12話 護衛任務 後編
ふと湖を見たときに水面に波紋が広がるのを発見した。
魚だろうか?…まさかと思うが念のため千里眼で見てみる。
目を閉じて意識を湖の底に集中する。
暗い上に藻が多くてよく見えないが。
いた…人がこちらを目指し泳いでくる。
数は5人。
昼間襲ってきた賊とは違い暗殺者みたいな奴らだ。
悪いがそのまま溺死してもらおう。
俺は5人に向けて両手を広げ、サイコキネシスを使い体の動きを止める。
千里眼を使いながら5人もの人を一斉に止め続けるのは思っていたよりもきつい。
「やべっ失敗した」
2人が拘束を解きそのまま泳いで岸についてしまった。
テレパシーでエマとエミルンに呼びかける。
「エマ!エミルン!起こしてすまないが襲撃だ。馬車から降りて俺の所に来てくれ」
サイコキネシス、千里眼、テレパシーの3つを同時に使い意識が飛びそうになるが、どうにか堪えた。
こうしている間にも迫る暗殺者が馬車にたどり着こうとした瞬間に、ドアが開いて2人が降りてきた。
千里眼でテレビのチャンネルを切り替えるように湖の中と、こちらの様子を切り替えながら見ている。
エマがこちらに駆け寄ってくる。
「エマ俺の腰にある短剣を使って時間を稼いでくれ、できるか?」
「お任せください」
エマは短剣を装備すると暗殺者と戦い始めた。
俺はその間に3人を湖の底に移動させ藻を操作し手足を縛り、
サイコキネシスと千里眼を解除した。
もう1人の暗殺者がエミルンに迫り、クナイがエミルンに向けて放たれる。
「お嬢様!」
そのクナイはエミルンの目の前で止まった。
「あぶねぇギリギリ間に合ったぜ…」
即座に止めたナイフを反転させ暗殺者に刺す。
ナイフが刺さったままの死体をエマと戦っている暗殺者にぶつける。
暗殺者に隙ができた。
エマはその隙を逃さず暗殺者を一撃で仕留めた。
「ふぅ…終わったかな…」
「2人とも大丈夫か?」
「はい平気です」
「イチ様助太刀感謝します」
「もう無理、へとへとだよ。ゆっくり休みたい」
「では今度はイチさんが…」
その時不気味な声が響き渡る。
「…さんぞ…わたさんぞ!」
「お父…様…どうして…」
「父親、じゃあヘンリー子爵本人か?」
「愚かな娘よ…遺産さえよこせば命だけは助かったものを…」
「イチさん私に決着をつけさせてください!」
「やれるのか?」
「はい」と力強く返事をするエミルン。
「お嬢様逞しくなられて」
「それは助かる。正直俺も限界なんでね」
「で、どうすればいい」
「お疲れのところ悪いのですが、今しばらく時間をください」
「時間稼ぎか…やってみるか」
エミルンは精神統一をはじめた。
俺はヘンリーとの会話を試みる。
「おいヘンリー金を一体何に使ってるんだ?」
「あのお方のために黒魔法の研究が必要なのだ」
一応会話はしてくれるようだ。
「あのお方…?誰のことだ」
「おまえが知る必要はない、だいたいおまえは何なのだ?高い金を払って雇った連中を全滅させおって!大損害だ!おかげで、わし自ら出向かねばならん羽目になるとは…しかしおまえのその力は一体何なのだ?魔法ではないようだが…」
「まあよい異能の力を使う正体不明の不気味な存在には消えてもらう」
「おいヘンリー金が必要なんだろ」
俺は銭袋から大判小判を取り出しヘンリーに向けて投げつけた。
「うおっ!やめろ」
手を左右に振り銭投げを払い落とす。
「なんのつもりか知らんが、その金はおまえらを始末した後で研究資金として使ってやるぞ」
「遠慮せずに今受け取れよ、迷惑料だぜ、ほらよっ!」
俺は最後の力を振り絞り、サイコキネシスで地面に落ちた大判小判を操ってヘンリーの顔にペチペチ当てた。
「お前の大好きなモンナシだぜ」
「うわっ。くそっ。辞めぬか愚弄しおって」
「天つ国 高き座より 天つ神 蝶のすがた しばしとどめむ」
「イチさん準備ができました」
「おあとがよろしいようで」
そう言って後はエミルンに託す。
「おじいさま力をお貸しください!」
そう言うとエミルンの白い蝶のペンダントが輝き出してでかい蝶へと変身した。
蝶はヘンリー子爵の方へヒラヒラと羽ばたいて行く。
ヘンリー子爵が蝶に対抗しようと詠唱している
