15話 解呪
「ご報告いたします。例の実験途中の魔物は二人の冒険者たちにより倒されました」
「データはとったのか?」
「はい詳細はこちらにまとめてあります」
「…ふむ…まあよいシュメル計画の邪魔をするなら排除するまでだ」
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朝日が窓から差し込み、部屋を柔らかな光で満たしていた。
しかし、その穏やかな光景とは裏腹に、イチの体は決して平穏ではなかった。
腹部の痛みとともに目を覚ました。
「いたっ!なんか腹部がズキズキする」
服をめくり見てみると、きのうバタフライマンに一撃をもらった所が、足跡みたいなマークがつき、そこが黒くなっていた。
「うわぁなんじゃあこりゃ」
「飯食ってる場合じゃねえ」
俺はすぐにギルドにいるであろうコクルナの元へと急いだ。
ギルドに入りコクルナの姿を探す。
「いた」
俺はすぐさまコクルナに事情を話した。
「あっ…これは…呪いかもしれません」
「呪い…?どうすればいい」
「イチさん…今すぐに教会に…案内しますので着いてきてください」
「おう頼む」
教会らしき建物の前に到着した。
「ここです…では入りましょう」
コクルナはそう言うとドアを開けて中に入った。
続いて俺も入る。
教会の中は、薄暗い中にもステンドグラスから差し込む柔らかな光が神聖な雰囲気を醸し出し、古い木の長椅子と祭壇が静かに佇んでいる。
「こんにちは。教会にはどのような御用でしょうか?」
とシスターらしき人から声をかけられた。
「呪いを受けたかもしれないので、ちょっと見てほしいんですが」
「そうですか。では拝見させてもらってもよろしいでしょうか」
「はい、これなんですが」と呪いと思われる部分を見せた。
「うわぁ…これは私では無理そうです。ちょっと聖女であるリディア様を呼んできましょう」
「はじめまして。リディア=メリルと申します。リディアとお呼びください。この教会で私は、人々の苦しみを和らげるために祈りを捧げ、呪いを解く役目を担っています。あなたのお名前を教えてもらってもいいですか?」
「尾飛乃いちです。よろしくお願いします」
「はいイチさんですね。では早速ですがお腹の黒い痣を見せていただけますか?」
「ああ…これは深刻な状況ですね。儀式の間へと移りましょう」
「あの…あたしも一緒にいいですか?」
「ええもちろんです、ではこちらにどうぞ」と案内される。
その部屋にはお札がいっぱい貼ってあり、
天井が天窓になっていて上部にあるステンドグラスの窓には呪文のようなものが書かれている。
床には籠に入った酒みたいなものが何本も用意されていた。
「なんだここは」
「イチさんこちらのベッドに寝てください」
言われた通りに横になる。
「では解呪のときに暴れないように手足を拘束させていただきます」
「心の準備はよろしいでしょうか?」
「はい。お願いします」
「では」
「天つ風 祓いに祓え 悪さびた」
リディアが魔法を唱えると辺りの気温が急に下がり寒くなる。
「うっ~む~~む~」
「言わせるか!」
「なん…だ?」
俺の体が勝手に動きだし、リディアに向けてサイコキネシスを使っていた。
「オマエの体とても便利じゃないか、ワタシが有効に使ってやる」
「イチさん、これから御神酒をかけます。冷たいですが我慢してくださいね」
それを聞いて俺は頷いた。
「ぐわぁぁぁぁぁっ!」
気づいたら悲鳴をあげていた。
しかしこれは俺の叫びではなく、悪霊の悲鳴だ。
「悪霊よ、あなたの名前を教えなさい!」
「やめろー!ぐおぉー!」
容赦なく悪霊に御神酒をかけ続ける。
「さぁ、名前を言うのです」
「ワタシの名前は…リューゲンだ」
「嘘ですね」
