第1話 プロローグ
俺は地下鉄の駅を降り、地下道を歩いて百貨店へ向かう。
百貨店に特に用があるわけではないが15年ぶりに生まれた町に戻ってきたついでに忘れられないあの場所を見たいと思ったから少し遠回りをしたのだ。
15年ぶりにこの町に戻ってきたのは同窓会の葉書をもらったからである。どうやって俺の住所を調べたのか分からないが俺のところにも招待状が着たので少し迷ったが出席することにした。
あれから15年も経っていることだし・・・
百貨店の地下から1階に上がりそして正面玄関から外に出る。
時間は昼の12時を少し過ぎたところで天気もよく空の青が眩しい。
そういえば腹が減ったな。何か食べたいがこの時間この辺りはどこも人がいっぱいで並ばなければ食事にありつけそうにない。
そんなことを考えながら百貨店前の交差点に目をやる。
ここだったよな、あの事故があったのは。
事故があった時にここにいたわけではないが後でこの場所で事故があったと聞いたのだ。
「あれから15年か」
思わず独り言が出てしまった。
あの後色々あっていたたまれなくなった俺は高校の卒業を待たずに引越ししてしまうことになったのだ。
そんなことを考えながら特に何かを見るでもなく交差点の向こう側をぼーっと見つめながら百貨店の前で信号が変わるのをまっている。
交差点を渡ったところから商店街が続いてその商店街の入り口の隣はビジネスホテルだ。
ビジネスホテルの駐車場から一台の車が出てきた。
車にあまり興味の無い俺はその車がなんという名前の車か見当もつかないが一応車の免許は持っているのでその車体を見れば軽自動車だということくらいは分かる。
なんとなくその車を見ていると運転席に座っている男の顔が俺の知ってる顔のような気がする。
15年振りなのであまり自信は無いがあれは確かに・・・
しかし助手席に座っている女性を見て確信が持てた。女性も俺の知っている顔だ。
あの二人がホテルから?まさか?
などと考えながら見ていると軽自動車はホテルのガードマンに誘導されて駐車場から歩道を横切り車道に出る。
その時トラックが後ろから物凄い!と言うほどではないがそこそこのスピードで突っ込んできた。
ガードマンは歩道を歩く人たちにしか気を配っていないようでトラックの存在は気付いていそうだったがそのまま車道へ誘導してしまったように見える。
軽自動車の二人も笑顔で顔を見合わせているようでトラックの存在に気づいていないようだ。
トラックの運転手を見ると完全に余所見をしている。馬鹿な!
危ない!そう思った瞬間まるで目の前に雷でも落ちたかと思うような激しい金属音が辺り一面を支配した。その雷音の放たれたであろう位置を皆が一斉に見るのが周りを見なくても分かった。
俺は既に走りながら交差点を渡ろうとしていた。交差点を駆けながら現場の状況を見ていると、後ろからぶつかられた軽自動車は歩道にガードレール代わりのように作られた植え込みを突っ切りすぐ隣にあった地下鉄の出入り口になっている階段を落ちていった。
俺は慌てて地下鉄の入り口へ向かう。
辺りは騒然となり野次馬が次々と地下鉄の入り口を固める。
俺は交差点の反対側にいたので入り口に着いた時には既に何重にも人の壁ができてしまっていた。
しかしあの車に乗っているのは間違いなく俺の同級生だ、この野次馬達に遠慮なんてしていられない。
俺は無遠慮に人を掻き分け最前列へ向かう。
入り口から見ると車は階段の途中にある踊り場に作られたガラス扉を突き破ったところでとまっていた。
そこでハタと気付いた。救急車を呼ばなくては。
携帯を取り出し119番に掛けようとして手を止める。よく見ると多くの人達が既に救急車や警察に電話しているようだ。
電話をするのをやめて急いで階段を下り、車へ向かう。だが車の前半分がガラス扉を破っての向こう側にあるのでどうにかしたくても何も手が出せない。下手に触って車がさらに下に落ちても困る。中の二人はよく見えないがシートに座ったまま全く動いていない。
俺以外にも数人この踊り場近くまで下りて来ているが誰も手を出せないでいる。
その中の一人が誰にともなくこの事故は不幸中の幸いだと言う。
何の事を言ってるのか分からなかったがその人の次ぎの話で理解できた。
今は昼時で人通りの多い時間帯だがこの入り口は丁度工事中だったらしく誰も居なかった。
現場の人達も昼食を摂るためにこの場を離れていた為他の人を巻き込む事はなかったということだった。確かにそうかもしれない、普通ならこの階段にも何人も人が居ただろう。そうすればもっと被害者が増ええていたことだろう。
そうこうしているとパトカーのサイレンと救急車のサイレンが聞こえてきた。
救急車よりも先にパトカーが現場に着いたようで警察官二人が階段を下りてきた。
一人の警官がガラス扉越しに車の中の人間に大声で声を掛けている。
もう一人の警察官は俺達に向かって事故を目撃したのか聞いてきた。
俺はぶつかる瞬間を目撃したということとその軽自動車に乗っている二人が知人である事を告げた。
「そうですか、お知り合いですか。あなたのお名前をお聞きしてもよろしいですか?」
「私ですか、私は葵彰弘です。そこの二人とは高校時代の同級生です」