「ぬばたまの 闇の世の黒 魔黒弾 冥府に染まれ 闇の咆哮」
ヘンリー子爵から黒い弾が数発、蝶に向けて放たれる。
しかし蝶はそれを大きな羽で弾きながら前進して行く。
「なにっ!?」
下がりながら再び詠唱して魔黒弾を蝶に放つが羽で弾かれる。
「ぬばた…ぬば…ぬっ…やっやめ…くっくるな!」
蝶に恐怖を感じたのか尻餅をつきながら後ろに下がる。
「ひぃやっやめ」
蝶はヘンリー子爵に取り憑くと巨大な羽でヘンリー子爵を包み込む。
そのまま繭へと変身してしまった。
「お父様…どうぞ安らかにお眠りください」
その言葉から察するにあの中のヘンリー子爵はもう…。
「終わったのか?」
「はい」
「悪いが俺はもう戦えそうにない」
「依頼されたご本人様が亡くなられたのです、もう襲撃の心配はないかと思います。馬車の中でごゆっくりお休みください」
「魔物も空気読んで出てこないでくれよ」
「ふふふっ」2人とも笑っていた。
いや笑いごとではないんだがな。
「じゃあ少し休むので着いたら起こしてくれ」
と言い俺は馬車に戻り気絶するように眠りについた。
寝ている時に唇に何か柔らかい感触を感じた気がした。
「…さん…イチさん…無事に着きましたよ」
「あっ…ああ…」
起きて腰を見たとき短剣と銭袋の中身が入っていた。
「わざわざ拾って戻してくれたのか。ありがたやありがたや」
やっとカラス伯爵の所まで来た。
ドアをノックすると、頭に緑色のネクタイを巻いたカラス伯爵自身が出迎えてくれた
なんで頭にネクタイをしてるんだ?
疑問に思った俺はエマに小声で聞いてみた。
「エマなんで伯爵は頭にネクタイを巻いてるんだ?」
「あれは正装ですよ、頭に巻いたネクタイの色は階級を表しているのです」
「えぇ…」
公爵→金色
侯爵→銀色
伯爵→緑色
子爵→黄色
男爵→赤色
という一目で判別できる目印的なものらしい。
「お久しぶりです。カラス伯爵」
「心配したよ、エミルン大丈夫かい?どこが怪我とかは?」
「お気遣いいただきありがとうございます。私たちは大丈夫です」
「それはよかった。いやぁ大きくなったね、前に見たときはまだ小さかったのに」
「そうですね、時が経つのは早いものです。カラス伯爵も相変わらずお元気そうで何よりです、それと私たちを護衛してくれた、尾飛乃イチさんです」
エミルンは答えながら、少し視線を落とした。
旅の疲れが見え隠れする。
「よろしく、尾飛乃イチくん。エミルンを守ってくれてありがとう」
カラス伯爵は頭に巻いたネクタイを少し直しながら、会釈した。
「これはご丁寧にありがとうございます。」
カラス伯爵はエミルンの方を向き、少し心配そうな表情を浮かべた。
「エミルン、君は少し疲れているように見えるが、大丈夫かい?」
エミルンは一瞬たじろぎ、視線を落としながら俯いた。
「はい...大丈夫です」と小さな声で答えた。
カラス伯爵は優しく続けた。
「ところでどうだろうこの街にいる間はうちで過ごすというのはどうかね?」
今まで俯いていたエミルンがこれを聞き顔を上げる。
「いえ…せっかくですけど遠慮しておきます」
エミルンがまた顔を伏せてしまった。
「そうか…ではせめて近くの街まで馬車で送らせてくれ」
「じゃあお言葉に甘えて」
カラス伯爵は馬車の準備をしてくれている。
少しの間沈黙が続いた後、エミルンは顔を上げてイチに向かって手を差し出した。
「イチさん、ありがとうございました」
「お疲れ様」と言って軽く握手するが…
こちらを見つめたまま、なかなか手を離さない
…
…
…
「お嬢様…お嬢様!」エマが呼びかけた。
「はっ…す…すいません」と言いつつ手を離した。
「ギルドマスターがイチ様を推した意味が分かる気がします」
とエマが小声で言った。
「あっあと依頼完了のサインもらえる?」
「はい」
「書き終わりました」
「おうありがとう」
受け取ろうと紙を引っ張る。
なかなかこちらに渡してはくれない。
「お嬢様…お嬢様!」エマが呼びかけた。
「あっ…ど…どうぞ」
「どうも、じゃあ俺はこれで」
「あのっ」と大きな声を掛けられ振り向く。
深々と頭を下げ「ありがとうございました」
「こちらこそありがとう」と言って馬車に乗った。




