第八話 質問
「その話を聞いてあたしたちに何か徳でもあるわけ?」
「あいつの昔話を聞きたいのかなって思ってたんだけど」
「その話ならまー君から聞いたことあるわ。あんたがまー君をビビらせるためにいろいろと仕込んでたって話でしょ。友達を驚かすためによくそこまでできるわよね。ちょっと引くわ」
「仕込んではいないんだけど。今の俺だってそんなことできないし」
「手の込んだイタズラとかよくそこまでやるよね。イザベラちゃんもそう思うでしょ?」
「うん、私もちょっとやりすぎかなって思うところはあるけど、それだけまー君のことを考えてたってことだもんね。良いか悪いかは別として、そこまで真剣に考えてるってすごいことだと思うよ」
「別にしちゃダメでしょ」
幽霊が俺の部屋に入ってきて色々あったのだが、その話を最後まで聞いてもらえる雰囲気ではなくなった。俺の中ですごく重要な変化が起きた出来事だったのだけど、二人は全く興味がないようだ。イザベラちゃんは少し興味を持っているようなそぶりを見せてくれているのだけど、麻奈ちゃんは完全に興味なんてないといった感じで俺の視線を避けるように髪の毛で顔を隠していた。
「麻奈ちゃんって、お化けとか怖いタイプだったっけ?」
「怖いタイプって、そんな区分はないと思うよ。普通に考えてみたらお化けなんて怖いに決まってるでしょ。お化けがいるって前提だけど、イザベラちゃんはお化けって見たことあるの?」
「有るような無いような、どっちとも言いにくいのは見たことがあるよ。日本じゃない場所だけど」
「ああ、あっちの話ね。それだったらいるかもしれないね。でも、日本にはお化けとかいないと思うよ。こっちで見たことはないんだよね?」
そんな話をしている二人の会話に俺が混ざることはできず、何度目かの確認をしてみても俺のスマホには一軒も通知がきていなかった。仕方なく今日起こったニュースでも見てみようかと思いながら適当に指を動かしていると、少しだけ気になるニュースが目に入ってきた。
東京に出現した巨大な飛行物体から次々と大型の翼竜が飛び出してきて周囲を警戒していた戦闘機と交戦状態になったようだ。その戦闘の様子は一般では公開されていないのだが、誰かが撮影した映像がSNSを通じて世界中に配信されていた。
戦闘機についての知識がないので詳しいことはわからないのだが、編隊を組んで飛行している戦闘機が次々と翼竜を撃破している姿が印象的だった。翼竜よりも機動力があるのか戦闘機は全くの無傷で一方的に蹂躙しているという言葉でしか言い表せないような状況だった。
俺が見ていた映像が現実のものなのか作られたものなのか判断はできないのだが、あまりにも一方的すぎるこの状況は逆に不自然すぎて真実なのかもしれないと思わせる力がった。仮に俺があのような映像を作るのであれば、何機かは撃墜させているような気がしていた。
そんな動画を見ていると、あいつから短いメッセージが届いた。
「もう少し待っててくれ。事態が急変しそうだ」
俺はメッセージが来たことを麻奈ちゃんに悟られないようにそっと返信をしたのだが、麻奈ちゃんは顔を隠している髪の毛の隙間から俺を睨んでいるような気がした。達人とかではない俺でも感じてしまうくらいの殺気が麻奈ちゃんから俺に向けられていたのだ。
どうやってこの状況を好転させようかと考えてはいたのだけれど、俺には今からこの状況を変えるアイデアなんて出てこない。俺じゃなくてもそんなアイデアは出せないだろう。
俺の立場があいつだったら話は変わってくるのかもしれないが、そもそもあいつであればこんな状況にはなっていないだろう。俺だからこんな状況になったともいえるし、あいつであればこんな状況になる前にすべていい方向へ向かっているともいえる。
どちらにせよ、俺とあいつでは同じ世界に住んでいるはずなのに別の世界に住んでいると思えるくらいに周りの態度も起きている現象も違うのだ。
それは別に俺にとって悪いこととは言い切れないのだが、良いこととも言い切れないのがもどかしい。
そんなことを考えていると、俺たち三人のスマホが同時に聞きなれた警告音を出して視線を画面に集中させた。
世界各地に出現していた飛行物体が同時刻に爆発。
攻撃によるものか飛行物体の自爆かは不明。
爆発は広範囲におよび各地に甚大な被害をもたらしているもよう。
なお、東京に出現していた飛行物体は無力化していたため一切の被害なし。
「なんかすごい事になってるね。あんまり興味なかったから調べてなかったけど、東京以外にも空に浮かんでたんだ」
「誰が何の目的でやったのかわからないけど、爆発させるなんていい迷惑だよね」
「本当にそうだよね。でも、日本は無事でまだ良かったよね。まー君のおかげだね」
「まったくだよね。そろそろまー君が戻ってくるんじゃないかな?」
「かもしれないね。じゃあ、ちょっとあたしはお手洗いに行ってくるよ。あたしが戻ってくる前にまー君がきても先に帰っちゃだめだからね」
「わかってるって。ちゃんと引き留めておくからゆっくりしてきなよ」
やや駆け足で教室を出て行った麻奈ちゃんの姿を目で追っていた俺が視線を元に戻すと、俺の目の前にイザベラちゃんがやってきていた。
全くそんな気配は感じさせなかったので心底驚いてしまったが、そんなことは顔にも声にも出してはいなかったと思う。
「ねえ、前田君に聞きたいことがあるんだけど、質問してもいいかな?」
イザベラちゃんの質問に対して拒否をすることはできない。
そんな空気感を肌で感じていた。




