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【完結】俺が連続殺人事件の犯人かもしれない  作者: ドネルケバブ佐藤


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第5話後編

完結まで毎日投稿してます

 


 取調べは三時間続いた。僕は知っている限りの情報をすべて話したが、刑事たちの反応は冷ややかだった。


 「山田さん」最後に森田刑事が言った。「あなたの話は興味深いですが、捜査に活用するのは困難です」


 「どうしてですか?」


 「記憶移植の真偽が確認できない。法的な証拠能力もない。そして何より……」刑事は言いよどんだ。


 「何より?」


 「あなた自身が犯人である可能性を否定できない」


 僕の血の気が引いた。


 「記憶が混乱しているという話ですが、それは隠蔽工作かもしれません」森田刑事は厳しい表情になった。「犯行を記憶移植のせいにして、責任逃れをしようとしている可能性もある」


 責任逃れ。そんなつもりはなかった。でも、客観的に見れば、そう思われても仕方ない状況だった。


 「私たちは、あなたを重要参考人として扱います」刑事が宣言した。「しばらくの間、行動を制限していただくことになるかもしれません」


 重要参考人。実質的に容疑者扱いだった。


 警察署を出ると、夜になっていた。街灯の下を歩きながら、僕は絶望感に包まれていた。


 警察に相談したところで、何も解決しなかった。記憶移植で得た情報は証拠にならず、逆に僕が犯人として疑われる結果になった。


 アパートに帰ると、留守番電話にメッセージが入っていた。森田刑事からだった。


『山田さん、明日も署まで来ていただけますか。追加でお聞きしたいことがあります』


 僕は脱力した。これから毎日、警察署に通わなければならないのか。犯人として疑われながら。


 でも、それよりも恐ろしいのは、自分自身への疑念だった。


 僕は本当に無実なのか?


 記憶移植の話は、すべて僕の妄想なのではないか? 実際は僕が犯人で、罪悪感から記憶移植という架空の話を作り上げているのではないか?


 鏡を見ると、そこには疑心暗鬼に陥った男の顔があった。犯人の顔なのか、被害者の顔なのか、もうわからない。


 その夜、僕は記憶屋に電話をした。


 「もしもし、山田です」


 「山田さん、どうされましたか?」店主の声は緊張していた。


 「警察に相談しました」


 電話の向こうで、息を呑む音が聞こえた。


 「そんな……なぜですか?」


 「僕が犯人かもしれないと思って」


 「とんでもない」店主は慌てて否定した。「山田さんは被害者です。記憶移植による被害者です」


 被害者。その言葉に、僕は救いを感じた。


 「でも、警察は信じてくれませんでした」


 「当然です」店主は苦い声で言った。「記憶移植はまだ新しい技術です。法的な整備も不十分で、社会的な理解も得られていない」


 「じゃあ、僕はどうすれば?」


 「沈黙を保つことです」店主の声は真剣だった。「これ以上警察に話しても、あなたが不利になるだけです」


 沈黙。でも、それは正しいことなのか?


 「でも、犯人が野放しになります」


 「それは警察の仕事です。あなたが背負う必要はありません」


 電話を切って、僕は考え込んだ。


 証言すべきか、沈黙すべきか。


 証言すれば、僕は犯人として疑われる。でも、沈黙すれば、真犯人が捕まらずに被害者が増え続ける。


 どちらを選んでも、苦痛は続く。


 翌日、僕は再び警察署に向かった。森田刑事との面談が続いていた。


 「山田さん、記憶屋について詳しく教えてください」


 刑事は記憶屋の実態を調べ始めていた。店の所在地、店主の身元、記憶の入手経路。


 「どこで犯罪記憶を入手しているのか、ご存知ですか?」


 「店主は匿名だと言っていました」


 「匿名の記憶提供者」刑事はメモを取った。「つまり、犯人が自分で記憶を売っている可能性もある」


 そこで、僕はハッとした。


 もしかすると、犯人は記憶を売ることで、捜査を撹乱しようとしているのではないか? 偽の情報を流して、警察を混乱させる。そして、僕のような記憶購入者を犯人として仕立て上げる。


