名前が出るたびに血液の温度が確実に上がっていくようなそんな感覚でだんだん頭がボーっとしてくる。
「でも優希の気持ちは俺の言った通りだと思う、あの日桜花ちゃんに会いに来たのに会わずに帰ったのがどうも引っ掛かる」
また葵くんが何か話している、だけどもう話を聞いていられない。胸が痛くて口からたくさんの酸素が入り込んでくるかと思えば酸欠になっていたり……とにかく息が苦しい。こんな状態じゃ恥ずかしさがどうとか言ってられない。少し落ち着くためにも早く部屋に戻りたい。
私が何度も大きな息を吸ったり吐いたりしているのを見て、何も聞いていないと気がついたのか葵くんが私の両肩を掴み力任せに揺する。
「桜花ちゃん聞いてる?優希の気持ち分かってるの?」
ゆきちゃんの名前を聞いて頭に上った血が下がるのがわかる。そこでやっと私は自分の体の変調から解放される。
そうだゆきちゃんだ、ゆきちゃんのことを忘れていた。
「な、なに?ゆきちゃんがどうしたの?」
「大輔の話で浮かれるのも分かるけどちゃんと聞いて」
そんな言い方をされるとまた恥ずかしくなる……
「う、うん。ごめん」
「優希はきっと大輔のことが好きだとおもう。これは嘘じゃない。ただ俺が見た感じの話だから、本当ってわけでもない。」
その言葉に私は高い所から突き落とされたような気分になる。
先ほどまでの浮かれた気分が一気にかき消される。
ゆきちゃんの優しい顔が脳裏にうかび浮かれていた自分が恥ずかしくなる。そして浮かれていたことがゆきちゃんを傷つけてしまったような気になり更に落ち込む。
ゆきちゃんが鮎川くんのことを好き?
でもゆきちゃんは葵くんの話は全部嘘だと言ってたよね。そう考えることで浮かれてしまっていた自分になんとかいい訳をしようとする。
葵くんの話ではゆきちゃんと鮎川くんはお互い好き同士だって言ってた、でもそれが嘘ってことはゆきちゃんが鮎川くんを好きって話も嘘ってことよね?そうよね?すがる様な気持ちで葵くんに聞き返す。
「それは本当なの?本当にゆきちゃんは鮎川くんのこと好きなの?」
「本当かどうかは分からない、優希が言ったわけじゃないから、でも優希の行動を総合して考えると間違いないと思う」
私は鈍感だから気がつかなかったけど葵くんがそう思うならそうなのかもしれない。
「優希が明日全てを話すと言っているのならそのことも話してくれると思うよ」
「うん……」
葵くんの言うとおり明日ゆきちゃんに会えば全てが分かるんだ。とりあえず今日はもう部屋でゆっくりしたい。
「葵くん、今日は正直に話してくれてありがとう、私はちょっと疲れたので部屋に戻るね」
「色々とごめん。明日また会おうね」
私は部屋を出たときとは全く逆の重い足取りで階段を登る。部屋に入った私は全身から力が抜けるのを感じながらベットに倒れこむ。
ゆきちゃん……本当は鮎川くんのこと好きなの?ゆきちゃんは葵くんが嘘をついてるって言ったけど本当はどうなの?ゆきちゃんは私が鮎川くんの事を好きなのを知ってるから自分の気持ちを言えないだけじゃないの?どうなの?
ダメ……どれが本当でどれが嘘か分からなくなってきた。
もう何も考えたくない。もうこのままでいい、何も要らない、何も望まない。だからこのまま時間だけ止まって欲しい。
時計を見ると12時になろうとしていた。いつもならそろそろ寝る時間だ。
でも寝るのが怖い。寝たら明日になってしまうから。
明日になったらゆきちゃんが来てしまうから……