「フフフハハハハハハ」
「本当の名前を言わない限り苦しむことになりますよ」
リディアが再び御神酒をかけようとしたとき、悪霊は俺の体を通しサイコキネシスで御神酒を操り、リディアにぶつけようとした。
「あっ…あぶない!」
コクルナはそう叫ぶと御神酒を叩き落した。
「イチさん…気をしっかりもってください」
みんな俺のために頑張ってくれてるんだ。
何とかしなくては…そうだ、テレパシーで悪霊を探ってみるか。
俺は意識を集中し、悪霊に向けてテレパシーを使ってみた。
「ぐゎ…それ以上はやめろー!」
悪霊の声が頭の中に響き渡る。
悪霊は俺の両手で頭を抱え込み、必死に抵抗するが、俺はさらにテレパシーに力をこめた。
その瞬間、俺の体から黒い靄が外に出た。
悪霊の姿は女性のようで、全身を黒い靄がまとっている。
「オマエ妙な力を使ってワタシの中を探ろうとしたな。小賢しいまねをするな!出てしまった…くそ、こんなことに…!」
「姿を現しましたね」
リディアはすかさず詠唱する。
「天つ風 祓いに祓え 悪さびた 魂清め 神の裁決」
悪霊はもがき苦しみだした。
「さぁ名前を言うのです。これ以上苦しみたくはないでしょう」
「コ…ロス。コロス。この場にいる全員コロシテヤル」
悪霊は頭が割れそうな奇声を発した。
「これは避けられないだろう」
笑いながらそう言った。
天窓と上部のガラスが割れ、鋭い破片が俺たちを襲う。
みんなに降り注ぐ前に俺はそれを空中で止めた。
ガラスの破片を凶器に使われてはたまらないので、開いている天窓から外へと移動させた。
「怒りでオマエの力を忘れていた…」
壁を見たときに思い出したが、このいっぱい貼ってあるお札もしかしたら悪霊に効果があるのではないか?
試しに札を操り悪霊に向けて飛ばしてみる。
悪霊に当たった札が燃えだした。
「うぉーやめろー!」
「イチさん、そのまま続けてください」
「天つ風 祓いに祓え 悪さびた 魂清め 神の裁決」
リディアも続けて詠唱する。
「がぁーっ!おのれ~キサマラ」
弱ってる悪霊の姿を見て、今ならいけるのではないかと思った俺はテレパシーを使う。
「させるかっ!」
悪霊は俺にもう一度取り憑こうと体に入ってきた。
「うああああああっ!キサマっ!」
さっきのどさくさに紛れて、念のため自分の体に札を貼っておいたのが役に立った。札によって悪霊は燃えてもがいている。
「今のうちにテレパシーで…」
だんだんとわかってきた。
「…リー…ロー…」
もう少しでわかりそうだ。もっと念を込める。
「ヘンリー…ロール…」
「ヘンリーロール!リディアさん、こいつの名前はヘンリーロールだっ!」
リディアは懐から何も書かれていない札を取り出した。
その札で自分の指を切って血をだすと、血でその札にヘンリーロールと書き、手のひらにその札を貼り付ける。
「ではヘンリーロールよ、神のもとに行き裁きを受けなさい」
そう言うと、悪霊の頬に札の付いたままの手で思いきりビンタした。
パンッと乾いた音が響き渡る。
ビンタされた悪霊は光に包まれて上へと登って行った。
みんなでそれをしばらく見つめていた。
「ありがとうございます」イチは頭を下げた。
「いえいえ、無事に祓えてよかったです」リディアは微笑んだ。
それにしてもヘンリーロール…エミルンの母親だったのか。
じゃあバタフライマンの正体は…。
「ところで…大変申し上げにくいのですが…」
聖女の表情が少し曇る。
「なにかありましたか?」
バタフライマンの奴はこの上まだ何かしやがったのかと焦る。
「解呪代と、その…被害の弁償を含めまして、50万モンナシほどになってしまうのですが…よろしいでしょうか?」
「金の話しかい!しかも高い…」
バタフライマンの報酬が吹き飛んでしまった。