 完全犯罪の新しい手法なのかもしれない。


 「刑事さん、僕は利用されているんじゃないでしょうか」


 僕は自分の推測を話した。犯人が記憶を売る真の目的、記憶購入者を犯人に仕立て上げる戦略。


 森田刑事は興味深そうに聞いていたが、最後に首を振った。


 「それも推測に過ぎません。証拠がない以上、何も立証できない」


 証拠がない。結局、すべてが推測と憶測の域を出ない。


 面談が終わって警察署を出ると、僕は街を歩いた。行き先もなく、ただ歩き続けた。


 途中、桜ヶ丘公園を通りかかった。田島由紀子さんが殺された場所だった。献花台には新しい花が供えられており、多くの人が手を合わせていた。


 僕もその列に加わった。田島さんの写真を見ながら、心の中で謝罪した。


 あなたの死を、僕は娯楽として消費しました。申し訳ありません。


 でも、謝罪したところで、何が変わるわけでもない。彼女は帰ってこないし、僕の罪は消えない。


 夕方、アパートに帰ると、田中が待っていた。


 「太郎、大丈夫か? 昨日から連絡がつかなくて」


 田中の心配そうな顔を見て、僕は涙が出そうになった。彼だけが、僕を信じてくれる唯一の人だった。


 「ちょっと、トラブルがあって」


 「トラブル?」


 僕は警察沙汰になったことを簡単に説明した。もちろん、記憶移植のことは隠して。


 「事件の参考人として呼ばれてるんだ」


 「参考人? なんで太郎が?」


 「よくわからないけど、しばらく続きそう」


 田中は心配そうに僕を見つめた。


 「太郎、何か隠してないか?」


 鋭い指摘だった。田中の直感は昔から当たる。


 「隠してることなんて……」


 「嘘だ」田中はきっぱり言った。「太郎の嘘は、すぐわかる」


 僕は観念した。田中になら、真実を話してもいいかもしれない。


 「実は……」


 僕は記憶屋のこと、記憶移植のこと、犯罪記憶を購入したことを正直に話した。田中は最初驚いていたが、最後まで黙って聞いてくれた。


 「つまり、太郎は他人の記憶を体験したって?」


 「そうです」


 「そんなことが可能なのか?」


 「最新の脳科学技術です」


 田中は長い間考え込んでいた。そして、ゆっくりと口を開いた。


 「太郎、それって詐欺じゃないのか?」


 詐欺。その可能性を考えたことがなかった。


 「記憶移植なんて、本当にできるのか? もしかして、太郎は騙されてるんじゃないか?」


 田中の指摘は的確だった。僕は記憶移植を体験したと思っているが、それが本当に記憶移植なのか確証はない。単なる催眠術や暗示かもしれない。


 「でも、鮮明に記憶してるんだ」


 「催眠術でも、鮮明な疑似体験はできるらしいぞ」田中は続けた。「テレビでやってた」


 催眠術。確かに、記憶移植と似たような効果を生み出すことは可能かもしれない。


 「だとすると……」


 「太郎は詐欺の被害者だ」田中は断言した。「犯罪記憶なんて嘘で、実際は催眠術で偽の記憶を植え付けられただけかもしれない」


 偽の記憶。でも、あまりにもリアルすぎる。


 「じゃあ、事件の詳細は?」


 「報道された情報を元に、催眠術で疑似体験させたんじゃないか?」


 田中の推理は論理的だった。記憶移植よりも、催眠術による偽記憶の方が技術的にも現実的だった。


 「でも、なんでそんなことを?」


 「金儲けだろ」田中は苦々しく言った。「高額な料金を取って、偽の記憶を売りつける。完全な詐欺だ」


 詐欺。僕は数百万円を騙し取られたことになる。


 でも、同時に安堵も感じた。もし田中の推理が正しければ、僕は犯人ではない。単なる詐欺の被害者だ。


 「警察にも、そう説明すればいい」田中は励ました。「詐欺被害だって」


 「でも、証明できるかな?」


 「記憶屋を調べれば、すぐわかるだろ」


 その夜、僕は田中の推理について考え続けた。記憶移植は嘘で、すべて催眠術による詐欺だった。そう考えれば、すべての矛盾が説明できる。


 でも、一つだけわからないことがあった。


 なぜ、僕の体型や年齢が犯人の目撃情報と一致するのか?


 それは偶然なのか? それとも……


 答えは出なかった。ただ、証言か沈黙かの選択だけが残っていた。


 明日、森田刑事に何を話すべきか。


 真実を話すべきか、それとも黙っているべきか。


 僕の決断が、事件の行方を左右するかもしれなかった。

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